戦星~いくさぼし~

グッチェル

第1話  牡羊



ズズズ……


朝、目が覚めてから飲むコーヒー

窓から差し込む日の光、

いつもと何ら変わりの無い新聞記事


マトン「最ッ高だな!」


ビッチリとスーツを着て、

髪にジェルをつけバチバチに決める


マトン「ハニー、行ってくるよ!」


メリー「あ!ちょっと待って!」


玄関で立ち止まり振り向く

ハニーがキッチンから

いそいそと早歩きでこちらに向かってくる


メリー「行ってらっしゃいマイダディ」


顔を近付け私を見つめる


メリー「ん」


マトン「ん?……あぁ、そうだったね

       行ってくるよマイハニー」


彼女と熱いキスと包容を交わし家を後にする


なんせ私は今日、夢である英雄となる、

そうでなければ死ぬだろう


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私の幼き頃はあまりにも臆病だった…



田舎であった私の地元は夜は真っ暗で

トイレに行くときでさえ

母が居なければ行けず

漏らしてしまうことがあった程だ


そんな私を、ここまで漢らしくしてくれたのは、

とある事件とそれを助けてくれた"彼"の

存在が大きいだろう



マトン(幼)「ん……?ゲホッ…ゲホ…な…に」


眠っていた私を起こしたのは、

溶けるような熱さとむせ返る煙たさだった



「火事だー!!」


マトン(幼)「火…事?」


寝起きの回らぬ頭で必死に

どこが燃えているのか見回す



…………私の家だ



それが分かると同時、逃げ出した

 


村の皆が私の家の周りに集まっている


「マトンが出てきたぞ!」


そう誰かが言って私を擁護してくれた

家は私が思っていた以上に燃え上がっており

所によっては崩れ始めている


「大丈夫だったかい?」

「怪我はないか?」


そんなことを質問されている間に

私はあることに気付く…



母や、弟たちはいる……

しかし祖母がいないのだ

足が悪く一人ではとても歩けない

そんな祖母が家に取り残されてしまったようだ


マトン「…おばあちゃんは?」



「なに?!家に取り残されたのか!」

「しかしどうする!

 あんな状況で入っても、どうしようもない!」

「しかし見捨てるわけにもいかんだろう!」

「無理なものは無理だ!」



口々に言い合っている村の皆を見て

私はある言葉を思い出した


("as well be hanged for a sheep as a lamb")



他国から来たと伝えられる言葉

意味は"どうせやるならとことんやれ"

夢である英雄、ここしかないと思った

やってやる!!



気づいたときには走り出していた


「おい!マトン!」


(怖い怖い怖い!死にたくない!)


走りながら何度もそう思った

しかし、英雄になって死ねるのなら

それも構わないとさせも思えてしまった



火の海となった自分の家に飛び込むと

さきほども感じた熱さが再び身に染みる

呼吸が辛い、視界も悪い

しかし、ここに何年も住んでいたんだ

勘でも祖母の部屋へ行くことくらい

なんとでもなる


今思うと、あのときの私は

無知なんだと痛感する

本来、消防団員はこういった事態では

自身に火が移らぬよう、水を被ったり

専用の防具を着たりする


だが、私はそういったことは一切していない

最悪の場合、焼け死ぬだろう


無事に祖母の部屋へ着くことが出来た

ドアを引いてみるが開かない…

蝶番が焼け溶けうまく動かないのだろう


近くにある道具でドアの破壊を試みる


しかし……子供の力では限界がある

ましてや、煙の中なにも装備せずに

無防備にも飛び出したのだ


マトン(頭がボーッとする……)


もうだめだと思い立ち尽くしてしまった


そんなとき、背後から声がした


「いたぞ!マトンだ!」



こちらに走ってくる人は、

隣人で私の面倒をよく見てくれていた

ラム兄さんだ



ラム「ここがばぁさんの部屋かい?」


マトン「う…うん」


ラム「こっちだ!ここをぶち破れ!」


「あいよ!」


消防団員達が道具を持って扉を破壊する


ラム「マトン、これを着けな」


自分の防煙マスクを外し渡してくれた


「ばぁさんも無事だ!」


ラム「外に出るぞ!」


ラム兄さんが私を抱き抱え

煙幕の中を駆け進む


煙を吸いすぎてしまったからなのか

それとも、ラム兄さんに

抱えられ安心してしまったのか

意識が少し遠くなる


その後の事はぼんやりとしか覚えていない


なんとか外に出たあと

家族が駆け寄ってきて

「よかったよかった」と安心していた

ような気がする



意識がはっきりし始めた頃には

家は鎮火し、

集まっていた村の皆はほとんど帰り

消防団も後処理を始めていた


すると、ラム兄さんに呼ばれた


ラム「マトン……自分が

   なにしたかわかってるか?」


マトン「う、」



明らかに苛立っている

ラム兄さんは、

ストレスが貯まると爪で指の腹を押す癖がある

そのせいで右手の人差し指から血を流していた


実際、私がやったことは正しい行為とは言えない


私が過ちを受け入れ謝ろうとしたとき


マトン「ごめんなさ____」


ラム兄さんが、私を抱き締めてくれた


ラム「お前が無事でよかった……

   世話んなったばぁさんの危機なのに

    俺たち消防団員は動けずにいた…

 でもお前は、誰よりも早く動き助けに向かった

 そのお陰で最悪の事態を免れる事ができた…

   突き進んでくれて、無事でいてくれて

       ありがとう!」


マトン「でも僕は迷惑かけて…」


ラム「迷惑なんかじゃないさ

   本来は俺たちが一番に

    動かなきゃいけねぇのに…

    お前に背中を押されたよ」


マトン「それって……」


ラム「あぁ、お前はこの村で一番勇敢な____」



このときの言葉は

今でも私の支えだな


ラム「英雄になる男だ!」



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過去に想いを馳せるのはここら辺にしておこう


一歩、また一歩と目的地へと足を進める


ナレーション「第一回戦!

   西口から出でたるはこいつだぁ~!!

        牡羊代表!!

      マト~~ン!!!」


マトン「さて、始めるか!」





~つづく~



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