「ぼく」
ふみひろひろ
第1話
ぼくは何のために生まれてきたのだろう。
この問いが、心の中に根を張るようになったのは、14歳の頃からだった。
いじめが始まってから、世界が灰色に染まった。教室にいるときも、家に帰るときも、頭の片隅にはいつも「どうしてこんな目に遭うんだろう」という疑問がこびりついていた。
最初にいじめられた日は、ただ呆然としていた。
無視、暴力、汚物扱い——どれも特別なものではなかったけれど、ぼくには耐えがたかった。
「どうしてこんなことをされるのだろう?」その答えは、いくら考えても出てこない。
リーダー格のAが毎日のように放課後、ぼくを捕まえる。
「今日の罪状は何だと思う?」
Aの問いに、ぼくは俯くしかない。
「主文後回し。」
その言葉が合図のように、BとCが笑い始める。
「つまり死刑か?今日も死刑だな!」
彼らの笑い声は薄暗い校舎裏に響いた。
Aにとって、ぼくをいじめる行為はある種の発散だった。
家では怒鳴り声と物音が絶えない。両親は些細なことで喧嘩を始め、Aの存在はいつも無視される。学校では自分が「上に立つ側」だと実感できる瞬間だけが、安らぎを感じる時間だった。
ぼくが標的になった理由は単純だった。反抗しない、怒らない、ただ俯いている。その無力さが、Aにとっては苛立ちをぶつけるのにちょうど良かった。
「こんなやつ、どうでもいいんだよ。」
そう思いながらも、心のどこかに罪悪感がないわけではなかった。だが、それを認めることはA自身の弱さを突きつけられることだった。
暴力が始まると、ぼくは心を切り離そうとする。
痛みを感じないように、ただ体を硬直させ、目を閉じる。
拳が腹にめり込む感触も、地面に押し付けられたときの冷たさも、ぼくにとってはどこか現実感がなかった。
「なんでこうなるんだろう?」その問いばかりが、頭をぐるぐると回っていた。
ぼくの「不気味さ」が理由だと言う人もいる。
けれど、それは本当だろうか?
ただ感情を表に出さないだけで、そんなに異質に見えるものなのか。
心の中はぐちゃぐちゃなのに、それを誰にも言えない。
この体と心を持って生きることは、これほどまでに孤独で、苦しいのか。
それでも、生きたい。
その願いだけがぼくを支えていた。
どれほど辛くても、ぼくは生きる理由を探し続ける。
たとえそれが、何も見つからないとしても。
BとCはただ笑っていた。Aに付き従い、ぼくを見下し、罵倒する。
「Aに従っていれば自分は安全だ。」それだけが、彼らの心を動かしていた。
Bは一度、何かがおかしいのではないかと思ったことがある。しかし、それを口にすることのリスクを考えただけで、声が出なかった。
「こうするしかないんだ。」Bは、Aの指示に従いながら自分を守っている気でいた。
Cにとって、いじめは単なる「日常の風景」だった。考えることすらなかった。ただ笑っているほうが気楽だった。
Aの拳が止まった。視線がぼくを突き刺すように睨む。
「お前、本当に何も感じないのか?」
その問いに、ぼくは答えなかった。
Aはしばらくぼくを見つめたまま、苛立ちを押し殺すように口を閉じる。
その日の帰り道、ふと振り返ると、ぼくを見ている影があった。
暗がりの中、誰かがじっとこちらを見つめていたのだ。
その視線の意味は分からない。ただ、その瞬間、ぼくの胸に小さな不安が芽生えた。
「ぼく」 ふみひろひろ @fumihiro7326
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