聞き込み取材②

前回に続き、聞き込み取材の様子を文字に起こして記載させていただきます。


――――


埋め立てられたトンネルの跡地を後にした我々は、人通りの見られそうな近くの場所まで車で移動し、かつて計画されていたという分譲地に関する聞き込みを行うこととしました。


山本「どうします?近くに名松めいしょう線の伊勢鎌倉駅がありますが、行ってみますか?」

小林「ですね。とりあえず向かってみましょうか」


以前記事にも書いた通り、名松線はおおよそ1時間に1列車が来るかこないかというダイヤで運行されています。それゆえ利用者はかなり少ないものと思われますが、ちょうどその列車の訪れる時間に行けば、ダイヤに1時間もの空きがある駅ならば誰か待っているのではないかと、我々は考えたのです。


小林「今からだと、15時27分の列車があるみたいですね。余裕を持って向かえそうです」

山本「了解です、それじゃ行ってみましょう!」


我々は自動車を出発させ、そのまま伊勢鎌倉駅に向かいました。距離自体は出発地からすぐそこであるため、非常に短い時間で到着しました。


山本「さぁ、つきましたが。伊勢鎌倉駅、いかにもローカル線の駅って感じですね」

小林「ですね。ちょっと驚きました、改札もないんですね。待合所はあるのでしょうか?」

山本「あるみたいですよ。行ってみましょう」


伊勢鎌倉駅は、ローカル線らしい自然に囲まれた場所に位置する駅であり、歩道からそのまま階段を上った位置にホームがありました。我々は目の前に広がる広大な自然に視線を奪われながら、駅のホームにつながる階段に足を踏み入れました。


小林「私、こういうタイプの駅はあまり見たことがないもので…。切符を買わずにホームに入ってしまってもいいんでしょうか?」

山本「ああ、大丈夫ですよ。この駅は僕も初めてですが、生まれは田舎の出身なんで仕組みは一緒かな。こういう駅は中の待合所とかに無人の券売機があるんですよ」

小林「そうなんですか、いやこれはお恥ずかしいところを…」

山本「いえいえ、正直知らなくても全く困ることはないことかと…」

小林「……」

山本「……」


山本さんの言葉に導かれるがままに、駅構内の待合所に足を踏み入れようとした我々二人。するとそこに、70代から80代と思わしき地元男性が一人腰を下ろしておられました。我々はすぐに顔を合わせて互いにうなずきあい、すぐさまこの男性に取材を行う事を決めました。


小林「あの、すみません、ちょっとお話をお聞きしたいのですが、よろしいですか?」

男性「はぁ…。あんたたちは?」

小林「私、このあたりの場所について取材を行わせていただきたく思っております、小林と申します。こちら、私の手伝いをしてくださっている山本さんです」

山本「どうも、山本です」

男性「あぁ、そうかい。取材?まぁ少しくらいなら別に構いはしないが…」

小林「ありがとうございます。では…。恐れ入ります、まずお名前教えていただいてもよろしいですか?」

門倉「私、門倉と言います」

小林「門倉さん、よろしくお願いします。門倉さんは、もうずっとこちらにお住みになっておられるのですか?」

門倉「あぁ、そうだよ。生まれた時からここだから、もう…何年だ?自分の年もよくわからんから、何年ここにいるか…」

山本「それくらい長い間こちらにお住みになっておられるんですね…。それでなんですが、この場所で今までに何か大きな事件などあった事はありませんでしたか?」

門倉「大きな事件?どんな?」

山本「うーん…。例えばなんですが、このあたりの場所を再開発する話ですとか、新しい住居を建てる話ですとか…」

門倉「…さぁ、私にはよくわからんが」

小林「実は、ちょっと噂を聞きまして…。今から40年近く前に、このあたりの場所に分譲地を作るという計画があったとお聞きしたのですが、なにかご存じの事は」

門倉「知らん」


それまで穏やかな雰囲気だった門倉さんでしたが、私が”分譲地”という単語を口にしたとたん、その様子を一変されてしまいました。


山本「す、少しだけでもいいのでお話を伺いたく…」

門倉「だから、知らんと言っているだろ」

山本「そ、そうですか…」


我々はその後も何度か違う質問を門倉さんに投げかけてみたのですが、門倉さんは非常に機嫌を損ねられてしまった様子で、これ以上はもう何も話をしないという雰囲気を出されておられました。我々はこの場でのこれ以上の取材は困難であると断念し、門倉さんに挨拶を行ったのち、違う方に話を伺いに行くこととしました。


小林「いやぁ…。まさかあんなに態度を豹変されるとは…」

山本「怖かったですね…。でもあれは、完全になにか知っている人間の反応じゃないですか?あんな急に怒り始めるなんて、怪しすぎますもん」

小林「そうですね…。ちょっとこれはより詳しく調べてみたくなりましたね…」

山本「はい。これは絶対なにかありますよ」

小林「とりあえず、道路沿いを進んで別の人に声をかけてみましょう。道に迷ってしまったというていで声をかければ、自然に話をすることが出来るかもしれません」

山本「分かりました、ではその作戦で」


再び車のエンジンをかけ、再出発を果たした我々。しかし進んでも進んでも道路から見える景色は山と田んぼばかりで、家屋こそ見えますが人の影はほとんどありません。そんな中でも目を凝らして進んでいたら、今度は農作業を行っておられる80代ほどの女性を見つけることに成功しました。我々は自動車をわき道に停車させ、山本さんは車に残り、私が車を出てその女性に話を聞いてみることにしました。


