第9話 偏執 4
「夜空に煌めく星々が、私の呼び声を運んでくる。魂が共鳴し、運命が交錯する。貴方は知っていたはず、この闇の中で私を待ち受ける運命を。さあ、今宵こそは、その真実を解き明かす時よ」
俺は奈々香を連れて大宮に戻ると、寄る場所へと向かった。
どうして彼女が一緒なのか。
興味があるから着いてきたんだとさ。
東口のとあるビルに店を構える占い師を、俺は訪ねた。
「ようこそ私の店へ。貴方たちの訪れを待ちわびていたの。それにしても、今日の貴方の装いはなかなか興味深いわね。どこか深淵の力を秘めているように感じるわ。貴方も、古より秘められし魂の根源の力を解き放つ時が来たようね」
長い黒髪を首元で一房に纏め、黒い外套を纏う暗闇が人の形をしているような、瞳にも光を宿していない不気味な雰囲気の女は、そう言葉を紡いだ。
「……なんて言ってんの?」
「考えるな。感じろ」
「無茶言うなし」
「我が魂の奥底に宿る言葉は、貴殿らにとって解することは容易くはない。しかし、それが貴殿らに響くとき、その輝きは何よりも優美なるものとなるはず。闇の焔を解放し、全てを破壊する時が遂に訪れんとする刻、その時こそが私の真の姿を示す時。世界は激しく揺れ動き、待ちわびたるその日を、今やもう間近に感じるのよ」
「なに言ってるか全然わかんない」
凝ってこての厨二病言語を理解するのは素人には厳しいだろう。
ふむ、それじゃあ、お手本と行こうか。
「……闇の力を操る者が現れた。
「星辰の日はすぐそこに迫っている。汝等よ、この情勢を理解せよ。我が腕が必要とされるのだろう?」
「ポジティブ」
ガシっと、俺は厨二病全開で相対する女と固い握手を交わす。
「なに、このやりとり…」
若干一名、ついて来れていない様だ。
「さて、愉快な歌劇は一時閉幕。この私を訪ねてくるとは、それほどの要件なのかしら?」
「普通に喋れるん!?」
「ええ。でないと普通の人間とは意思疎通が出来ないのだから。常人などには理解できない、我が孤高の存在。その孤独と闇を抱えながら、この世界でただ一人、私は真実を見つめている。我が名は孤高の
「前置きされるとわかるけど、わざわざそんな意味不明な言い回しで会話すんのめんどくさくないの?」
「フフ、貴女もその内に眠る
「ないわ。絶対ないわ」
厨二病は一度発症すると完治不能の不治の病だが、そうでない人間からすれば意味不明の概念だろう。
「して、どうやら中々愉快な状況になっていると推察するのだけれど」
そう言って、厨二病女は俺と奈々香を見比べ、そして俺の身体を上から下まで嘗め回すように視線を向けてきた。
「率直に言う。カウンターを依頼したい」
「なるほど。それほどの腕が必要だとでもいうのかしら?」
「俺がやれば良いだろうが、今回は餅は餅屋に任せようと思ってな」
「理解したわ。それで、相手は?」
「BB弾だから得物まではわからんね」
「BB弾相手にこの私を劇場に上げようとするなんて。過剰ではないかしら?」
「相手がどう出てくるかも観察したい」
「この私が眼として必要、そういうことなのね」
「対応は任せる。オールウェポンズ・フリーだ」
「それこそ過剰でしょう。でも良いわ。今店を閉めるから少し待っていて」
そう言って、厨二病女はいそいそと店じまいを始めた。
「ホントに大丈夫なの?」
「その手の腕に関しちゃ、俺より上だ」
「へー。認めちゃうんだ」
「俺はガンマンだからな。得意なのは早撃ちであって、探せば俺とは別ベクトルのプロはごろごろ居る」
店の片づけを待っていると、店の入り口が開いた。
「アリス、頼まれていたものを届けにき…た……、……何をしているんだ、お前は…?」
「……なんでお前がここに居るんだ。浮気調査はどうした」
「あの程度、1日あれば終わる。それより、なるほど、ついにそういう趣味に目覚めたkグホッ」
「ようし、今すぐその頭に風穴開けてその記憶を撃ち抜くからそこに立て」
「いきなり、人の頭を叩くとは何事だ。そもそも、お前がそのような格好を晒しているのが悪いのだろうが」
「うるせぇよ。とっとと頭出せや」
まさか上場が来るとは思わず、この格好を見られたくない相手に見られたという事実を早く消し去りたかった。
「お待たせ。これからお店に行くのでしょう?」
「なんでここにコイツが居るんだよ」
「異なことを聞く、私が呼んだからに決まっているでしょう。面白くなりそうなのは朝の占いでわかっていたのだから」
「私は被害者だと、これで証明されたわけだな」
「ドヤ顔浮かべんな。思わず撃っちまいそうになるわ」
最悪な気分になりつつ、深いため息を吐いて、俺は占い師アリスの店を出て、イザベルの店に向かうことにした。
その間に色んな知り合いに見られるって?
見られたってネタにしてくる悪い奴は居ないから気にはしない。
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