第28話 脱出4
「バルマン大佐、準備が整いました。情報軍第3分隊は完全武装で御命令をお待ちしています」
大佐の前には15人の兵士たちが直立していた。彼らの目は緊張していたものの自信に充ち満ちていた。
「親衛隊の連中の動きは予想外に早かったですが、何とか準備は整いました。外のみなもまもなく行動を開始します」
その時大きな爆発が起こる。一か所ではない、同時多発的に爆発が起こった。振動で窓が揺れる。大佐はしかし全く動じず、すっと立ち上がる。
「売られた喧嘩です。盛大に買ってやりましょう」
そう言うと大佐はカイバルから手渡しされた勲章を投げ捨て踏みつぶす。
兵士たちはそれに敬礼で答えた。彼らは大佐の同志であった。
「あんたに一泡吹かせてやるよ」
バルマンはひしゃげた勲章を一瞥すると部屋を後にした。
外の雰囲気がなんだか違う。いつもの馬鹿でかいサイレンは鳴っていないが、様子がおかしい。
さっきの振動は何だったのだ。地震か?天井からパラパラと小石が降ってきて崩れるんじゃないかと不安になるくらいの物だった。
そしてその後にまるで慌てたようにサイレンが鳴った。見張りの兵士たちは慌てて外に出て行ってしまった。
「おい!何があったんだ。ここは大丈夫なんだろうな!」マオが怒鳴る。
だが兵士たちはこちらを見はしたものの何の反応もなくバタバタと外に行ってしまう。
明らかに奴らおかしい。監視が仕事なのにそれを放棄して出て行ってしまった。混乱してるとしか思えない。やはり何か普通じゃないことがあったのだ。
そのまま俺たちは何の説明もなく放置された。この間にもサイレンは止まず、ときどき振動が伝わってくる。まだこの状況は終わっていないのだ。
「クソ、このままじゃ生き埋めだ」
「まさかこれが処刑なのか?」マオがいう。
「まさか、こんなサイレンまで鳴らして。明らかに攻撃を受けているんだ。初めて攻撃を受けたあの夜みたいだが・・・。この振動は明らかに爆発が起こってる!今までとは違ってカイバル側にも被害が出ているはずだ」
また揺れた。天井の石がずれ落ちてきた。頭にでも当たれば一撃で死ねるような大きさだ。ぎりぎりで何とか避ける。
「クソ!明日殺すんだろ。せめて最後の夜ぐらいは生きて明かさせてくれ!」
その願いが届いたのか、扉の外で怒鳴り声が聞こえてくる。言い争いだ。だがすぐに終わる。扉が開いた。兵士たちがぞろぞろ入ってくる。
「章殿、お久しぶりです。バルマンです。我々であなた方を安全な場所までお送りします。シャリン殿もご一緒願います」
シャリンはこの期に及んでも数式を書いていた。いきなり名前を呼ばれてきょとんとしていたが、兵士たちの銃を見てさすがに手を止めた。
「私もですか・・・?」
「ええ、ここは危険ですので」
「わかりました。数式は全部覚えてるので大丈夫ですけど・・・」
「何処に連れて行くんだ?またあのシェルターか?」
「いえ、情報軍が独自に用意した手段で避難していただきます」
そうか・・・。これが運命ってやつか。
「わかった、行こう」
「章!お前・・・」
「マオ、信じてみよう、頼む」
振動で地下はまた揺れる。マオがじっとこちらを見てくる。内心俺はビビりまくっていたが、しかし目はそらさない。じっと奴を見返す。兵士たちは何も言わない。
「わかった・・・。どうせ選択肢はそれしかないしな・・・」
鍵が開けられるが、手錠をかけられる。一応な。
「章、いざとなったら奴らを蹴り倒して・・・」マオが小声で耳打ちしてくる。
「待つんだ。彼らは親衛隊じゃない」
「ついて来て!」
兵士たちは俺たちを囲んで走り出した。
でも監視されているという感じはしない。普段のカイバルの兵隊たちとは彼らの雰囲気は違った。妙な安心感がある。
信じよう、今は・・・。
つづく
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