妹さんは、こんなこと、してくれないでしょ?

やまもりやもり🦎新作ラブコメ🌷公開!

第一章 出会い

第1話 九月。うちの妹が可愛い

 俺は妹が好きだ。


 これは「うちの妹」などという狭い主語の話をしているのではない。もちろん、うちの妹は可愛いのだけれど、俺は、この「妹」という概念自体を愛しているといっても過言ではないのだ。


 考えてもみてほしい。「女」偏に「未」と書いて「妹」と読む、すごくない? この「妹」という漢字を考えたやつ、多分中国人だと思うんだけど、センスの塊じゃないだろうか。だってさ、未だ女に至らないと書いて妹だよ。中華文明というのはマジ侮れない。


 みんなもそうだと思うけど、俺はこの「妹」という漢字を見るだけで、頭の中に未成熟な女の子の肢体が浮かんできてしまうのだ。


 さらに言わせてもらえるならば、妹であるなら髪型はおさげ、つまり低い位置のツインテールがいい。とはいえ、無邪気な感じのおかっぱ頭も捨てがたい。ぺったりとした感じの黒髪ロングもそれはそれでいいとは思うけど、その場合やっぱり前髪はパッツンして欲しいところ。みんなも同意してくれるよね!


「おにーちゃん、さっきから何をブツブツ言ってるの?」

「あ、いや俺は、単に一般論としての……」

「ハイハイ。早く食べないと遅刻しちゃうよ、おにーちゃん」


 トーストのバターとコーヒーの香る寄木造りのダイニングテーブル、向かいに座って朝食を食べている少女の姿は、俺の理想が実体化したような中学三年生の女の子、つまり俺の妹だ。

 長い黒髪を低い位置のツインテールにさらりと束ね、百五十センチをわずかに切る低身長、すらりとしなやかな身体は細いながらも柔らかで、ついでに言うと多分胸は小さい。Aカップぐらいだろう。そして一重瞼のつぶらな瞳に薄い唇という顔の造形は、よく言えば日本人形、悪く言えば埴輪のよう。でもそれがいい。


 夏休みが終わって妹は制服姿だ。夏のセーラー服を纏う華奢な妹を眺めるこのひと時は、まさに人生の至福の時だといえるだろう。

 ちなみに妹の学校の夏セーラーは襟とスカートの色が少し白みがかった水色で、よくある紺とはちょっと違っている。これがまた中学生っぽい未熟な若さを醸し出していてグッときてしまう。スカーフが清楚を感じさせる青緑色なのも地味によい。


 とはいえ紺色の冬セーラーも、それはそれで捨てがたいものがある。世の中にはセーラー服は夏に限るという言説もあるけれど、全てにおいて、まずは旬をもってすべしというのが俺の持論だ。

 つまりは、日々少女から大人へと変わっていく妹の姿を愛でる事こそが、兄としての使命だと俺は考えている。妹という存在は、移り行く過程として定義されるものであり、だからこそ尊い輝きを放つ。

 それにしても自分にこんな妹が実在するなんて、俺は前世でどんな徳を積んだのだろうか。もしかして俺は転生者なのかもしれない。まさかダライラマとか?


 窓から入る九月の朝の光に照らされて、食卓の妹が無防備に伸びをする。プニっとした柔らかなお腹が夏のセーラー服の隙間からちらりと覗く。

 こういう何気ない日々の瞬間があるからこそ人生は素晴らしいという意見には、俺としても大いに同意するものがある。やっぱり世界が妹に求めているのはこれ、つまり「女」に「未」、だと思う。だよね! 


「そういえば、おにいちゃん、今日は帰りが遅いんだよね?」


 ふと妹からそんなことを尋ねられ、俺は思考の迷宮から抜け出した。


「え? あ、そうそう、今日は新しい妹ゲーの発売日だから。帰りにアキバに行ってその後、噂になってる妹カフェに」

「おにいちゃん、いつもだけどキモいよそれ。今日は友達が来るから帰りは遅くてもいいよ、っていうか、友達におにいちゃんのそういう所見せたくないから、なるべく遅く帰ってきてくれると助かるかな」

「まかせろ!」


 他ならぬ大好きな妹の頼みだ。ここは甘んじて受けることとする。

 ため息混じりに早口で話す少女の高い声が耳に心地よい。

 自分の妹からこうやって困った目で見られるなんて、背中がゾクっとしてしまう。


「でもさ、おにいちゃんも夏休み中はちょっとかっこよくしてたのに、学校始まったらまた戻っちゃったね」

「いや、それは触れないで!」


 その話は忘れようとしていたところなのに、知らないはずの妹が俺の心の痛いところに触れてきた。うちの妹、わりとそういうの鋭いんだよな。

 慌てる俺の顔を見て、ダイニングテーブルの向かいでツインテの中学生の妹が微かに首をかしげている。やっぱりかわいい。ちょっと癒される。


「まあいいけど、それじゃおにーちゃん、先に行ってきます!」

「行ってらっしゃい、朋美」


 上品な水色のセーラー服のスカートを翻して、妹の朋美はガタリと席を立って出て行った。

 ちなみに妹の名前は鴨川 朋美(ともみ)、近所の市立の中学に通っている。そして俺はもちろん姓は妹と同じ、名は優と書いて「すぐる」と読むのだけれど、友人からは「ゆう」と呼ばれることも多い。県立高校の二年生だ。


 妹が居なくなって静かになったダイニングを、俺はふと見まわす。

 東京にほど近い、鴨川家の戸建ての一軒家のダイニングには、壁沿いにガラス扉の木の食器棚が置かれていて、大きな木のテーブルの上には白い傘の食卓灯が下がっている。

 早くローンを返そうと共働きの両親は朝から遅くまで働いていて、最近の夕食は料理が趣味な妹が作ることが多い。受験生なのにまったく良く出来た妹だと思う。


 そんな大好きな妹のことを考えようとしているのに、俺の脳裏には別の女の子の姿が浮かんできてしまう。妹の朋美とは全然違うタイプ、背が高くて胸の大きなロングヘアーの大人っぽい顔を思い出してため息をつく。

 ぬるくなっていたカップのコーヒーを飲み干す。口の中に苦い味が残る。


 息を吐いて脱力した俺の心の中には、夏休みの甘くて苦い思い出が蘇ってきていた。



――――――


カクヨムコン10新作タイトル、妹の友達との不健全で不道徳なラブコメです。

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