第6話家に帰宅しました

 



 一週間と一日ぶりの帰宅ね。


 自宅であるカルディアリアム伯爵家を前に、ふぅ、と一つため息を吐く。

 なんで私が自分の自宅に帰るだけなのに、こんなに憂鬱な気分にならないといけないのかしら。全部あの無能男と浮気女の所為だわ、さっさとケリをつけよう。


 そう思って屋敷の中に入ると、一週間ぶりに見る私の姿に、使用人達が一斉に驚き、私を横目にざわざわと騒ぎ出した。


 この家の夫人が帰って来たと言うのに誰も出迎えないとは、本当に舐められたものです。


「お帰りなさいませ奥様」

「ただ今ジェームズ」


 出迎えてくれたのはジェームズだけ。私はジェームズに上着を渡すと、他の使用人達を気にもとめず、中に歩き出した。


「首尾はどう? 頼んでいたものは順調かしら?」


「はい、滞りなく済ましております」


「そう、ありがとう」


 流石はジェームズ、父の代からの優秀な執事ですものね。

 私の味方をする所為でローレイから睨まれ、ろくな仕事も与えられず飼い殺しにされていますが、それが仇になりましたね旦那様。おかげさまで、ジェームズは自由に動き回れることが出来ました。優秀な人間を自分の好き嫌いで判別する無能な旦那様に相応しい失態です。


「奥様は無事に会社を取り戻したようで、おめでとうございます」


「出て行く前に言ったでしょう? 余裕だって」


 会社の権利は初めから私にあるんだから、ローレイに阻む権利なんて無い。


「そうなのですが、あの泣いてばかりいたお嬢様がこんなに立派になられたと思うと、このジェームズ、感動で涙が止まらず……!」


 我が子の成長を喜ぶ父親みたいな心境ですか? そうよね、ジェームズはずっと、私を見捨てずに傍にいてくれたものね。

 カロンといいジェームズといい、こんなに素敵な人達が私の傍にいてくれて良かった。そして、失う前に前世を思い出せて良かった。もう少し記憶を思い出すのが遅ければ、カロンもジェームズも、私の傍から離れていたかもしれないものね。失わずに済んで良かったわ。


「――おい! フィオナ!」


 階段の上から聞こえた怒鳴り声の主は、私を見つけると、急ぎ足で階段を下りた。

 想像していたより随分お早いお出ましだこと。私の帰りを待ちわびていたのしかしら? 心配して、というワケでは無いみたいですけど。


「どうしましたローレイ? 何やらご機嫌が悪いみたいですね」


「お前っ! よくもぬけぬけと!」


 大きな足音を立てて、こちらにズカズカと近寄るローレイ。もっと上品に歩けないのかしら? まさな大きな音を立てれば、私がビビるとでも思ってるのかしら? 浅はかな男。


「俺の会社を引っ掻き回したようだな!?」


「カルディアリアム伯爵家が所有する会社は私の物です。貴方の物じゃありません」


「何を言っている!? ロクに経営も出来ない分際で! お前なんかが会社の権利を持っていても意味を成さないから、この俺が、会社を経営してやっていたんだ!」


「……ぷっ、会社を経営してやっていた? 貴方何様なの? あんな無様な経営しておいて」


「なんだと!」


 あまりにも面白いことを言うから、思わず吹き出してしまったじゃない。


「カルディアリアム伯爵家が所有していた会社は、貴方が経営者の真似事をしている間に、赤字に転落しました。それでよく経営してやっていたなんて大口が叩けますね? 恥ずかしくないんですか?」


 あんな馬鹿みたいな経営方針打ち出して、馬鹿な友達を雇って好き勝手させて、会社を赤字にさせて、よくそんなに堂々と、経営してます! なんて胸張って言えるよね。私なら恥ずかしくて穴掘って一生出て来れないわ。


「ふ、ふざけるな! 俺にそんな口を利いて良いと思ってるのか!?」


「はい、残念ながら、尊敬に値しない人に対する礼節は持ち合わせていないので」


「お前っ!」


「失礼過ぎました? じゃあ謝っときますね、ごめんなさい」


 私の軽口に顔を真っ赤にさせて怒っている旦那様。ああ、おっかし。


「酷いですフィオナ様! 私の友達を皆、解雇にするだなんて!」


 お、尻軽な浮気女も参戦ですか。


「ローレイ様の許可も取らずに勝手なことするなんて、許されることではありません!」


 さっきまでの話を聞いて無かったのかな? 一応ローレイの隣にいたよね、貴女。その顔に付いてる耳はただの飾りなのかなー?


「私の会社だって言ってんでしょ。二度同じこと言わせないで」


「っ!」


 私が睨み付けると、浮気女のキャサリンは目に涙を貯めながら、ローレイに抱き着いた。


「ローレイ様、フィオナ様が私を虐めます! 私、何も悪いことしていないのに……」


「ああ、泣かないでくれキャサリン、可哀想に! 涙を拭いておくれ。君に涙は似合わない、君に似合うのは、眩い笑顔だ」


「ローレイ様……!」


 うっざいなー何この安っぽい恋愛劇。私これに付き合わなきゃ駄目なの? 地獄じゃん。


「フィオナ!」


「はいはい」


「俺はキャサリンを虐めたお前を許さない! キャサリンとの真実の愛を貫くために、お前は邪魔なんだ!」


「はぁ」


「よって、俺は今日、決心した! 今こそお前のような性根の腐った根暗な妻から解放され、本当に愛する者と結ばれると!」


「はぁ」


「俺達の愛を邪魔することなど、誰にも出来ないんだ!」


 もういいよ、早く要件行こう。


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