迷宮学院の落ちこぼれを演じている俺、うっかり超人気ダンジョン配信者の美少女に真の実力がバレてしまう ~推しの命を助けた結果、全力で恩返しされることになりました~
古湊ナゴ
プロローグ
『――みんな、おはアッカー! アカネだよーっ! 今日も元気に、早朝ダンジョン攻略配信やってくよっ!』
スマホの画面上で、赤髪の美少女が元気いっぱいに挨拶をしていた。
彼女の名前は、アカネ。
チャンネル登録者数400万人越えの、超人気ダンジョン配信者である。
『今回はね、河西区のC級ダンジョンにお邪魔してまーすっ! このダンジョンの深層で、珍しい未界石がいっぱい採れるんだって!』
――世界各地にダンジョンと呼ばれる未知の迷宮が誕生してから、約二十年。
そんなダンジョンの謎を解明すべく、日本ではプロの探索者制度が採用されていた。
このアカネという少女は、プロの探索者としてダンジョン攻略をしながら、その様子をこうして動画サイト上で配信しているのだ。
『おっ、さっそく魔物発見! あれは……レッドスライムかな? それじゃあ、みんなにアカネのカッコいいとこ見せちゃおっかな――っと!!』
配信画面に、赤いゼリー状の魔物――レッドスライムが映り込んだ。
アカネは背負っていた大剣を振り回して、あっさりとスライムの身体を両断してみせる。
すると彼女は、にこっと愛らしい笑顔を浮かべてピースをした。
『えへへっ。どう、すごいでしょ! アカネだってもうB級の探索者なんだから、レッドスライムなんて敵じゃないんだよ?』
えへん、と胸を張るアカネ。
そんなアカネの勇ましい攻撃と発言に、コメント欄は大盛り上がりだった。
同時接続者数は15万人以上。朝七時とは思えないほどの熱狂ぶりである。
『あっ、今ヘンなコメントした人いたでしょー? 服だけ溶かすスライムがナントカってやつ! もーっ、センシティブなのはダメだって、アカネはいつも――』
軽快なトークを交えながら、順調にダンジョンを攻略していくアカネ。
視聴者たちのコメントも、わいわいと賑やかに飛び交っていて。
ダンジョン攻略とは、こんなにも楽しいものなんだ――と、そう言わんばかりの配信内容だった。
だが、俺――黒坂悠月にとっては。
ダンジョンなど、憎悪の対象だった。
「……はあ。そろそろ準備しないとな」
俺はため息をつきながら、スマホごとアカネの配信を切る。
それから制服を着て、迷宮学院へと向かう用意をした。
迷宮学院とは、文字通り、ダンジョンについて学ぶための施設である。
プロの探索者となって迷宮探索の免許を獲得するには、厳しい試験に合格しなくてはならない。
そんな試験の突破を目指す生徒たちが、迷宮学院に通っているのだ。
「じゃ、行ってくるよ。母さん」
母さんの遺影に声をかけてから、俺は紫色の刀を背負う。
そして、ゆっくりと通学路を歩きはじめた。
今日もまた、憂鬱な一日がはじまる。
ふだんと何も変わらない、いつも通りの窮屈な日常を俺は過ごすことになるのだろう。
と、そんなふうに。
このときの俺は、思い込んでいたんだ――。
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