タイムリープする令嬢は家族のためにかたき役になります!

@tnb2525

第1話 氷の令嬢

 「来たわよ。氷の令嬢、ジョシュアだわ」

 「ホントに、冷たい目。きっと私達を見下してるんだわ。」

 氷の令嬢と呼ばれた女、ジョシュア。彼女は高い背丈で、黒い瞳に黒い髪を持つ。言葉数は少なく、態度もそっけない。

 故に友人もおらず、果てにはおかしなあだ名までつけられている。


 そんな彼女は今、学校に通っている。ブルジョワばかりの荘厳な所だ。

 「あっ!お姉様〜!」

 そんなジョシュアに声をかけたのは、妹であるマリアだ。姉とは対称的に低い身長でカールのかかったベージュの髪を持つ。

 

 「マリア、令嬢が走るものじゃないわ。はしたない。」

 「ごめんなさい!でも、お姉様に会いたかったの!」

 潤んだ瞳を見せるマリア。宝石のように青く輝くそれは、万人をも魅了する。


 「ジョシュア!そう厳しく言わなくてもいいだろう!?」

 大きな声を出してマリアの隣に居る男の名はジオ。金色の髪と瞳で眉目秀麗な男であり、ジョシュアの婚約者だ。

 「いいの、ジオ。悪いのは私だから。」

 「マリア!お前は優しいのだな!」

 「そんな…」


 ジョシュアの前を塞ぎ会話をする2人。それを見て周囲は再び噂する。

 やはりジオに相応しいのはマリアだと。冷たい女など相応しくないと。


 いつもの噂話だ。だが悪い気はしない。何故ならこちらとしてもジオとマリアがうまくいってくれるのは好都合だからだ。


 ジョシュアには記憶があった。今までの人生の。何も、子供の頃からの記憶があるという訳では無い。

 ジョシュアとして生まれてから死ぬまでの記憶があるのだ。そう、理由は不明だが彼女は人生を繰り返しているのである。

 

 記憶通りであればこのあと婚約破棄をされてジオとマリアは結ばれる。

 そして、独り身のジョシュアはここから成り上がり、ジオは復縁を要求する。

 彼女はこれをのまなければならない。何故なら、マリアはジオと一緒にいては幸せになれないのだ。


 ジオというこの男、火種を直ぐに抱える質である。そのため、ジオと結ばれてしまってはマリアは巻き込まれて凄惨な死を迎えてしまう。

 それを回避する為にもジョシュアは力をつけてから、ジオがマリアに近づかないようにしなければならない。

 思いついた方法が婚約破棄からの成り上がりであった。この調子なら計画は順調だろう。

 

 硬い表情が僅かに緩んでしまうのを感じる。これで妹は酷い人生を歩まずにすむのだから。

 「あっ!お姉様!何か良いことでもあったの?教えて!」

 「?どうしてそう思ったんだ?」

 「だって、今少し笑顔だったよ!」

 「うーん、そうか?」

 

 私の出来た妹は機微にも気づいてくれるらしい。周囲からかわいこぶってるだ何だと言うが、ある種、技術の賜物だろう。

 マリアは気がきくのだ。人の変化に気付き、寄り添える。そんな妹が大好きであった。


 対して婚約者であるはずのジオは、何も気付きはしなかった。まぁ、表情に乏しい自分の変化に気付けと言うのは酷な話か。

 「それよりもマリア!今度僕の家へ来ないか?」

 「家?街じゃだめかな?」

 「街なんかよりも僕の家のほうが快適だ!君もそうだろ?」

 「うーん…」

 

 飾りといえど婚約者の前でこんなことを言うとは思いもしなかった。というか、優しいマリアが断らないと思って言っているのだろう。

 流石にこれは口出ししなくては。

 「ジオ。立場を考えたほうが良いんじゃないかしら。」

 「…。そんなに僕とマリアに仲良くなってほしくないのか。」

 

 当たり前だ。本当は疫病神のようなもに可愛い妹は極力近づけたくない。

 「確かに、お姉様の言う通りかも。」

 「な、何!?マリアはジョシュアに味方するのか!?」

 「み、味方って訳じゃないよ。でも立場を考えたら仕方ないかなって。だからね、変わりに私達の家に来るのはどうかな?」

 「マリア!君は!本当に!優しいのだな。あぁ、そうだ!マリーと呼んでもいいか?渾名で呼んでみたかったんだ!」

 「勿論、良いよ!」


 喧しく吠えるかと思うと、今度は渾名がどうと言い出した。呼んでいい訳がないだろう。

 というか、マリアに親しげに擦り寄らないでほしい。ジョシュアとマリアで姉妹感が強い名前が好きなのだ。勝手にマリーなんて、妹を呼ぶな。


 そう思いながらも、氷の令嬢ジョシュアは妹のハッピーエンドを目指して今日も生きる。


 


 

 

 

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