第6話

「……そうだね」


 旦那様は頷くと、手を叩いた。


「玲凛」


 音もなく、黒い羽根――といっても旦那様の物よりはずいぶんと小さい――のついた少女が現れた。


「美冬の着替えを頼んだよ」


「御意」


 旦那様は立ち上がるついでに、私も立ち上がらせてくれた。


「美冬の身の回りのことは、この玲凛に任せてある。何か不便があれば、彼女が基本何とかしてくれる。我が花嫁様の寝顔も拝めたことだし、俺は仕事に戻るけれど……」


 そう言って、旦那様は笑った。


「この城内だったら、美冬は好きに過ごしていい。だけど――」


 ――城外には、出ないで欲しい。


 旦那様派付け足した。


「美冬は、俺の花嫁だ。けれど、身の程知らずがいないとも限らないからね。念のため」


 そう言って旦那様は、私の右手の甲に口づけを一つ落とすと、去ってしまった。




 旦那様がいなくなってから、改めて玲凛、という少女に向き直る。


 玲凛は、髪を二つに分けて結い上げていた。瞳は、一瞬黒だと思ったけれど、よく見ると藍色だった。幼いながらも整っている顔立ちに思わず、見惚れる。




 妖閻の界の妖たちは、みんなお顔が整っているのかしら。




 そんなことを想いながら、微笑みかける。


「よろしくお願いいたします。玲凛さん」


「花嫁様、どうか、玲凛と。それから敬語は不要にございます」


 そう言って礼をした玲凛は、すぐにお召し物をお持ちいたしますね、と言って、一度私の前から姿を消した。




「……」


 一度もにこりともしてくれなかったのは、元々あまり感情を出さない子なのかもしれない。まぁ、私は子を産みさえすれば食べられる身だから、あまり仲良くするのも却って別れがつらくなるだけかもしれない。


そう考えることにして、ぼんやりと部屋を見回す。朱色、そして黒を基調としたこの部屋は、恐らく、寝室……だと思う。




「困ったわ……」


 私は、結婚したらすぐに喰らわれると思っていた。お母様に、食べられないかも、なんて冗談めかして言っていたけれど、まさか、本当に猶予があるなんて。


 私は、もう死ぬつもりでここに来た。


 けれど。その猶予の期間があるらしい。でも、その猶予期間をどう過ごせばいいのか、途方に暮れてしまう。




「花嫁様」


 そんなことを考えていると、玲凛がやってきた。


「ありがとうござ……ありがとう、玲凛」


 玲凛は、ずらりとたくさんの着物を持ってきた。


「どれになさいますか?」


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