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 乳首しかいじられていないのに、その相手が律というだけでぐずぐずになってしまう。欲望に素直になって、理性が削ぎ落とされていく。



 「あぁっ」



 隙だらけになった僕のズボンの中に律の手が侵入する。すっかり反応しきったそこに触れられると、思わず声が出てしまい、僕は身を捩った。


 赤面なんてもんじゃない。

 全身をピンクに染めて羞恥に震えるも、与えられる快楽に抗うことはできない。

 

 そんな初心な反応を見て舌なめずりした律は、一気に残ったズボンと下着を取り払った。一糸纏わぬ姿にされて、神さまの眼前に晒される。


 それに気づいた僕が身体を隠そうとするよりも早く、抵抗が間に合わないうちに数度手で扱かれた後、律が昂ったそこを口に咥えた。


 信じられない。

 人に触れられることも、舐められることも経験したことがないのに。


 心はやめてほしいと泣いているのに、身体は素直で、だらだらと先走りが溢れてきて止まらない。逃れようする腰を捕まえられて、行き場のない熱がどんどん溜まる。


 僕はやめてという意思表示をするために律の頭に手を添えるけれど、いいところを攻められる度にびくびくと震えてしまって、それは全く意味をなさなかった。



 「きもちいい?」



 意地悪。そんなこと、聞かなくてもわかるだろうに。


 ぎゅっと目を瞑り、止まらない快楽の波に漂っていれば、喜色を孕んだ声色で律が問いかける。


 もう限界はすぐそこにある。



 「紡」



 愛しいひとを呼ぶように耳元で名前を呼ばれると、全身が律を好きだと答えてしまう。

 

 呆気なく達すると思考はぼんやり鈍くなって、これが現実なのか夢なのか分からなくなってしまう。


 長い夢を見ているんだ。

 それなら……。



 「紡?」



 甘さと欲をどろりと溶かした瞳が僕を映す。

 今は夢の中だから許してほしい。



 「りつ、――……」



 ずっと、律だけを追いかけてきたんだよ。

 

 ぎこちなく、震える手を伸ばして、律の頬にそっと触れた。涙を浮かべながら、最愛の名前を呼ぶ。


 それを聞いた律がハッと目を見開いた。


 律もそんな顔するんだ、なんて思いながら目を閉じれば、どっと疲労感が押し寄せて、僕は深い眠りの世界に旅立った。



 「参ったな、手放せなくなる……」



 頬を染めた律が柔らかい笑みを浮かべながら、涙が滲んだ跡をそっと撫でていたことなんて、すっかり夢の中にいた僕には知る由がなかった。

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