第10話 売れない作家、人気配信者とコラボする

 そしてコラボ当日を迎える。


 場所は前回と同じく航空記念公園ダンジョン。



「きゃっほ~い」



 はしゃぐ美波に引っ張られ連れられる俺。



「おい落ち着け……ん?」



 入った瞬間感じる違和……なんだ? 雰囲気が変わったのか?



「かなりの大盛況だな。イベントでもあるのか? フェスのような雰囲気だぞ」



 なかなか手練れの冒険者や一般客も入り乱れているなんて中々ないぞ?


 聞かれた美波は呆れた顔だ。



「わかんないの? 無自覚~」



 美波は笑いながら脇腹を突いてくる。



「ハルルさん曰く一人で老トレントをを倒し、自治厨としてウザがられていたジャスティスさんも圧倒したカイ兄を見たい人が大勢いるんだぞ」

「あの人ウザがられていたのか? いい人なんだろうけども、たしかに四六時中あのノリじゃ面倒くさそうだな――って俺?」



 老トレント倒したくらいだぞ、円佳だって片手で出来るぞ。


 美波は呆れた顔でずっと俺を見ている。



「ぶっちゃけ強い弱い関係無しにしても、盾だけの男ってやっぱ目立つって」

「そうか?」

「そうよ」

「……そうか」



 俺は即答されて困惑する。アシスタントとして生き残るための手段としての最適解だろうし、俺以外にもいそうなものなんだが……やはり時代遅れなのか?



「なぜカイ兄は盾だけに特化した人間になったのか気になるけど……その辺は動画で撮ろう、ね」

「動画で語るほどではないんだが……」



 美波にせっつかれた俺はまずいったん市営の図書館で着替えるよう言われた。


 今日俺いつものフードじゃなくてサラリーマンきれいなスーツを指定してきた。



「スーツで来てフード付きパーカーに着替えろって普通の逆じゃないのか」



 逆漫才師な行為に疑問を抱くも、その理由はすぐにわかった。



「おい」「あれって?」



 俺が図書館をフードの姿で出た瞬間、周囲がざわめく。



(ああ、そうかそういうことか……こっちが俺の正装なんだな)



 みんな例の盾男=フードにマスクの姿という認識のようだ。逆に目立たず騒がれずに済むというわけか。


 好奇の視線を浴び続け。背筋がかゆくなる感覚を覚えながら、待ち合わせ場所に向かう。



「確かベンチの所とか言って――あ」



 場所はすぐに分った……分かってしまった。


 ――ザワザワ


 黒山の人だかり、その中心に美波とハルルさんがいた。


 すでに装備も身につけ準備万端、据え置きのカメラの前で撮影を始めていた。



「――って経緯があったんですよ~」

「はい、それで僭越ながら初コラボをと相成りました! ハルルさんの初体験もらっちゃいました~!」

「ミナミンちゃん言い方っ! でも話しやすくて助かる~」

「えへへ、よく言われます」

「謙遜しないとこも面白い。初コラボで緊張してきたからさ」

「おっと? 緊張してるのはぁ……初コラボってだけじゃないですよねぇ」

「え、え? もう、ミナミンちゃん」




(この華やかな中に入れというのか……結構な苦行なんだけど)




 困り顔で躊躇する俺。


 それに気がついた美波がこっち来いと手招きしてくる。やめてくれよ……



「……はよコイ! んもう!」



 しびれを切らした美波は俺を指さし格闘技系MCが如く叫び出した。



「それでは! 本日のメインゲストの登場だぁ!」



 一斉に俺の方向く視線。全員フード姿の奇妙な男に奇異の眼差しを向けだした。



「いた盾男……何か雰囲気あるなぁ」

「盾ニキだ!」

「カイ兄! ミナミンを俺に下さい」



 変な盛り上がりに変な観客……人生で一度も有名人になったことが無いからどこ見てりゃいいか分かりゃしない。



(どうせなら、ベストセラー作家として脚光浴びたかったなぁ)



