第2話 瞳の先に映るもの。
妙な気分だった。
見慣れた日常の世界が、どこか違う遠い世界のように感じた。
それは普段と変わりばえしない店先の看板だったり、交差点で流れる童謡だったりと──それらすべてが、まるで夢の中の光景みたいに思えた。
気付いたとき、真っ先に視界に飛び込んできたのは、フロントガラスがひび割れた白い乗用車だった。
それと女の子がひとり──。
Tシャツにデニムのショートパンツ。花柄のサンダルの片方が見るも無惨な姿で道路脇に転がって──女の子自身が丸まったネコみたいにアスファルトの白線上に横たわり、ピクリともせず、その姿はまるで死んでるかのようにみえた。
「──お、女の子が轢かれたぞっ!」
この時、近くの歩道にサラリーマン風のおっさん……じゃなくて、オジ様が大声を出して叫んでた。
「ま、マジっ! 超ヤバっ!」
それにマジうるせえギャルどもが……いえ、メイク盛り盛りケバい女子高生数人がスマホ片手にワイワイ騒いでた。
「──って、誰か警察っ!」
「早く救急車を──」
駅前のスクランブル交差点。
たった今この場所で、自動車と横断中の歩行者による接触事故が起こった。だから周囲が大騒ぎしている。
ただそれだけ。
日常の世界では度々起こりえることだ。特に珍しくもない。
けど、今の自分──わたしは、日常とは異なる〝非〟日常の世界にいる。
だって、その事故にあった歩行者、女子高生って──、
──〝わたし〟だった、ハズだから……。
じゃあ、今自分と認識している、わたしは、一体何者なんだろ?
──というか、もしかして、わたし、
死んじゃった……とか?
とりあえず足元に転がる、自分と思しき顔をマジマジと眺めてみた。けど、何度見ても、どこをどう見ても、その見慣れたジミ顔は──わたしだ。
ちなみに事故の衝撃で外れたのか、愛用の黒縁メガネは割れて地面に転がっていたりするが、今こうして立っている自分はしっかりとメガネを着用。着衣もそのままなので一安心だ。
けれど、今の身体は半透明というか、うっすらと透けていた。そのせいか靴元が地面から数センチ、宙に浮いていたりする。それにあのじめじめとした夏の暑さが肌で感じられない。
まるで全身を包み込むありとあらゆる感覚を失っているみたい──。
──うぐっ、ひっく、うっう……。
けど、涙腺は普通に緩んだ。
──、
ひらり。
──え?
その時、一枚の光のカケラが、わたしの
わたしは自然と空を見上げてみる。
──わぁあ……。
すると、遥か頭上、空一面、眩い光を浴びた無数の羽根が舞い広がっていた。それらすべてを照らすかのよう、キラキラと光の粒子が降り注ぎ──、
──なんて、綺麗……。
この瞬間、わたしはすべてを忘れていた。
自分が死んだ、という事実。
それさえ頭の中から消え去っている。
それほど、今が美しかったから……。
そしてこの時。
バサッ──。
──〝何か〟がわたしのもとに、ゆっくりと舞い降りてきた。
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