第14話 『月下の宴』加入歓迎会と全状態異常無効の効果発動





「今日は我らが『月下の宴』の新メンバー歓迎会だ、遠慮なく飲んで食ってくれ!」


「いただきまーす!」



 夕方、Sランクパーティー『月下の宴』が所有する建物の一階、食堂の一角にて、俺たちの歓迎会が開催された。


 リーダーであるロイドさんがお酒の入ったコップを掲げ、宴の始まりを宣言。


 お酒飲める組はお酒、未成年の俺は果実ジュース。


 テーブルには肉に魚、果物などが並び、孤児院育ちで久しくこんな豪華なご飯を見たことが無い俺は困惑。


 ど、どう食べればいいんだ?




「シアン、食べ物は何が好み? ここに無ければ特別に料理人であるロイドに頼んであげる」


「ヒャハハー! これ全部食っていいのか! すっげェ、おうシアン、まずは高い肉から行こうぜ!」


 俺の左にはエルフのルナ、右には皆には内緒だけど神武七龍の一人だという赤き翼の龍、リューネ、二人の女性が座り、目の前に用意された豪華な料理に満面の笑顔。


「あ、ルナありがとう。とりあえずお刺身をいただこうかな。リューネ、高価な順に食べようとかいう無茶はやめようね」


「バカが、そんなことも知らんのか! こういうのは美味しい順に食べるのが正解なんだよ。まずはスープで胃を暖め、野菜系、そしてメインの肉に箸をドン! さらにご飯やパンを頬張る! どうだ新人、これが食べ放題の極意だ、覚えとけ! フハハ!」


 ルナの正面に座っているルウロウさんが食べながら箸を俺に向け、すっごい上から食べ放題の攻略法を教えてくれているっぽい。


 それはいいのだが、せめて呑み込んでから喋りましょう。


 うーん、さっき俺を悪鬼だのなんだの、悪態を言いながら剣を突き出してきたルウロウさんだが、少し当たりが柔らかくなったのかな……?


 まぁあの後ルナにお説教をされていたから、心を入れ替えてくれたのだろうか。


「ごめんね、シアン。ルウロウは初めてこのパーティーで後輩が出来たから、浮かれていたんだと思うの」


 ルナが申し訳なさそうな顔で言う。


 え、でもあの人、パーティー加入前の、俺が後輩になるかもまだ決まっていない試験の段階で全力で剣を振るってきたが……あれが浮かれた行為だったの? うそだろ。



「あれが『月下の宴』の新メンバー?」

「子供みたいだけど、大丈夫なのか?」

「つか俺たちのルナレディア様の横に座りやがって……!」



 さすがに世界的に有名なSランクパーティー『月下の宴』。そこに新メンバーが入ったことはすでに噂で王都に広まり、この食堂に見に来ている人も多数いる。


 不満そうだったり、不安そうだったり。


 高ランクで有名な冒険者が入れば彼等も納得なのだろうが、何の実績もない、ぽっと出の子供みたいな俺では、ああいう声も納得出来る。


 つかいまだに俺自身が不安なんですって。なにせ冒険者にすらなっていないし。


 そして最後のルナの横に座るんじゃねえ苦情は、とてもよく分かる。


 マジでルナって超絶な美人さんでスタイル抜群。食堂に来ているお客さんのほとんどが、一度は俺の横のルナに視線を送っているからな。



「……気にしちゃだめよシアン。あなたは実力で私や『月下の宴』のメンバーを納得させたんだから。シアンの力は本物よ、そう、この私が保証してあげる。ふふ」


 俺の視線と周囲の声に気付いたのか、ルナが優しい微笑みで俺の頭を撫でてくる。


 ……この笑顔に惚れない男はいるのだろうか。いや、同性であるルウロウさんもルナに惹かれているっぽいし、この笑顔はとんでない破壊力である。


「私たちのパーティーに入りたい人って、すごいいるのよ。それは冒険者としての憧れだったり目標だったり。それだったらまだいいんだけど、中には『月下の宴』の知名度を利用して自分の価値を高めてやろうって考える人もいて、面倒なのよ」


 ルナが溜息交じりに言葉を吐き、お酒をぐいっと飲み干す。


 ああ、彼等、ファーマルの街にいたロイネットとウオントがまさにそれだったな。


「Sランクパーティー『月下の宴』に入るのが目的、なんて冒険者は正直いらない。私たちが仲間として求めているのは、誰かを守りたい、救いたいという信念がある人。お金が欲しい? 有名になりたい? そういうのがやりたければ、どうぞご自分でそういうパーティーをお作り下さいってね」


 ん? なんかルナの顔が怖くなって……


「なんかもう下心バリバリで近付いてくる人もいてさ、私の身体を舐めるように見てきて……ああああっ最悪、背中がゾワゾワするっ! 今すぐに輪切りにしたい……!」


 わ、輪切り……? 


 ち、ちなみにどこを、ですかね……もしや男のその、股間の……


「でもシアンは戦えない人を守りたいっていう信念をしっかりと持っていて、しかも言葉だけじゃなくて、キチンと行動でそれを示した。格好良かったよシアン……ふふ、私、逆の意味で背中がゾクってしちゃった」


 ルナが火照った顔で俺に近付いてくるが……え、背中がゾクって、俺のを輪切りにしたいとかじゃあないですよね?


「あなたの強い想いは、私たち『月下の宴』の目的と重なる。今日から一緒にがんばろうね、シアン。あなたになら、背中を預けられる……」


「うわぁー、ルナが珍しく酔って欲情してるよー! シアン君逃げてー、ルナってショタ好き拗らせ系エルフだからー」


 ルナの背後からメイメイさんが現れ、羽交い締めにする。


 ショ、ショタ……? 俺もう十六歳で、身長も百八十近いですけど……?


