バ美肉転生天才銀髪美少女の中のAI

 見覚えのない天井。

 触り心地に覚えがないベッド。

 見覚えしかない銀髪。

 見覚えがありまくる銀髪。

 見覚えしかなさ過ぎる銀髪。

 あぁこんな感触だったのか死ぬ前にくんくんと匂いを嗅ぎたかったな、そう思っていた銀髪が自分のうなじの辺りを柔らかに撫でてくれて思わず性的興奮を感じとってしまうという身に覚えしかない性欲。


 そして、患者衣に包まれた“銀髪美少女”のボディ。

 

 理由は定かではないのだが……推測するに、どうにも俺は名前が分からない銀髪美少女になっていて、どこかにある病院のベッドに寝かされているらしかった。


「ナイス銀髪ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


 男である自分の身体が何故か銀髪美少女になっていた――どんな人間だろうが驚きの余りにそう選択してしまうようなありふれたリアクションを取った俺は銀の髪の感触を味わうべく、動かし慣れていない女体を動かそうとしたその瞬間。


 予想だにしなかった衝撃のようなものを胸部で感じ取る。


 胸。

 そう、胸だ。


 胸。

 それが俺の視界に入っていた。


 胸。

 でかい。


 胸。

 なるほど、この重さが胸なのか。


「…………」


 理由は定かではないが、自分の身体が異性のモノになっている以上……自然的にこの身体の所有者は自分のモノ、或いは自分だけのモノになるのがこの世界の基本的なルールだったと思う。


 故に……俺がこんな事をするのは、何もおかしい事ではないので、自分の意思で動く両手でソレを掴む。

 

 実に……実に。

 それは素晴らしい重みを有していた。


 筆舌にしがたい感触を肌で感じ取り、他人に対して絶対にしてはいけないという背徳感が背筋に這い回るものの、そんな俺に辛うじて残っていた僅かばかりの良心なんてものを容易に捨ててしまえるぐらいの魅力があった以上、本当にどうしようもなかったのだ。


 両手でソレを掴み――決して傷などつけさせないように、決してこの感触を忘れないように、優しく、慎みと節度を以て――自分の口の中に入れる。


 何を、だなんて……愚問でしかない。


「ぺろぉッ……!」


 俺は乳児が母親の乳房を吸うように、名前も知らない美少女の銀髪美少女の髪房の美味を口いっぱい堪能していた。


 俺は紳士だから美少女の胸を触るような無粋で犯罪者のような真似なんて絶対にしないし、そもそもの話として女の子の胸を触るのは駄目だろう⁉


 そういう訳で銀髪美少女の髪の毛をしゃぶる。


 美味い。

 いや、勘違いするな俺。 

 これは食事ではなく、情報の摂取だ。


 というか、銀髪美少女が好きだからって銀髪を食するのは流石に頭のおかしい人間だし、そもそもの話として、名前が分からない美少女になったからと言って、その美少女の胸を触るというのは人道に反する最低最悪の行いだ。普通に考えてやる訳がない。そんな事をするのは常識と倫理観に酷く欠けた人間がする事に他ならない。


「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」


 よく周囲から勘違いされるのだが、俺は美少女の髪を舐めるのはそこまで好きじゃない。


 俺は銀髪美少女の髪を舐めるのが好きなだけ。


 だからその辺は勘違いしないで欲しい。

 特に妹。

 俺が自室で数千万円の銀髪のウィッグをアヘ顔をしながらペロペロと舐めている時に部屋に入ってきて「キモ」と言葉を発して退室しないで欲しい。


 妹だろ?

 肉親だろ?