小林「ちょっと申し訳ありません、道に迷ってしまいまして…」

女性「はいはい、なかなか珍しいね…。どちらに行きたいの?」

小林「津駅の方に出たいのですが…。どう行ったらいいですかね?」

女性「津駅か、津駅なら簡単だよ。あそこに汽車の線路見えるでしょ?あの通りに進んで行ったら大通りに出られるから、そこまで行ったらすぐわかるよ」

小林「あぁそうですか、ありがとうございます。なにぶん自然に囲まれた場所で、右も左も分からなくなってしましまして…」

女性「ここはずっとこうだからねぇ。外から来た人が迷っても無理ないさ」

小林「えぇ、本当にきれいな山々です。…あぁそういえば昔、この山々の中に新しい街を作るという話があったという噂を聞いたのですが…」

女性「……」


…この時もまた、さきほどの男性の時と同じでした。私が”その話題”を口にしたとたん、それまで朗らかだった女性の表情が大きく変わったのです。


小林「…なにか、ありましたか?」

女性「そんなもん、知ったってなんにもならないさ」

小林「なんにもならない、と言いますと?」

女性「いいから!!だからなんにもならないって言ってるだろ。ほら、用事が済んだんならとっとと出てってくれ」

小林「は、はい…。ど、どうもありがとうございました…」


女性は激しい口調でそう言うと、そそくさとそれまで行っていた農作業に戻っていき、私の事はもうすでに眼中にないといった様子でした。私はそれ以上話をすることもできず、山本さんの待つ車にとぼとぼと戻っていきました。


山本「どうでした?」

小林「だめですね…。さっきと全く一緒です。分譲地の話を出した途端に敵扱いですよ」

山本「これはもう…。絶対に何かあるでしょ…。なにか隠したいんでしょうか…?」

小林「…念のため、もう一人くらい話を聞いてみますか?」

山本「当然ですって!これで次の人も同じ態度なら、確定と言って良いんじゃないでしょうか?」

小林「ですね。もう一度道路沿いを進んでみて、見つけた人に声をかけてみましょう」


我々は再び自動車を動かし、道路沿いを進んでいきました。しばらくは同じ景色が続くばかりで人影はありませんでしたが、少しすると大きな川沿いの道に出て、そこに隣接する公園を発見しました。そこに親子と思われる二人の男性の影が見え、我々は急ぎその二人の元に向かうこととしました。なお、先ほどと違い近くに駐車場があったのでそこに車を停め、今回は二人で取材に向かうこととしました。


小林「ちょっとすみません、お話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」

男性A「話?なんのですか?」

小林「私、小林という者でして、このあたりの土地に関することを調べているのです。もしもお二人が以前からこのあたりに住まれているのでしたら、ぜひお話を伺えればと思いまして…」

男性A「ま、まぁ別に…。少しなら…」

小林「申し訳ない、どうもありがとうございます。あぁ、こちら私のお手伝いをしてくださっている、山本さんです」

山本「山本です」

男性A「はぁ…」

山本「突然で失礼ですが、お二人は親子でいらっしゃいますか?」

男性A「そうです。こっちは息子ですよ」

男性B「どうも」


見た目はおそらく50代程度の男性と、20代程度の男性です。取材に当たり、私は本当なら日常会話などから外堀を固めていきたかったのですが、タイムリミットも少し近づいてきていたので、それらを飛ばしていきなり本題から話すことにしました。


小林「では、いきなりですが単刀直入に。このあたりの場所には昔、分譲地を作るという話があったと聞いております。計画だけで終わったそうですが、なにか詳しい事をご存じであれば……」

男性A「知らないですね」

山本「え…。な、なにもですか?このあたりにお住みだったら、ちょっとくらい何か聞いたことがあるんじゃ」

男性A「だから、ないです。知らないです」


この男性もまた、さきほどまでの方々と同じでした。おそらく何かを知っているのでしょうが、何も話そうとしてくれないのです。


男性A「話がそれだけなら何も言う事はないですね。…たつや、行こう」

男性B「あぁ、先に行ってて。もうちょっと景色見てから行くよ」

男性A「そうか…。あんまり遅くなるなよ?」

男性B「おっけー」


2人はそう会話を行うと、男性Aはそそくさと我々の前から姿を消して行かれました。この場には我々二人と、さきほど”たつや”と呼ばれていた男性のみが残されることとなりました。するとその男性は、男性Aの背中が完全に見えなくなったことを確認されたのち、我々にこう言葉を発されました。


男性B「あの…。僕あんまり詳しくはありませんが、分かることならお話しますよ」


――――


次回に続きます

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