「メイメイ……! は、離しなさい! 誰が年下に欲情ですって? 確かにシアンは可愛い顔をしているけど、これはパーティー加入おめでとうって意味で、年長者としての助言とアドバイスであって、これから背中を預けるパートナーへの個人的な想いを……」


「ルナが酔うほどお酒を飲むこと自体珍しいけど、そういえば以前、そろそろ独り身も寂しいし婚活をとか言っていたー。パートナーって、これパーティー加入歓迎会だよ? 何を急に個人の婚活パーティーやってんの。多分これ、恋愛のアレコレとか本で読んだけど理解できなくて、積み重ねとか相手の気持ちとかぶっ飛ばしてお酒の勢いでやろうとしてるー! 逃げてシアン君ー!」


 暴れるルナをメイメイさんが、がっちりホールド。


 ルナってかなり強い部類だけど、そのルナを完全に抑え込むって、メイメイさん何者……。

 

 そういえばメイメイさんって、着ている服は可愛いんだけど、よく見ると筋肉すごいんだよね。もしかしてメイメイさん、パワー系女子?


「お、お姉様……ルナレディアお姉様が婚活……バカな……ありえない……! 欲なら私が満たしてあげますから、どうぞお考え直しを……!」


 正面に座っていたルウロウさんがブルブルと身体を震わせ、泣きながらルナの足元にすがる。


「あら、何、どうしたのこれ。ルナレディアが婚活狂い? 別にいいんじゃないの。好みの男が現れたのなら、肉食系が如く食らいつくのも一つの方法よ。人生一期一会、つまりルナにとってシアンは今まで出会った男の中で最高に理想に近い、と。確かにシアンって、可愛い顔してる。才能もあるし……柱魔法とかあの魔法無効とか研究したいし……そうね、私もこの婚活パーティーに参加しようかしら」


 黒猫を胸元に抱えながら現れた黒いドレスの女性、ヴィアンさんが混乱の現場を見て頷き、ルナを押しのけ俺の横に座ってくる。


 ちょ、ヴィアンさん、出来たらルナの暴走を止めて欲しいのですが……。


「だ、だめよヴィアンはダメ! あなた絶対にシアンの柱魔法とかを研究しようとしているだけでしょう! 研究対象としてのシアンであって、えげつない実験にシアンを使おうとしてる!」


 えげつない実験?


 これはなんか逃げたほうが良さげ……


「どこへ行くのシアン。あなた若いんだから、多少の無茶は……出来るわよね? うふふ」


 何か悪寒がしたので、その場を逃げようとしたら、ヴィアンさんにガッツリ腕をつかまれる。


 なんか悪魔みたいな微笑みだけど、何これ、俺解剖でもされんの?


「ロ、ロイドさん助け……!」


「~俺の心は熱きハート~♪ せいせいせいっ! 唸る正拳、砕け悪~」


 お酒のせいかパーティーのみんなが暴走を始めたので、リーダーであるロイドさんに助けを求めるが、一人テーブルの上に昇り何かの歌を熱唱中。


「ア、アイリーンさん……!」


「……毒、欲しい? みんな一瞬で静かになる……」


 端っこで一人静かに飲んでいた狐耳パーカーの女性、アイリーンさんに助けを求めると、何かドス黒い液体の入った小瓶を放り投げてくる。


 ど、ど、毒……?


 ちょ、なんて物を放り投げるんですか!


 どこかに当たって割れたら大惨事……


「やぁシアン君、楽しんでいるかい? ん、なんだこの小瓶は」


 俺が慌てて放り投げられた小瓶をキャッチしようと立ち上がるが、突如俺の前に現れた男性の頭に当たって小瓶が粉砕される。


「う、うわああああああ! ロイドさん、それ毒……!」


「え?」


バシュウウウウウウ! ボン!


 不思議そうに小首をかしげたロイドさんの頭から激しく黒い煙が吹きあがり、爆発。


 お、終わった……俺の冒険者になる夢……これにて終焉……


「……あ、これアイリーンの。また実験で面白睡眠薬作って……」


 黒い煙を頭から吹きながら、ロイドさんが冷静に言い、ガクンと床に崩れ落ちる。


 ちょ……! ロ、ロイドさーん! 


「う、これアイリーンの睡眠……すぅ……」


 俺の周囲の人たちが次々と倒れていき、ルナも苦しそうな顔で抵抗するが、耐えきれず倒れ寝息を立て始める。


 睡眠?



「……あれ、あなた倒れない。おかしい、ありえない……すぅ……」


 小瓶を放り投げた張本人、アイリーンさんがいつの間にかごっついマスクを付けているが、俺を不思議そうな顔で見ながら倒れていく。


 おい……! 放った本人にも効くのかーい!


 そのごついマスクは何なんだよ……



「なんだこりゃ。アタシとシアンに、人間が作った睡眠薬なんか効くわけがねェだろ。おーおー、マジで全員寝たぞ。どうするシアン、全員剥いて裸にするか? ヒャハハ!」


 食堂にいた人全員が倒れスヤスヤ。


 俺とリューネだけが倒れる屍の上に立っていて……って、なんでみんなを裸にするんだよ!


 そ、そりゃあルナの裸は見たいが……




 そうか、そういえばリューネから貰ったネックレスって、全状態異常無効なんだっけ。


 効果はバッチリ理解したが、なんでパーティー加入歓迎会でその効果を確認しなければならないのか──
















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