 理解しろとは言わないから寄り添って欲しい。

 後は可能なら兄に銀髪姿の妹の晴れ舞台を見せて欲しい。


「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」


 おっと。

 折角銀髪ロングの風味を堪能していたというのに黒髪ロングの美少女妹の事を思っていた。


 これはこの銀髪美少女が毎日整えていたのであろう銀髪に対しての礼儀に欠けていると非難の声に晒されても仕方がない真似をしてしまった。


「……ぺろっ……ほぅ……? この銀髪美少女は人間ではないな……? この俺の舌を誤魔化せると思ったら大間違いだぞ、この銀髪美少女め」


 この髪をぺろぺろと堪能して得られた所感としては、この美少女は人間ではない事が確かだ。


 俺の口いっぱいに広がる髪の風味は柑橘類の匂いではあるのだが、現実世界で取り扱うようなシャンプーだとか洗剤といった類の感触ではない。 


 恐らくこれは始めから電脳情報体で構成されたモノ……つまりは現実世界産まれの銀髪ではなく、電脳世界アルス・マギナ産の銀髪だ。このテクスチャを思わせる風味が何よりの証拠と言える。


 いや証拠云々より、A級エグゼキューターとして電脳犯罪に絡んだ数多くの老若男女の銀髪犯罪者の髪の毛をペロペロしてきたこの俺の直感がそう感じているのだからほぼ間違いはないと言えるだろう。


 確かに質感は本物の銀髪のよう。

 この本物を思わせるような仮想情報には舌を唸らせる他ないし性的興奮も隠しきれないし、銀髪美少女の髪を味わった事がない人間であれば思わず勘違いしそうになってしまうのだが……この美少女の銀髪にはところどころに電脳情報ならではの雑味を感じさせる……しかし、その雑味感も中々に美味しい。間違えた美味い。違ったAI味があって興奮する。


 想像してみても欲しい。

 綺麗に整えられた銀髪をペロペロと舐め尽くした際に、銀髪美少女が日常生活を過ごす際に生じ獲得する生活家庭の汚れや埃……それも言ってしまえば、銀髪美少女の一部。否、この銀髪美少女を構成する一欠片の情報を堪能する。


 つまり、髪の毛とは女の子なのだ。

 つまり、女の子とは髪の毛なのだ。

 つまり、銀髪美少女は最高なのだ。


 ……ふっ。我ながら少々熱くなり過ぎた。

 銀髪を舐めているとついつい理性を失ってしまうのは要反省だ。


「ふへっ……ふひっ……ふひひひっ……! この銀髪は最高だぜぇ……! 今までに舐めてきた銀髪の中でも最高だぜコレェ……!」 


 今にして思えば俺は蕎麦が好きだ。

 何故なら蕎麦は銀髪美少女を思わせるから好きだ。

 あの薄い色が何か銀髪美少女味がする。

 つまり、蕎麦は銀髪美少女なのだ。


 蕎麦は、人類が認知していないだけの銀髪美少女なのだ。


 この事をいつも贔屓にしている蕎麦屋の店長AIに告白したら【は? え? ……うん?】と意味の分からない困惑をした挙句3時間ぐらい機能停止フリーズしていたが、蕎麦屋を名乗るのなら銀髪美少女と蕎麦の類似性ぐらいは勉強して欲しいものだ。


「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」


【あ、あの……! 少し、宜しいでしょうか……!】


「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」


【そ、それ……私の髪ですから……! そんなに舐めるのは流石に、その、恥ずかしいと言いますか……! いくら貴方が私の命の恩人とはいえ……や、やめてください……! 意味が分からなさ過ぎて私の頭がおかしくなっちゃうから……! 精神的にも物理的にも両方の意味でおかしくなりますから……! 本当に、やめっ……⁉】


「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」


【あ、あのぅ……! お、おーい……? 聞こえてますか……? 聞こえていないんですか……? うぅ……やっぱりこの人にはAIである私の声が届いて――】


「うるせぇ!!! 何だ⁉ 俺は今この銀髪を味わいながら考え事をするのに忙しいんだよ! 見て分からないのか⁉ 目に銀髪生えてないのか⁉ 用なら他を当たれ! 口に銀髪生やすぞ⁉ ご褒美じゃねぇかこの野郎! 良かったなこの野郎! 今日からお前は! お前が! 銀髪美少女だ!!!」


