第22話・幼馴染みです
「部長の仕事って面倒臭いなー」
書類の束を抱えながら今日もまた生徒会へ。
生徒会や学校主催の
(そもそも部活動単位にしないで欲しいなぁ)
恒例化しているとはいえ、学校のクリスマス会なんて誰が参加するというのだ。
そんなものを企画するぐらいならば、冬休みを1日短くしてくれた方がよっぽど嬉しいのに。
と、テルは手の中のプリントを見ながら思った。
(さっさと出してお昼にしよっ)
軽快な素振りで生徒会室の戸に手を掛ける。
こう短期間に何度も同じ場所を訪れれば、流石に慣れてくるというものである。
「失礼します」
定型文と共に戸を開く。
(んー?)
開く。
開こうとする。
が、扉はガタガタと音を立てるだけで一向にスライドしなかった。
(もしかして鍵掛かってる?)
「あ、申し訳ありません。授業が長引いてしまって――」
突然横方向から話し掛けられ、
視線の先には小さく息を荒げた有希乃が立っていた。
(授業終わって走ってきたんだ、副会長。なんて健気な)
「瀧川さんでしたか。書類を持ってきてくださったのですね」
「あ、はい」
「今生徒会室の鍵を開けますので」
「お願いします」
スカートのポケットから古めかしい鍵を取り出した副会長がテルの隣へと移動する。
反対の手にはお弁当袋を持っているところを見るに、このまま生徒会室でお昼を食べるつもりだったのだろう。
「お待たせしました。どうぞ」
「失礼します」
(あれ? 今日はあんまり緊張してないかも)
有希乃と接する際は毎回うるさいほど心臓が鳴っていたはずなのに、今日は随分と平穏だ。
(慣れちゃったのかな?)
「どうかなさいましたか?」
「いえ、すみません」
物思いにふけっていたテルに対して、有希乃が唇を震わせた。
(おっと)
慌てて彼女に続いて室内へと入る。
閉め切っていたせいか、有希乃のフレッシュな髪の匂いがやたらと鼻に付いた。
「これ、お願いします」
「拝見させて頂きます」
長机の上に弁当袋を置いた有希乃に書類を渡す。
前回とは異なり記述量が微微たるおかげで、すぐにチェックが終わった。
「はい、大丈夫です。受領しました」
「どうも」
軽くお礼を言い、自らの巣に帰ろうとするテル。
「瀧川さんは普段何処でお食事を取られているのですか?」
が、突然有希乃が問いを飛ばしてきたことで足が止まる。
「美術室ですよ。そういう副会長は生徒会室ですか?」
「いえ、今日は特別ですよ。普段は教室で食べています」
(誰と?)
思わず先日の昼休みの場面がフラッシュバックし、妙なことを発声しそうになる。
「いつもお弁当です?」
だが、どうにか堪えて別の内容に切り替えた。
ここで踏み込めるほど、テルの心臓はタフでは無い。
「ええ、そうですね。母が毎日作ってくれますので。ただ時折――」
くすっと微笑む有希乃。
「野良猫が学校外のパンを恵んでくれますが」
「そ、そうですか。人懐っこい野良猫なんでしょうね」
(何言ってるんだろアタシ。こんなの例えなのに)
「はい。最近は私以外の人にご執心のようですが」
意地の悪い瞳を向けて来る。
どう考えても野良猫の正体はギャルのことだろう
(ここまで話に出たならもう直接聞いても良いか)
「あの」
「何でしょう?」
「ココロと副会長は本当に友達なんですか? こういうのもなんですけど、全然接点が無さそうっていうか」
言葉にした途端、副会長の目がちょっとだけ鋭くなった。
(しまった、踏み込み過ぎたかっ!)
「すみません、変なこと聞きました。アタシそろそろ行きま――」
「幼馴染みですよ。家が近くて小学校が同じだったんです」
「え……?」
逃げようとしたテルの心に釣り針が刺さる。
「近くだけあって、登下校で一緒にすることが多くて」
「そうだったんですね。」
(思ったより普通だった。――って、アタシ何を想像してたのっ!?)
「退屈な答えでしたか?」
「いえ、そんな。納得出来ました」
昔からの付き合いであれば、立場が違っても仲が良いことも、一緒にいて自然の表情になるのも分かる。
何だか胸につっかえていた骨が取れたような気分を、テルは味わった。
「逆に私の方は少々意外でした。あの子、高校生になってからは男の方にご執心だったので」
(あ、そういえば彼氏持ちだったな。元だけど)
水道の前で泣いていたココロを思い出す。
ただ、今になっても相手の男子の顔は出てこなかった。
「振られちゃったみたいですけど」
「心の良さが分からない男子の方に、見る目が無かったということでしょう」
「アタシとしては完全に同意しかねますが」
(貧乏神みたいに粘着されれば嫌な人だって絶対いるだろうし)
事実、テルもまた最初はそうだった。
人は誰にだって自分のペースがあるのだから、自分勝手にかき回されるのはやはりストレスだ。
今テルが平気なのは完全に慣れてしまったからだ
(ま、誤解されるのも嫌だし伝えとこ)
「ただ――」
「ただ?」
オウム返しで問い返される。
対してテルは、有希乃の瞳を真っすぐな視線で貫いた。
「ココロのことは、アタシも嫌いでは無いですよ」
純粋な気持ちをぶつける。
すると、ちょっとだけ有希乃の目が開いたような気がした。
(ちょっと恥ずかしいな、これ)
首から下の熱が顔の皮膚に集まっているよう気がして、テルは反射的に頬を手で仰ぐ。
心なしか鼻息も荒くなっていた。
「アタシそろそろ行きますね」
「はい、書類ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げ、テルは生徒会室を出た。
そして出入り口の扉を閉め数秒歩く。
(うん?)
突如生徒会室の方から何かが落ちる音がした。
(ファイルでも落としたのかな)
しかし、テルは気にせず美術室へと目指す。
(ココロに遅いって文句言われそうだなぁ)
すっかり相方として定着してしまったギャルのことを思い浮かべながら。
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