バ美肉転生機生プロローグ(2/4)社畜編

「銀髪美少女のように美しい電脳蕎麦を1つ」


 12時の昼の時間帯。


 穏やかに吹く春風の所為で辺り一面に舞い散る3月の桜の花びらを横目で見ながら、人が1人もいない移動形式兼無人販売屋台である蕎麦そば屋に立ち寄り、座り慣れた座椅子に腰を落ち着かせながら、注文を頼む事にした。


【いらっしゃいませ、糞蕎麦くそばへようこそ。只今準備に入らせて頂きますが、無料ではないトッピングサービスは宜しかったですか?】


「ではコロッケを。銀髪とコロッケの相性は最高ですので。なんかこう髪飾りって感じがしてエロいですしね。銀髪にコロッケついているよって言いながら銀髪を舐めたいシチュエーションを恥ずかしながら考えてしまうんですよね」


【うわこの人気持ち悪い。処刑者エグゼキューター呼びますよ処刑者エグゼキューター。さっさと電脳犯罪者になりやがれってんですよこの犯罪未遂野郎】


「えぇ……? いや、いつもここの蕎麦を啜っているどこにでもいるような人間ですよ、自分」


【お客様のような人がどこにでもいて堪りますか。そんなに言うのであれば証拠を見せてください証拠を】


「安心してください。本人です。嘘だと思うのなら常備薬のように持っているこの銀髪ウイッグコレクションをどうぞご覧あれ。見てくださいよ素晴らしい造形美! あぁこれは凄い。業務中の昼休みだっていうのに勃起を禁じ得ない美しさですね」


【どうしようもないぐらいに本人でしたねこの銀髪異常嗜好野郎が】


「とはいえ、万引き客対策用に相手の生体情報ログを閲覧するぐらい、AIなら余裕で出来ますよね? 2回目以降に利用した客の情報ぐらいは余裕で閲覧可能では?」


【やりたくないんですよ。面倒くさいので。人間様がやってくださいよ人間様が。給料ぐらい出るでしょ】


「なるほど、それはごもっとも」


 AI……確かArtificial Intelligenceという英単語の略称だったなと脳裏で思いながら、自分は蕎麦が出来上がるまでの時間をこの人工知能が放つ機械音声とコミュニケーションを取る事にした。


【ところでお客様。今日も真っ昼間から営業という名のサボりですか。典型的な仕事の出来ないダメ男の生態をしていらっしゃいますね。小・中学生に見せて一緒に指を向けて草を生やしてやりたいぐらいに素晴らしい反面教師の鑑です】


「サボりじゃないのですが」


【社会から見れば立派なサボりかと。その背広はコスプレか何かで? お似合いですよ、社会人のコスプレ。宜しければ企業コスプレイヤーの求人でもご案内しましょうか】


「休むのも労働者の仕事の1つですし、これ以上仕事を増やすつもりもありません。それにこう見えても仕事終わりなんですよ、自分」


【もっとマシな嘘も吐けないのですか、この雑魚】


「本当です。今日も急な案件が入りましてね、おかげ様で過労死寸前です」


【急な案件? 期間限定VRダンジョンとか期間限定レイドボスイベントだとか、そんなあからさまな日本人ホイホイが最近ありましたっけ?】


「流石に業務中に電脳ダンジョンに潜って遊ぶ訳ないでしょう。そんな事をするのは時間に余裕のある学生か動画配信者ぐらいです。それにこちとら自由と不自由がない社会人28歳ですよ。流石に気分を害しました。なのでビールを1つお願いします」


【お客様。当店は電脳蕎麦屋なので飲酒のサービスは面倒でやっておりません。28歳を自称する割には常識が欠けておられますよ。よく28年も生きてこれましたね。凄い凄い】


「……おっと。そう言えばそうでした。色々と疲れていたのでミスしてしまいました。疲労が溜まるとどうにもミスが多くなりますね」


【大丈夫ですか? さっさと頭と身体の病院に行かれては? ? 右脇から先、消えてますよ? うわっ、きっしょ。写真撮ってもいいですか?】


「あー。これですか。色々あって少し前にちょっと取れただけなので気にしないで貰えると」


【VRによる再現体とは言え人間様の身体は本当に不思議な構造をしていて本当に気持ち悪いんで見せないでください……あ、そうそう。なんか蕎麦が勝手に出来上がったっぽいんでどうぞ。お熱いですがさっさと食ってさっさと金を出してさっさと帰ってください】


「30分は長居しますよ。銀髪美少女ではない上司から逃げたいんで」


【そうですか。当店は小粋で抱腹絶倒間違いなしのトーク技術を有するAIによる集客効果で他にリピート客は皆無です。どうぞ気が済むまでごゆっくり食事をお楽しみくださいませ】


