第5話 黒の組織・MIB・ブルースブラザー……
「全く、どうしてボクがこんな尻拭いをしなくちゃいけなんだ」
イライラとした声が荒れる海を行く船の中にこぼれた。
黒いスーツの上下に黒いサングラス、黒いフェドーラ帽から背中まで伸びる髪も漆黒。
荒天により本来欠航する予定であったはずだった煮三鳥居島行きの古びた貨客船の客席に人影が一つ。
どう見ても怪しげな状況であるが、何よりも異様なのは、その人影が幼い少女の姿をしている事であろう。
自らの衣装に反するように白い肌の少女は、唯一の手荷物の大きく古臭い旅行鞄を軽く蹴ると頬杖を付き荒れる海を見て小さくため息をついた。
「これで無駄足だったら……いや、無駄足の方がありがたいが」
そう彼女は面倒くさそうに呟くと頭を掻いた。
彼女が島に向かう理由。
事の発端は数ヶ月前に遡る。
高速道路において観光バス中央分離帯に突っ込み、多くの乗客が亡くなるという大事故が発生。
原因自体は過酷な労働環境下──所謂ブラック企業であった──に置ける過労による居眠りというただの有触れた不幸な事故だった。
そんな、ただのその不幸な事故の遺体の中に不審な存在がいた。
曰く、『死んでいるのに死んでいない』
そのわけのわからない報告、まともな所なら世迷言と取り合いもしないだろうが、彼女の所属する機関はそれ(・・)の専門組織だった。
各所に配置された耳よりその報告を得ると、すぐさま遺体の確認に人員を派遣したが、そもそも報告自体が遅かったという問題もあり、遺体は既に遺族の手に渡り火葬されてしまったと知らされた。
報告にあった異常も気のせいとも取れる内容であり、この件は事案の記録のみで終了するかと思われた。
しかし、記録を編集中の所員がある事に気付いた。
報告にあった異常のあった遺体、鈴藤一家の地元に関して情報が少なすぎたのだ。
日本各地に耳と手を持つ組織ですら、一般人が簡単に手に入れられる程度の情報しか得られなかったのだ。
それを不審に思った所員が、各方面に手を伸ばし情報を集めたが、追加でわかった事など今でも土葬の風習が残る珍しい土地であるという記載程度であった。
これに違和感を覚えた組織は追加調査、現地調査を決定。
すぐさま煮三鳥居島に調査員の派遣が決定された。
そして、派遣調査員に彼女、茶文蛍(さもん けい)が選ばれたのだ。
彼女としては、他に担当している事件があったが、万年人材不足の機関、他に適任者がいないと半ば強引に押し付けられ、引き換えと言ってはなんであるが、蛍は文献等での事務調査を優秀だが問題のある後輩に押し付けながらも納得のいかないまま現在に至った。
「はぁ……」
調査員に任命した上司の本心は、最近働きすぎの彼女へ慰安旅行の意図もあったのだが、そんな事当人には全く届いて折らず、アンニュイな気分のため息をつき海水に濡れる窓の向こうを見た。
無理矢理出航させた船はうねる海を進み、波の遠く向こうには小さな島が見えた。
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暗黒御伽草子 ~不死者の島~ 名久井悟朗 @gorounakuoi00
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