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 ◇◇


 少し休憩を挟んだ後、再度ステージに呼ばれた決勝進出者――僕と、女子高生の白鳥瑞希のふたり。彼女は休日に駅前でギターの弾き語りを精力的に行っているらしい。


 素人の僕が聴いても、心揺さぶられる歌声だった。この人には敵わないんだろうな、そう思う程の実力。


 ……だけど、少しでも可能性があるなら、それに縋りたい。


 正直、歌う前は結果なんて何だっていいやと思っていたけれど、今は違う。だって、律の大事な曲を歌わせてもらったんだ。律の目の前で負けるなんて、恥ずかしい。


 今でもこの場所に立っていることが信じられなくて、都合のいい夢を見ているんじゃないかとさえ思ってしまうけれど。


 ここまで来たんだ。どうせなら勝ちを手に入れて帰りたい。

 心の中でそんな感情がぴょっこり顔を出す。


 ライトが消されたステージはしんと静まり返っている。僕は掌に爪が食い込むほど力を入れて、その時を待った。



 「第五回ジャパン・タレント・オーディション、優勝者は――」



 そんな司会者の声と共に、ドラムロールの音が鳴り響く。


 場の空気がピリッと変わり、緊張感が一気に高まる。審査員、番組協力の観覧者が固唾を飲んで見守る中、遂に決着の時が来る。


 パッとスポットライトに照らされて、名前を呼ばれたのは――……。



 「……白鳥瑞希!」



 ズドンと、大きな塊が胃の中に落ちてきたような落胆。ぐっと込み上げてくるものがある。

 

 司会者や審査員が話を続けているけれど、全く言葉が耳に入ってこない。


 僕じゃ主人公にはなれない。

 産まれたときから分かりきっていたことなのに、改めて現実を叩きつけられたみたい。


 歓喜に咽び泣く彼女の隣で、暗闇の中、僕は唇を噛み締めることしかできなかった。

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