信号機を作った奴はマッドサイエンティストだろ!

渡貫とゐち

「信号機を作った奴はマッドサイエンティストだろ!」


「”赤信号が止まれ”ってのは常識だが、よく考えてみればおかしくないか?」

「?? いや、赤は危険、って意味じゃないのか? 赤を見ると反射的にぎょっとすることが多いし……」

「恐らく、それは赤信号の意味を知っているからこその先入観だろうな。”止まれ”が赤信号でなければ、反射的に『見たら止まる』ってこともないはずだ。赤色からまず危険を想像するのは人によって違うだろうが……半々な気がするがな……」


 半々なら赤信号として機能するんじゃないか……?

 いいや、コイツの言い分だと、全会一致でないと止まれを赤信号にするべきではない、なのかもしれない。


「じゃあ、お前にとっての赤色ってどういうイメージなんだよ」


「よく聞いてくれた。もちろん、情熱だ!」


 ――は? 情熱?


 確かに、そう言われたら赤色は情熱の赤とも言える。

 赤のイメージからまずそれを浮かべることはなかったが……おっと、これも赤信号が”止まれ”だから、という先入観によるものか? 慣れてしまった止まれの赤信号がなければ、俺も同じように情熱を想像していたかもしれない……。


 もしくは炎だ。

 炎と言えば熱量――つまり情熱か? 結局、情熱に繋がるのだろう。


 炎をイメージして危険を感じることも、まあなくはないが……

 どちらかと言えば前向きに考える。

 赤と言えば前のめりであり、ゆえに、”止まれない”のかも――――?


「でもさ、かと言ってじゃあ、青色が”止まれ”になってもおかしくないか? やっぱり青は”進め”に感じるよ。青を見たらついつい踏み出しちゃうみたいな?」


「青と言えば”冷静になれ”、と呼びかけられているようにも感じるな……つまり、青信号を見たら『これって進んでいいのか?』と二の足を踏むことを意識させることができるかもしれん。となると、躊躇なく進んでしまえる赤を進めとし、一旦冷静になって止まってみな? と言われているように感じる青信号こそ、止まれにするべきなんじゃないか? と思うわけだよ」


 赤を見たら躊躇なく進んでしまう人間の本能けっかんを制御するために、赤信号を採用したんじゃないか? ほら、闘牛が赤い布に猪突猛進するように(あれはあれで色は関係ない、みたいな話もあったようだけど)――

 人間も同じ行動をしていたらまずいだろう。だから矯正するために、あえて前のめりになりやすい赤を止まれとしたのかもしれない。実際のところは分からないが――。


「一度、逆に考えてしまうと気持ち悪くてな……赤は進めで、青は止まれでいいじゃないか」


「いや、今更社会のルールを変えられても困るだろ……これまでずっと赤は止まれ、青は進めでやってきたんだから、今更……。今変えたら、仕方ない事故が多発すると思うぞ。赤ってどっちだったっけ? なんて、車を運転していたら、一瞬の判断で迷えば直で事故になるしな」


「もういっそのこと信号なんてなければ……。人間同士のアイコンタクトで、譲り合いで上手く回るんじゃないか?」


「上手くいくと思うか? 自分だけが良ければいい、なんて人間は山ほどいるぞ?」


 冷たい人間が山ほどいる。

 つまり山ほどいるの『山』は、雪山なのだった。

 自分だけが良ければいいは、氷山の一角では済まなかったわけだな……。


「だよなあ……はぁ、信号機を作った奴が、最初に赤信号を進めとしていれば……こんなことで悩むこともなかったのに!! 信号機を作った奴はマッドサイエンティストじゃねえか!」


「いいや、真っ当なサイエンティストだと思うぞ?」




 …了

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