「いつもの毒舌っぷりが嘘のようですね。さてはツンデレ店主に鞍替えしましたか」


【馬鹿ですか?】


 ツンデレの代名詞とでも言うべき台詞を無感情の極みと言わんばかりに言ってのけたAI店主の言葉を聞き流しながら、1分程度で眼前にいきなり現れた出来立てほやほやの蕎麦を食する事にする。


 利き手である右手ではなく左手を使って蕎麦を啜るというのは生まれて初めての経験だったが、思いのほか上手くいくものだった。


【それにしても人間様は器用に箸を使って食されますね。私たちAIはよく手掴みで食するのですが、もしかして火傷するからわざわざ箸で食事なさるのですか、なるほど理解しましたよこの雑魚ども。随分と人間様の身体は不便に出来ているのですね】


「AIと違って人間は不便ですので。そこらを行きかう銀髪美少女をいきなり舐めると犯罪になって捕縛されてしまうぐらいには不便に出来てますよ」


【まぁまぁそう言わずに。四捨五入すれば無くなるであろう頭を必死に稼働させて考えてくださいませ。お客様が黙って蕎麦を啜る所為で私が暇です。お客様は私たちAIを生み出した人間様の末裔でしょう? 勝手に私たちを産み落とした挙句、暇にさせた責任ぐらい取ってください。具体的に言うのであれば何か面白い事をしてください。手で蕎麦を掴んで食して大火傷して惨めに泣き叫ぶとか。想像しただけで草ですよ草。やれ】


「では、その代案としてラジオ番組を聞くというのはどうでしょう」


【業務中にラジオを聞くだなんてAI的にも大問題ですがお客様が望むのであれば仕方ありませんね。何聞きます?】


「では僭越ながら、銀髪美少女の――」


【分かりました競馬ラジオにします】


「む、残念……それにしても競馬ですか。そう言えば皐月賞に出馬予定の葦毛見ました? あの仕上がり凄くないですか? 舐めたい。擬人化したら絶対に舐め心地が凄いでしょうね」


 因みにこのAIとは自分が社会人になってから3年ぐらいの付き合いになるのだが、こんな失礼極まりない杜撰な接客態度の所為でが運営する蕎麦屋は閑古鳥がいつも鳴いている有り様で、常日頃から自堕落にラジオを聞き流しながら1日を消費するのが趣味だったりする。


 そんなAIが運営する蕎麦屋を贔屓にする自分も自分だが……周囲に人がいないのでゆっくりと過ごせるというのは何事にも代えがたい至福のひと時。 


 もっとも、そんな自分の生態に対してこのAIは【はっ。この社会に寄生するクソザコ陰キャ永遠社畜童貞が】と初対面の時に笑い声と共に罵倒してきた訳だが……まぁ、過ぎた事を考えても仕方がない。


【どれどれ。競馬、競馬、四月らいげつの皐月賞の有力馬は……っと。うわ、ながったるくて内容がクソみたいに面白く無い癖にスキップもできないとかいう人間様がお造りなられた素晴らしいCMじゃないですか】


 彼女の興味がラジオの方に向かっている間、自分はこれ幸いと言わんばかりに蕎麦を静かに啜り、ラジオから聞こえてくる内容を聞き流す。






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 2030年1月1日。

 その日以降、人類は地球の重力という枷から解き放たれる前に、肉体の枷から脱した。


 ヴァーチャル・リアリティ。

 略してVR技術の超発展は人類の生活をより新しいステージへと押し上げ、仮想現実から仮想という文字を消し去ったのです。


 娯楽はもちろん、教育分野、製造業、サービス業、土木、建築、不動産、金融、そして医療……ありとあらゆる分野でVR技術は活用と応用を繰り返す事で社会に貢献し、やがてそれは電脳世界アルス・マギナと呼ばれる新世界に成った。


 多くのサラリーマンは電脳世界アルス・マギナの社屋へ出社する。

 多くの学生が電脳世界アルス・マギナの学校へ登校する。

 

 夕飯の買い物だって電脳世界アルス・マギナに広がる巨大マートに行けば、生鮮食品も手にとって確認でき、家にいながら様々な娯楽を享受する事が当たり前になり、購入した商品は電脳情報化と現実情報化を繰り返す事で最速最短で物理的に貴方の元へ。


 ゲームのようなファンタジー世界を再現したり、消えてしまった歴史的建造物を再現したり、絶滅してしまった動物を再現したり、やれる事よりもやれない事の方が少ない電脳世界アルス・マギナは、もはや1つの現実リアルに成ったと言っても過言ではありません。


 まさしく、人類が夢見た理想郷。


 しかし、そんなもう1つの現実にも犯罪者の影がちらつく。


 だからこそ、この素晴らしい社会を維持する為にも、人々の笑顔を守る為に貴方の力が必要です!


