【中学生百合】ポケットのなかのロザリオ

ナインバード亜郎

ある盛夏の奉仕活動部 01

 理路整然と神様の不在を説明してくれる幼馴染の存在をあたしは心からありがたく思う。


 小人閑居して不善を為す。

 自分を律せない人間のために宗教はあるのだと。


 そんな神様を信じない幼馴染がどんな理由で私立雫石鏡しずくいしかがみ学園に入学したのか、ついに今日まで聞けずじまいでいたけれど、きっとこのまま、あたしはタイミングを逃し続けるのだろう。


 思い返せば一方的に頼ってばかりだった。あいつが奉仕活動部に入ったのだって、半分以上はあたしの我儘じゃないか。最近はどこで知り合ったんだか、バスケ部の女子と仲睦まじくやっているようで部室に顔を出すことも無い。


 幼馴染として、それは少し寂しくもあるけれど、ほんの少しだけ、あの男は、私に余計な気を使っているんじゃないかと思うこともある。

 なんたってあの男は、昔から空気が読める、空気みたいな男なんだから。


 奉仕活動部に――というか、部室棟にはどの教室にもエアコンが設置されていない。

 この校舎は元々老朽化が進んでいて、環境も時代に合わないということで取り壊し予定ではあったそうだ。それが一昔前の震災で運悪くというのか悪運が強いというのか、生き残ってしまった。それをまるで奇跡でも起きたように騒いだ連中がいたため、今もなお、部室棟として中等部に宛がわれている。余計な事しかしない先達らだ。


 あと半年もしたら、あたしはこの校舎を去る。

 なんて表現するとセンチメンタルに聞こえるけれど、ただ高等部に進級するだけで、学園から去るわけではない。

 だから、来ようとすればまだ三年も、生徒として当たり前に入れてしまう。


 まだ三年も。

 なんだか気が遠くなってしまう。


 奉仕活動部の部室は三階の最奥部にある。夏はたまらなく暑くて冬はどうしようもなく寒い。そんなところまで来てるから、本当に気が遠くなってるのかもしれない。

 だとしたら大変だ、こんな場所で倒れたら冗談抜きで死んでしまう。こんな暑い日に、一体誰が来るというのか。まったく、この小さい身体のひ弱さが嘆かわしい。


 部室のドアを全開に開け、中にある扇風機を強風に。それから窓を全開に開けた。こんなことで閉め切っていた三階の部屋の暑さがすぐに和らぐことは無いけれど、やることはやった。

 あとは……そうだ、あのどうしようもない先達らが残してった防災用の備蓄水がある。籠城作戦でも決め込む気だったのか、この部屋には無駄なものが多い。非力なあたしにはどうしてこんなものをと思うものも数多くあるけれど、今日だけは助かった。

 段ボールを封しているガムテープを力いっぱいべりべりと引き剥がして、二リットルのペットボトルを取り出した。


 ……さて、これをどうやって飲む。

 紙コップくらい探せばありそうだけど、頭の中を探っても見た記憶は出てこない。つまり、選択肢は直飲みしかないわけで、一度口をつけるということは即ち消費期限が今日になってしまうわけで。


 いや、そうじゃない。

 認めよう。あたしには二リットルのボトルを持ち上げて一口でも無事に飲める自信が無い。

 これからどうなるか、答えは二つに一つ。

 一つ、干しガエルになるか。

 一つ、濡れネズミになるか。

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