第7話 私の好きな色。

――美里は、赤色が好きだね、と彼が言って、私は初めて自分の好きな色を知った。


 ぐしゃ、と音を立てて、魔物が地に伏した。地面に赤黒い血溜まりができてゆくのを見て、美里は、自分が何の感情も湧かないことに少しだけ驚いた。


「この辺の魔物は、あらかた倒したかな」


 慣れた手つきで、剣についた血をマントで拭いながら、松本が言った。

 最初は、レベル1からの出発だったが、テニスとゲームが趣味だという松本は、あっと言う間にレベル50を超えた。

 魔法使いの美里は、既に上限であるレベル99に達している。

 それでも、美里の顔色は浮かない。

 以前、魔王城に夫である生男と挑んだ時、美里と生男の合計レベルは160を超えていた。今のまま魔王城へ挑むには、まだ足りない。 


――彼は、水色が好きだと言った。でも、彼が選ぶのは、いつも赤色だった。


「ここよ……」


 美里が暗い表情で見つめる先に、禍々しい闇の気を放つ魔王城が聳え立っている。

 なかなか一歩を踏み出せずにいる美里の背後から、小さな足音が聞こえて振り返った。


生美いくみ! どうしてここに?!」

 

 祖父母の家へ預けていた筈の七歳になる娘が、決死の覚悟で立っている。


「私だって、パパに会いたい。ママに内緒で、特訓してたの。レベル49よ」 


 生美は、回復呪文を唱えた。すると、美里と松本のHPとMPが全回復した。

 驚いた顔で娘を見る美里の目から涙が零れた。

 松本が言った。


「一緒に行こう」


――彼がいなくなって、私の中から〝色〟が消えた。


 暗い陰鬱いんうつな廊下を三人は、駆けた。

 魔物の数は、多くはなかったが、一体一体のレベルは、これまでの比ではなかった。

 松本が剣で攻撃し、美里が補助魔法を使って支援する。

 二人が傷を負えば、生美が回復呪文を使った。

 これならいける……そう思った。


――私の好きな色は…………あなただった。


 魔王の座す広間に着いた美里は、驚愕の色を浮かべた。


「どうして……」


 その魔王は、三高みたか 生男いくおそっくりの顔をしていた。

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