 さぁ!

 貴方も国家資格であるエグゼキューターになって電脳世界アルス・マギナを守りましょう!

 

 第20回B級・C級エグゼキューター免許試験。

 今年3月末に開催予定!


 試験当日には15歳にしてA級エグゼキューターになったこの天才美少女、水無月みなづきかさごちゃんによる『かんたん! A級昇級試験の対策講座』も実施予定!




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【飛ばせないCMの癖に救いようが無いぐらい面白くないのは何なんですかね。これって慰謝料請求できます? できますよね? やれ】


「広報の子の声が良かったから許してやってください」


【水無月かさご、でしたっけ? 今年A級になったとかいう天才。ちっ。あのいかにもぶりっ子って感じの喋り方で統計学的にも気に食わないですね死んでくれませんかね。あぁいうのは性格が悪いって相場が決まっています。裏で自分よりも年上の後輩をいびったりいじめたりとかそういうパワハラを絶対していますよ。あーやだやだ】


「AIの癖に偏見が凄い。因みにそのCMの娘、自分の妹です。銀髪美少女でないのが玉に瑕ですが」


【というか音声だけとはいえCMの雑さが本当に凄いですね。あんなんでエグゼキューターになろうって人間様いるんです? あんな異世界ファンタジーみたいなフワフワしまくった職業で食っていくって発想がよく湧きますね。まるで血の繋がりのない美少女を自分の妹だと豪語するようなお客様を思わせる生理的な気持ち悪さを感じさせます】


「エグゼキューターは小・中学生の将来なりたい職業ランキングで10年間不動の1位ですからね。男の子は昔からかっこいい職業に憧れるものです。後、銀髪美少女にもですか」


【まるで実感のある声音ですね。さてはエグゼキューターになろうとして最低階級のC級にもなれないまま受験失敗して時間を無駄にしましたね? 余りにも可哀想が過ぎて笑いが出てきます。あーはっはっはっ! 草草草の草ァ! ウイルスに殺されるぐらいの雑魚が!】


「C級試験は通りましたよ。銀髪美少女ウイルスをペロペロしたかったので」


【おや、それは意外。もとい、それは失礼。でしたらB級になれないまま人生終了しました? 世間一般で言うところのプロレベルがB級。筆記試験に戦闘試験の難易度もC級と比べて段違いですから仕方ないとはいえ仕方ないのですが。C級止まりで人生終了とか雑魚すぎませんか貴方。ミジンコに片足突っ込んでいますよ、このゾウリムシ野郎。とはいえ危険極まりない電脳犯罪者に関わるのは止めといた方が良い訳ですが】


「B級試験も通りましたよ。銀髪美少女の電脳犯罪者をペロペロしたかったので」


【え、お客様はB級エグゼキューターだったのですか。これを言うと凄く失礼かもしれませんが凄く意外です。ならどうして営業なんていう精神と肉体をただただ削って死んだ魚のような目になるだけの職業を? 単純な稼ぎなら歩合制とはいえB級の方が給料高くありませんか? あぁでも数万人いるというB級の中での競争社会は大変ですか。貴方のような無個性な人間様では過酷極まる人気争いに敗れ、人気もないまま惨めに死ぬしかないのは容易に想像がつきます】


「この営業職の方が金を稼げましたので。後、銀髪美少女をペロペロできる機会が多くて」


【B級エグゼキューターよりも稼ぎの良い職業? そんなのあります? いえ、色々とありますけれど。ただこの会話の内容から該当するのは歩合制度と合わせて月50万以上の固定給があり、たった数十人しか合格者がいないという、あのA級エグゼキューター……⁉】


「…………あの、それ以上は」


【いえ、99%無いですね。こんな冴えなくて社会に寄生するぐらいしか能がないクソザコ陰キャ永遠社畜童貞がA級エグゼキューターだったらこの日本の電脳社会が終わります。さては貴方、違法な事をして人から大金を奪う電脳犯罪者ですね。このクソザコ陰キャ永遠社畜童貞犯罪者銀髪異常嗜好野郎。営業妨害でエグゼキューター呼びますよエグゼキューター、分かりましたかこの28歳野郎】


「ズル休みがバレるのは嫌なんで呼ばないで頂けると助かりますね。それと蕎麦のお代わりお願いします。銀髪マシマシ黒髪ナシ白髪オオメマシ灰髪スクナメで」


【ご注文は日本語でお願いします、この日本人野郎が】

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