部活で男は俺だけの美少女ハーレムなのに、おもしれー女しか居なくて中々ラブコメにならないラブコメ

ジェネビーバー

第1話 美少女JKがしていい顔じゃない

「お゛願 い゛し゛ま゛す゛う゛う゛う゛う゛入 部 し゛て゛く゛だ゛さ゛い゛い゛い゛い゛! ! 」


 初夏の兆しが訪れる5月末。

その少しだけ暑い日差しが窓から差し込む学舎の廊下にて、更に暑苦しい絶叫を上げる女が一人。


 雲雀 桃春ひばり ももは


 髪は薄ブラウンに染めたショートボブ。

目は垂れてもなく、ツリ目でもなく、絶妙な真ん中ぐあい。

身長は160cmと、これまた絶妙な大きさ。胸部は着用したブレザーの上から少し盛り上がった程度で大きすぎず小さすぎず極めて平均的なサイズである。


 総称するならthe・平凡。

よく見れば可愛い女子なのだが、節々を構成するパーツに突出した物が無さ過ぎてクラスでは目立たず、かといって日陰物な陰キャラというわけでもない。それが、雲雀桃春という普通女子である。


 そんな同級生で15歳な華ある女子高生は今まで見せたことのない普通を超えたリアクションをお披露目してくれる。

女子らしさを全て捨て去ったような大量の涙を流し、汚らしい鼻水を垂らし、俺こと雨河 航季あまかわ こうきの服を掴んで離さず、藤◯竜也ばりのダミ声を廊下に響かせているのだ。


 凄く迷惑なんだが!?

 どうすんだよ、これ!!


「雲雀、落ち着け。声が煩すぎて内容が伝わらん」


「入 部 う゛う゛う゛う゛う゛! ! 」


「うるせぇ!!」


 もう、どうしてこうなった?


 事件が起きたのはつい数分ほど前。授業が終わり、さあ帰宅しようと靴箱へ向かおうと廊下を歩いていた矢先、雲雀に呼び止められたのだ。


「航季くん、ちょっとお話があって……」

と、まさか告白か? などと、うぶな男子高校生らしい淡い期待を雲雀は呆気なく粉砕していった。


 目を潤ませ、鼻をすすり始めたかと思うと、数秒後には汚い高音ボイスで泣き縋るという悪魔コンボを決めてみせたのだ。


 こうして現在に至る。俺がいくらなだめても、雲雀の涙は止まる気配が訪れない。


 こうなると、別の問題が発生し始める。


「ねえ、あれって……B組の雲雀さんじゃ?」

「めっちゃ泣いてね? あの男が泣かせたのかな?」

「女の子を泣かせるなんてサイテー」


 と、まあ……他の生徒が何事かと注目し始めるわけで。

傍から見れば泣くJKと慌てふためく男子の絵面。ヒソヒソと小言が漏れ、奇異の目で見られるのは当然だろう。


 ここで先生まで来たら弁明は不可能に近い。


「雲雀、場所を移そうか!?」


 防犯ブザーみたいな大声を出す彼女の肩をホールドして、引きずる形で場所を移す。



 そうして、人気のない階段下の非常扉近くへと移動を終えると、雲雀を落ち着かせて、改めて事情を聞いてみた。


「……つまり、雲雀が作った部活に入部してほしいと?」


「うん、そうだよ。航季くんも創作部に是非!!」


 先ほどの情緒不安定なヤベー女から一転、雲雀は鼻息をフンッすと鳴らしながら、ガッツポーズをとってみせる。

どうやら彼女は自身が作った創作部とやらの勧誘をしたかったらしい。


 しかし、創作ねぇ……。


 まず、最初に伝えておくと、俺は何かを作る技能は持ち合わせていない。

小説も書けん、絵心もない、音楽なんてもってのほか。

創作とは程遠い存在である。


「雲雀、悪いが創作については……」


「まあまあ、ひとまず部の見学だけでも。それと、中学の頃からの友達付き合いなんだから、昔みたいに桃春って名前で呼んでよ」


 そう一方的に告げる雲雀……もとい桃春は俺の腕を掴んで部室棟へと引っ張ろうとしてくる。


「桃春、待て待て。そもそも俺である必要性がないだろうが。なぜ、そこまでして強引に勧誘してくる」


 それこそポスターを貼るなり、クラスメイトに声掛けしたりとか、根気よく続けていれば一人くらいは入部希望者が出てくるだろう。

やる気が無い俺を無理やり勧誘したとて幽霊部員になるのが関の山だ。


 しかし、桃春は顔をうなだれさせ、ポツリと呟く。


「もう、時間がないの……」


「時間?」


「あと1ヶ月以内に部員を集めないと廃部になっちゃうの!!」


 顔を上げて桃春は嘘偽りない瞳で真っ直ぐに訴えかけてくる。


 ああ、なるほどな。それが俺を必死に勧誘した理由というわけか。

部員の数合わせもそうだが、おそらく、彼女は俺の”とある過去の実績”を当てにしているのだろう。


「分かった。見学だけだけでもしていくよ」


「ありがとう航季くん。部員は他にも2名居るから、部室に着いたら紹介するね」


 桃春の言葉に俺は頷き、部室棟へと歩き始めるのであった。

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