【ひ、ひゃん……⁉ ご、ごめっ、なさっ……!】


 小学校高等部から休み時間には毎時間欠かさず銀髪をナメナメしてきた俺の口から思わずそんな理性に欠けた言葉が出てくる。


 まるで反抗期真っ只中の当時の自分を思い出すようで少々気恥ずかしさを覚えつつ、今にして思えば、いつの間にやら自分の一人称がになっている事に思い至る。


 いや、感性が少々若返っているような気さえする。

 

 この銀髪美少女の身体になった弊害……いや、特徴と言うべきか。

 15歳程度の身体になったから、28歳の感性ではなく15歳程度の感性に合わせられていると言ったところか。


 なるほど、それは実に興味深い……やはり、美少女の銀髪を舐めながらする考察は捗る。


 しかし、


ふむぺろ……」


 この病室には人影は1人もいない。

 身体は若返ったどころか別物にはなっているが、A級エグゼキューターとして数多くの電脳犯罪者やウイルスを下してきた経験から培ってきた勘が消える筈もなく、俺の勘はこの部屋には銀髪美少女である俺1人しかいないと雄弁に物語っている。


 となれば……内側か。


もしかしてぺろぺろ君はあの銀髪美少女かなぺろぺろぺぇろぺろ?」


【え……? 何言っているのこの人……怖……】


質問に答えてくれぺろぺろぺろぺろぺぇろ


【……あ、あの……せめて人語を話す時は口から髪の毛を出してくれませんか……?】


君はぺろぺろ先ほど助けた銀髪美少女だなぺろぺろぺぇろぺろ?」


【……いや、その、何言っているんですか……?】


「おっと、これは失礼した。余りにも味わいのある銀髪だったものでな。ついつい興奮の余りぺろぺろしながら言語コミュニケーションを図っていた。何、言わずとも分かるとも。この銀髪は君のモノだな? 実に素晴らしい銀髪だ。舐めさせてくれてありがとう」


【……え? ……は? ……あれ? これ、日本語……? だよね、日本語だよね? 理解できない……! 怖い! この人怖い! 気持ち悪い!】


 周囲には本当に人が1人もいないし、機械音声が発せられている方向もない。


 言うなれば、本当に奇妙な事ではあるのだが……この声は俺の中、それも頭の方から発せられているのだ。


 当初、銀髪に宿る妖精さんかな? と実にファンタジーな事を考えたものの、冷静に考えて銀髪なら1人でに喋って当然だった。


 普通に考えてみても欲しい。

 銀髪だぞ?

 人語ぐらい喋るだろう普通。


「そうか。君が銀髪に宿る神様というヤツか。ま、銀髪なら当然か。銀髪って神々しいもんな」


【違います、AIです。つい先ほど新宿御園で貴方に助けられたAIです】


「先ほど……? あぁ、あの神々しい程に美しい銀髪を有する美少女か。1度舐めたかったんだ。いやもう舐めてるか。ぺろっ」


【ひっ……⁉ き、気持ち悪っ……⁉】


「銀髪美少女が気持ち悪い訳ないだろ⁉」


【……ごめんなさい……?】


「分かればいいんだ。何はともあれ本当に素晴らしい銀髪だった。今までに舐めてきた銀髪の中で2番目に素晴らしかった。また機会があったら舐めさせてくれ」


【……もう二度と舐めないでください……】


「君は命の恩人である俺を殺す気か⁉ それが頭皮から美しい銀の髪を生やす存在がする事か⁉ いやこれはアレか⁉ 放置プレイなのか⁉ 銀髪放置プレイとかキミは実に素晴らしい提案をしてくれる銀髪様だな⁉ ありがとう! 今すぐ気持ち良くなるよ! おぉォォォォ!!! 気持ちいいィィィ!!!」


