第22話 会議終了と左右からの柔みで椅子から立ち上がれない俺





「そう、誰か強大な力を持つ者に魔力を与えられ、動かされたのではないか。例えばその伝説のドラゴン、とかね」



 『月下の宴』の所有する建物の二階の会議室で、メンバー全員が集まっての会議が開かれた。


 その目的は、『エルフ大樹の森』においてのオークの異常増殖について。


 本来迷宮の奥深くに生息しているクラスのオークエンペラーの存在が確認され、それの討伐会議かと思ったが、ロイドさんから衝撃の発言。




「ドラゴンが人里近くを何度も飛ぶなんて、おかしいんだよ。彼等は普段、人間が辿り着けないような高い山、地下深くのマグマ湧く洞窟、大海原に浮かぶ無人島などにいて、絶対に人間と関わらないように、人を拒絶するような場所にいるんだ。それがなぜファーマルの付近を飛んでいるのか……おそらく何か目的があるはず」


 ロイドさんが持論を展開するが、そういえばリューネは度々、つまらなかったとか、人間の文化なんか興味がねぇ、とか言っていた。


 つまらなかったから、オークたちにちょっかい出して、周囲の集落を襲わせた……?



 ────ありえない。



 確かにリューネは毎日ずーっとつまらなかった、と言っていた。


 でもそれは『殴っても壊れない物が無い』ことへの不満であり、それをオークたちをけしかけて人間やエルフを襲わせる、まるで弱い物イジメのような行動を取らせたとて、リューネの不満は解消されない。


 リューネがやりたかったことは、絶対に壊れない物を自分で直接殴りたい、というもの。


 そして俺が柱を出してあげたら、本当に嬉しそうに、本当に楽しそうに柱を殴っていた。


 それこそがリューネが言う、数百年の不満が解消された瞬間であり、夢が叶った瞬間だったのだと思う。


 なによりリューネは、俺がオークに襲われたとき、上空から炎を吐き俺を守ってくれた。


 あの笑顔、今までの彼女の行動、全てを鑑みても、リューネはオークをけしかけて誰かの命を奪うような行動をするやつではない。

 

 絶対に。



「ド、ドラゴン……!? 冗談でしょうロイド? オークとドラゴンの動きが関係あるとか話が飛躍し過ぎ……」


「でもルナレディア、ファーマルでのオークたちとの戦いの報告書を見たけど、彼、シアン君がそのドラゴンに襲われた、とある。君はそれを目の前で見ているはずだ。そしてオークたちは一度来れば、その後何度も来る。君はそれをエルフの集落で見ているはずだ。人間を襲ったドラゴンとオーク、これらを同列に危険視するのは当然だと思うが」


 ルナが驚きと混乱の表情で言うが、冷静な表情のロイドさんが言葉をかぶせてくる。


 報告書、多分ルナがファーマルの街で起きたことを文章で提出したのだろう。


 そこに何て書かれているか分からないが、今の反応を見るに、ルナもリューネのことを知っているし、オークの行動とリューネの動きは全く別だと思っている。


「でもそのドラゴン、オークに襲われたシアンを炎のブレスで助けてくれています……」


「そう、そしてシアン君を襲った。どうにも行動が一貫としていないんだよね、そこがよく分からなくてさ。オークや当のドラゴンに話でも聞ければいいんだけど、そんなことが出来るわけがないからね、あはは」


 リューネの行動は……多分、俺がオークたち相手に柱魔法を展開した、それを見て柱殴りてぇ、と思ったが、俺の周りに邪魔なオークがいたから焼き払った……そんな感じじゃあないだろうか。多分。


「シアン君、君の考えを聞かせてもらってもいいかな。君はその場にいて、ルナレディアと協力してオークたちと戦い、そしてあのドラゴンに襲われた当人だ。外部から見ればドラゴンとオークの動きは関連しているように見えるけど、現場にいたルナレディアは関係ないと思っている。では……君はどうだろう。歴史上、伝説のドラゴンと戦い、生き残った人間なんて数百年前の英雄勇者と君ぐらいのものだ。残念ながら僕らはそのドラゴンと戦ったことがない。でもシアン君は対峙し、攻撃を防ぎ生き残った、もはや英雄と言ってもいい君の話をお聞きしたい」


 ロイドさんが俺に話を振ってくる。


 俺と対峙したその伝説のドラゴンとやらがここにいるのだが、リューネの正体とか、多分広めないほうがいいんだろうしなぁ。


「……俺は十年前、六歳の時まで、シルビドの街で暮らしていました。ですがある日、数えきれないほどのオークたちに襲われ、街は崩壊しました。両親が俺を必死に逃がしてくれ、なんとかファーマルの街に俺一人が辿り着きましたが、父と母は帰ってきませんでした。そして先日、ファーマルの街もオークに襲われましたが、ルナに助けられました。俺は両方の生き残りですが、ドラゴンとオークの動きに関連性は無いと思います。ドラゴンは俺を助ける行動をしていましたし、攻撃をしてきたのも、俺の柱魔法に対してだけでした。おそらくドラゴンは俺の柱魔法に反応していただけで、人間がどうとか、オークがどうとか興味なさそうに思えました」


 その後のリューネの話を聞く限り、まぁ、大体合っているだろ。


「……確かにドラゴンは一度シアン君の柱と激突したあと、追撃は無しで飛び立ったみたいだし……」


「……シルビド……?」


 俺の答えにロイドさんが思案し始める。


 そしてもう一人、俺の発言にルウロウさんが反応した。


 シルビドは俺が生まれ育った街で、十年前オークたちによって滅ぼされた街だが……なぜルウロウさんは街の名前に反応したのだろうか。




「では今回の会議はここまで。ドラゴンの件は保留で、引き続きオークエンペラー対策に絞っていく。シアン君、ごめんね、辛い話を思い出させてしまった。でもドラゴンの貴重な情報を聞けたよ、ありがとう」


 

 その後、現状確認や今後の予定が話され、『月下の宴』メンバー全員集まっての会議が終わった。


 ロイドさんが最後俺に近寄り、申し訳なさそうな顔で謝ってくれた。


「い、いえ、周りに助けられたり、ただ運よく生き残っただけですし……」


「シアーーン! あーもう健気……! 良いのよ、私の胸で泣いても。これからは私が側にいてあげるから……」


 謝られるようなことは……と焦っていたら、真横から大きくて柔らかい物が俺の顔にアタックをしてきた。


「フゴォォ……! ル、ルナ……! ちょ、やめて……」


「ふァァ……やっと終わったのかよ……あァダリぃって、何アタシのシアンを苦しめてんだクソエルフ」


 リューネがかったるそうに立ち上がり、ルナに抱かれている俺を見て不機嫌そうに言う。


 そしてリューネも同じように俺の顔に大きなお胸様を押し当て、ルナを至近距離で睨む。


「苦し……? 何を言っているの? シアンは私にこうされるのが好きなんですけど?」



 ルナも一歩も引かず言い返すのだが、その、座っている俺の頭の左右から柔らかい物が押し寄せていて大変なので、離れてくれないですかね……















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