 そんな益体無いことを考えながら人だかりの中心へ。


 ハルルさんは何故か俺を直立不動で出迎えていた。



「あ、どうも」

「ど、どうもっ!」

「……」

「……」

「……んん?」



 先ほどまでの饒舌はどこへやら、俺とハルルさんの会話はすぐに止まってしまう。コラボ打診された側だから何すりゃ良いのか分からないし。


 そんな俺らを見かねた美波が叱責する。



「ちょ、二人とも何緊張してるの? カイ兄もトークトーク!」

「おいおい、何の話していいか分かんないんだよ」

「話題なんて絞り出しなよ、例えば天気の話とか昨日何食べたかとかさぁ」

「おま、それ、最終手段にもほどがあるぞ」



「いえ、ミナミン殿の言うとおり、天気や食事の話題はバカに出来ませんぞ」

「……」

「当たり障りの無い会話をジャブと捉えて! 左を制する者はボクシングを制するよろしく! さぁレッツトークですぞ!」

「あの……」

「ん~私の事はお気になさらずっ!」



 俺は会話に割り込んできた真面目顔メガネ男――松尾さんを指さした。



「なんで松尾さんも一緒に居るんですか?」



 彼はフンスと鼻息荒くしている。



「水くさいですぞカイ兄! 一緒にジャスティス死闘を繰り広げた仲ではないですか!」

 自治系ダンジョン配信者、ジャスティス松尾さんは俺たちの前でその理由をハルルさんは代わりに答えてくれる。



「あの後、カイ兄さんの戦いに感銘を受けたそうで、是非私たちの初コラボを手伝いたいという要望がありまして、今カメラアシスタントやってもらってるんです」

「感銘を受けたお二人の初コラボに携われる! くぅ感無量ですぞ!」

「……良かったね松尾さん」

「YES! justice!」



 何を持ってジャスティスなのかは知らないけれど嬉しそうだからまぁいいか。



(この前みたいな絡まれ方されない分まだ楽でいい――)



「おっとカイ兄! もう少し笑顔でお願いします。いつもの5倍はニッコリして……拙者がお手本を見せましょう! ゥー! こんな感じで――」



 いや、これはこれでウザいな。


 しかし彼を見てハルルさんの緊張が少しほぐれてきたようだ。



(アシスタント時代の俺も円佳とこんなやり取りしてたっけか? ……いや、ここまでウザくはやってなかったと思うんだけど)



 軽妙なやり取りに定評があったと言われた事もあったが、こんな感じじゃ無かった……ハズ!


 なんか鍵をかけ忘れたような奇妙な不安が胸に広がる俺にハルルさんが尋ねてきた。



「えっと、色々聞きたいことがあるんですけど……よろしいですか?」

「もちろん! よろしいです!」

「無論ですぞ!」



 揚々と返事したのは美波と松尾さん……本人の意向はガン無視である。



「では、はい!」

「はいハルルさんどうぞ!」



 この流れに乗ってハルルさんは挙手、美波が指名というミニコントをはさみ彼女は俺に尋ねてきた。



「えーっと、では一番気になっているのですが、なんで盾だけで戦っているのでしょうか?」

「そうそれ! 私も気になっていたの!」と美波。



 ハルルさんが驚きの表情を浮かべる。



「えっと、ミナミンちゃんは親戚なのよね、それでも知らないの?」



 ハルルさんの問いに美波は腕を組んで唸る。



「そうなの! カイ兄ってケッコー秘密主義というか! 私がニートに仕事を恵んであげる感覚でカメアシ頼んだらさ! まさかこんな手練れだったと思わなかったのよ! いつからダンジョン潜ってたの!?」

「えっと、だいたい七、八年くらいかな……」

「じゃあダンジョン黎明期からですか? 大ベテランじゃないですか!?」



 「おぉ」と盛り上がる周囲。コメントもすごいスピードで流れているようで、それを松尾さんが読み上げていく。



「ほっほう、コメント大量ですぞ……ふむ、とはいえ何故盾だけの戦闘スタイルになったのか明言して欲しいとの要望ばかりですな」

「そうそう、それよそれ!」

「まあ大した理由じゃないんだけどな」



 そこで俺は昔ダンジョンで配信者のカメアシをしていた事を伝える。



「――というわけさ、昔はドローンやらなんやらなかったから、ダンジョン内ではカメラ片手でもう一方で盾を構えて、自分を守りながらやっていたら自然にさ」

「それで必然的に盾をマスターしたと」



 納得してくれるハルルさん。



(面倒だから円佳の事は伏せておこう)



 だが美波は俺が気づいて欲しくないことに関しては良く気がつくようで……重箱の隅をつつくような質問をしてきた。



「じゃあさじゃあさ、相当深く潜っていたんじゃないの? じゃなきゃあんなレベルで盾を使いこなせないよ」



 コメント欄もその件についてざわついている。



<もしかして日高円佳とニアミスしたんじゃ>

<組んだこともあるかも>

(……あれ、ヤバイな)