【うぅ……! あの時、すっごく強くて素敵でかっこいいなぁと思ったのにぃ……! 中身が最悪だよこの人ぉ……! 余りにも気持ち悪すぎるよこの人ぉ!】


 文字通りの泣き言を頭の中で放たれると頭の中に少女の言葉が反響し、ガンガンとした頭痛を物理的に引き起こしてみせる。


 これは少々キツいな、と思いつつも、A級エグゼキューターとして今までに培ってきた知識たちが先ほどの彼女の発言はおかしいぞ? と指摘してくれたのでやんわりとその事について尋ねてみる事にする。


「しかし、妙だな。この電脳世界において人型のAIによる活動は禁止されている」


【え⁉ え、えぇと……そ、そうなんですか……? そ、それって、何かの間違いとかそういうヤツじゃないんですかね……? ほ、ほら……? 法律ってよく時代に合わせてコロコロ変わりますしぃ……?】


「ぺろっ」


【嫌ァァァ⁉】


「ふむ、この銀髪は嘘をついている銀髪の味だな」


【何で分かるんですか⁉】


「経験則だ。こう見えても取り調べもする職種でね。さて人型AIの使用禁止の件の話に戻すが……第一に電脳犯罪者が人型AIを使用する事で電脳犯罪やテロを行うケースを減らす為。第二に様々な宗教による面倒を減らす為。第三に電脳世界内における買春行為を取り締まる為。他にも色々と理由はあるが学校で教えられる基本的な内容がこれらだ」


【……うっ……】


「AIは便利だ。便利ではあるが、余りにも便利が過ぎる。それも人型になってしまえば文字通り人間の職を奪ってしまうほどに便利だ。使い勝手が良過ぎるからな……人間がAIの人権を議論してしまうぐらいに、AI使。もっとも、10年前のあの電脳犯罪が1番の決め手なんだが……まぁ、なんだ。それらに対する贖罪として今の人間は人型AIの使用を禁止している。表立って使うのは犯罪行為になる。それが銀髪美少女の形をしたAIと言えどもね」


【……よ、よくご存知ですね……流石は国家公務員でもあるエグゼキューターですね……それと決め顔で言いながら髪の毛舐めないでください……生理的に無理です……】


「銀髪美少年を前にして舐めないのは生理的に無理だ。それで君は違法的に作られたAIか? だとすれば俺は君を処刑しないといけない訳だが……何か事情があるのなら言うと良い。君は銀髪美少女だからとことん贔屓させて貰おう」


【……公務員なら、髪を舐めるの止めて……】


「さて、まずは君の名前か」


【……お願いですから、私の話を聞いて……?】


「君、とても素晴らしい銀髪をしているが名前は? いや、AIに個人を意味する名前は無――」















「ありますよォォォ!!! 彼女の名前はマキナ・シムティエールゥゥゥ!!! 開発者ァァァ!!! ワタシィィィ!!! つまりィィィ!!! ワタシのォォォ!!! 娘ェェェ!!! そう言ってもォォォ!!! 過言ではァァァ!!! ありませェェェん!!!」


 この煩さは室長か。

 どうやらも俺と同じく過労から解き離れた様子であるらしい。 


「おはァァァよォォォうござァァァいまァァァすゥゥゥ!!! 水無月A級の兄の方ォォォ!!! 色々と聞きたい事はあるでしょうがァァァ!!! 何はともあれェェェ!!! 無事で本当に良かったですねェェェ!!! 貴方が死にかけた所為で貴方の妹に殺されかけましたよォォォ!!! まぁ正確に言うのであれば貴方はもう死んでいるんですけどねェェェ!!!」


 そこにいたのはぷかぷかと空中を移動する立位形式ではなく、浮遊形式の車椅子に乗っている白衣の美女。


 特筆に値しない茶髪と黒縁眼鏡が特徴的な、マッドサイエンティストという言葉が本当に相応しいどこにでもいるような危ない人にして、俺の上司。


 A級エグゼキューターの枯髑寺こどくじ戒聖かいせい、その人だった。

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