江戸の迷い子
チャッピー
江戸時代へ!
小学校からわたしの家への帰り道、その途中に、その神社はあった。
わたしは、いつもその神社に寄る。
たまには、お菓子とか食べてゆっくりする。
行けない日もあったりはするけれど、出来る限り毎日神社に行く。そして、絶対にお参りする。
わりと昔からの習慣だ。
特にこだわりがあるわけじゃない。
なんとなーく、毎日やっておきたい気分になるのだ。
お参りしても、お願い事とかは別にしない。
テストで良い点取らせてとか、お小遣いアップしてほしいとか、あのゲームがほしいとか、思うところはいっぱいあるけれども。
この神社、という祠、とっても小さくてボロボロなのだ。
わたし以外にお参りしている人をほとんど見ない。
神様が暇しているなら良いけれど、こんなにもボロボロの神社に住んでいる神様に、何度もお願い事をするのは気が引ける。
神様の力とやら、ちゃんと持っているのでしょうか。
失礼だね。
でも、それくらい小さくてボロボロです。
お辞儀して、手を合わせて、挨拶。
やぁやぁ。
それだけ。
まぁね、ひとりくらいは、気にかけてくれる人がいたらうれしいってものでしょうよ。
今日は、コンビニにでも寄ってジュース買おうかしら。
そう思って、回れ右。
そしたら、後ろから声をかけられた。
後ろには小さな祠しかない。
つまり、祠の中からだ。
『頼みます』
うそぉ。
わたしは、もう一度振り返る。
祠をジーッと見つめた。
神社の周りの木々からは、葉が擦れる音が聞こえ、優しい風がわたしを撫でる。ボロボロの小さな祠は、いつも通り静かに佇んでいるだけだ。出てないよね?声出てないよね?
『頼みます』
やっぱり、祠から声がしている。
まぁね、百歩譲って神様?とやらが人間に話しかけることはね、あるかもしれない。
誰もいないからね、今。
友達からも、幽霊見ちゃった!的なホラーな話、よく聞くもん。
幽霊がいるのなら、神様がいてもおかしくはないよ。
でもさぁ、頼みますって、神様がわたしにお願いしてるってこと?
逆じゃない?
この逆じゃない?ってのもちょっと生意気感でちゃってるかもしれないけどさ。
でもなんか……逆じゃない?
(……神様ですか?わたし、普通の小学生です。今はお弁当の中にある残り物のブロッコリーくらいしかありません。お供え物出来ません。他に何かすごいお願い事されても多分出来ません)
わたしは、心の中で唱えてみた。
『好き嫌いはやめなさい……』
なんだよ!!!
(すみません。ブロッコリー食べられるようにがんばってみようかなって思います。それはそれとして、頼みますってなんですか。神様からわたしに向けて)
『おんやぁ、トゲがある感じですね。いきなり説教始まって怒りました?元気ですねぇ、昔から変わらず。まぁ、元気なのは何よりですが)
神様って、結構ラフなんだなぁ。
あと、わたしはたしかにこの神社に何年も来ているけれど、神様の目の前ではしゃいだことってあんまりしてないはずなんだけどな。どっちかっていうと、神社の近くでは物静かにするよう意識していたんだけど。
昔ここで転けたし。
となると、わたしの私生活をのぞき見たことがあるということか。
神様とて許せぬ。
『勘違いしないでください。ぼくはね、神様じゃあないです。正確には、神様代理。本当に祀られてる人ってのは別にいます。ぼくはねぇ……使い魔とかって考えてください。ぼく、犬ですし』
(ぼく、犬ですし???)
『そうです。ぼくは犬です』
(神様じゃないけど、神様代理としてがんばっていて、そもそも犬だけど、人間の言葉しゃべってわたしと会話しているんですか)
『まぁ、そうです。厳密には、念話ですけど』
こまかい。
『さて、頼み事のことなのですけれどね。申し訳ない、強制です。お願いしたいことがあるのですが、じゃなくて、頼みます、だったでしょ。いや本当すみませんね』
こまかい。
というか、謝っている風でありながら図々しいな。
(何をさせられるんですか)
『この神社の存在を、現代に結び付ける為に、そして、現代を現代のままに救う為に、あなたには江戸に行ってもらおうと思います』
むずかしいことを言い始めた。
というか、意味がわからないことを言い始めた。
(どういうことですか?)
『ははは、そうなりますよね。とりあえずね、あなたをこれから江戸に飛ばします。そこで、色々困ったことが起きているので、とにかく助けてあげてください。じゃあ、いきますよー』
(ちょ、ちょっと待って!江戸って、江戸時代!?)
『そうです』
(なんで!?)
わたしの当然の疑問に、神様代理とやらの犬は、うーん、とうなったあと、適当にこう答えた。
『理由を言葉で表すとしたら、運命、ってやつです』
その言葉を最後に、わたしの視界にうつる世界は歪み始め、真っ暗になった。
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江戸の迷い子 チャッピー @chappie0
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