 このままじゃ根掘り葉掘り聞かされ続けてボロが出てしまうかもしれない……どうにかして話題をそらそうと俺はハルルさんに話題を振ってみる。



「ところで、自分はハルルさんのことがもっと知りたいですね」

「わ、私ですか!?」



 うん、我ながらいい話題の逸らし方だ。ちょっと急に聞いたせいで彼女顔が真っ赤になってるのは申し訳ないが。


 ハルルさんのファンである美波は食いつく。



「そうそう! 正直、カイ兄よりこっち! コレには後で聞けばいいし」



 年上をコレ呼ばわりしやがって……でも話題をそらせるならコレ扱いもウェルカムだ。



「ず、ズルいですよ美波さん」

「まぁまぁ、ハルルさんって普段何されてるんですか? ぼかしてで良いので教えて下さいよ~」

「普段ですか?」

「いやはや、飛び級の大学生だったと聞いていますが、やはり今は大学院生でしょうか?」



 松尾さんは自分の知りたいことにはためらわず入ってくる、それが彼なりのジャスティスなのだろう。俺の時は静観していたのに。



「えっよ、実はもう就職して一年なんです」

「ええ、就職してるの?」と美波、びっくりした様子である。

「父に頼まれてアルバイトとして……自分のやりたい仕事だったんですけれども、ちょっと思ったのと違って結構大変なんですよ、ストレス」

「ああ、そうなんだ」



 そんなの二人が話している時に俺はこっそり自分の仕事のメールを打とうとする。


 さっき思いついたアイディア。ダンジョンの姿を隠した正体不明の二人が恋に落ちるという設定を編集帳に送ってみることにした。



(あの人のプロット要領を得ないし、こういうワクワクの要素を取り入れないとね)



 すぐに書籍化は無理とかいってたけれども、プロットの改稿相談くらいは読んでくれるだろう。


 早速メールだ。自信がある俺はノリノリで送信した。



「よしオッケー、さてと……」



 二人はまだ談笑していた、というよりハルルさんが仕事の愚痴をこぼしていて、それを美波が相づちを打っている。



「そうなんですよ、取引先の都合で振り回されて、自分の時間があってないようなものですね。個人事業主さんはこっちの都合も考えず――うん? ……ほら」



 呆れた顔でスマホを見せるハルルさん。どうやら取引先の人が仕事のメールを送ってきたようだ。



「送らないでって言ってるのに……んもう」



 そうこぼしながらハルルさんは仕事メールを返していた。



(大変だなぁ、でもうちの編集長より仕事できそう。急に来たメールを返信なんて絶対してこないもん……ん?)



 ムーッ……ムーッ……


 おやおや、いつもはすぐに返事は出さないくせに、今日は意外に早く返してくるじゃないか。



「なんだなんだ? いったいどんな風の吹き回しだ……」



 口では毒づきながらも内心ちょっとウキウキでメールを開く俺。 


 内容は一言。




<今忙しいので二、三ヶ月後にしてくれませんか>



 という冷たい一文だった。



(うん? どういうことだ? ていうか、こんな短い返事わざわざ返す必要ないだろ)



 本気で忙しいのか、はたまた嫌がらせ目的か、ブラックが過ぎるなあの編集長……と俺はついため息をしてしまう。



「「はぁ……」」



 そのため息がハルルさんとハモる。


 二人してため息、思わず目が合ってしまう。



「ふっ」

「フフフ」



 つい笑ってしまった。



「お仕事、お互い大変ですね」

「そういうことを言ってくれるのはカイ兄さんぐらいです」



 いやいや、この人とは仲良くやっていけそうだ。少なくともあの編集長より打ち解けられる、絶対に。



「さて、次の質問ですが」



 松尾さんが進行を続けるその時だった。



「おいおい、こんな奴らが今こっちじゃでかい顔してんのかよ」



 ズカズカと人垣を強引に割って近寄ってくる連中が現れた。




※次回は12/19 18:00頃投稿予定です


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 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。



 この作品の他にも多数エッセイや



・追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~


・売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果


・「俺ごとやれ!」魔王と共に封印された騎士ですが、1000年経つ頃にはすっかり仲良くなりまして今では最高の相棒です


 という作品も投稿しております。


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