第2話

そうして何時間経っただろうか。

やっと解放される時が来た。

「けっ!今日はこれくらいで勘弁してやる。行くぞ!お前ら!」

そう相手のボスが言って、取り巻きも一緒に帰っていく。

酷い有様だ。

制服は土だらけで、所々破れている。

自分の身体は痣だらけで、皮膚が破れて血が出ている。

骨も折れているだろう。

でも、ここでうずくまっている訳にはいかない。

この後にバイトがあるから、行かないといけない。

壊れた身体に鞭を打ち、歩き出す。

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

ファミリーレストランでのバイトだ。

幸い、顔には何も目立った痣は無く、接客も問題なくできるだろう。

身体が尋常じゃなく痛いが、顔に作った笑みを貼り付けて、仕事をする。

仕事中にふと気づく。

そうか、今日は給料日だったな。

一銭も自分のお金にはならないというのに。

「はっ。」

そう思ったら、自嘲気味な笑いがこぼれた。


給料を受け取り、家に帰る。

目の前に広がっているのは、

周囲に乱雑に置かれている酒瓶。

男が来ていたことがわかる、散乱したコンドーム。

整理のりの字もないような悲惨なありさま。

いつもの家である。

「ただいま、母さん。」

「ぅぉ?あー、帰ってきたのか。」

「帰ってこなきゃよかったのになぁ。」

その言葉を無視して、自分の物が置いてある部屋に行こうとする。

できれば話しかけないでくれと思いながら。

しかし、現実がそううまくいくはずがない。

「おまえ、今日給料日だろう、金出しな。」

「わかったよ、母さん。」

給料を差し出す。

「......これっぽっちか。もっと稼いでこいよ。」

何も言わず、立ち去る。

こんな日々、早く終われと願いながら。

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