ミッション15:「インターセプト」

 場所は、もう一度浜松基地へ。


「――回せェーーァッ!!」

「マジかッ!」


 アラートハンガーには警報が鳴り響いている。

 そのアラートハンガー内の要員待機室より出入り口を蹴破る勢いで飛び出し、ハンガー空間を駆けるは屠龍と飛燕。

 二人はいずれも今は、それぞれのお嬢様系美少女と幼馴染系美少女に性転換した姿で。格好は濃紺のボディスーツ装備のFTGS装備姿。

 しかし可憐なそれぞれの容姿に反して、その顔は大変に険しい。


 二人はスクランブルの予備、バックアップペア。

 その二人は、今まさにスクランブル出撃に掛かる最中だ。


《――新たなフィアー出現情報。位置、太平洋、福島県沖。首都圏に向けて南下中。アラート機は離陸後、東北東へ進路を取れ》


 放送で伝わる指示と情報。

 その通り。先程に隼と鍾馗が当たった物とは別のフィアーが、別地域別方向、福島県沖より新たに出現。首都圏に向かっているとの報が入ったのだ。

 屠龍と飛燕の二人は、それに対応すべく今まさに出撃するのだ。


「隼たちの方は陽動、こっちがメインかぁッ!?」

「あからさまになッ!!」


 飛燕の張り上げる推察の言葉に、十中八九だろうと肯定の言葉を返す屠龍。

 そんな言葉を張り上げ交わしながらも、二人は次には、アラートハンガー内に鎮座駐機していたそれぞれの愛機――F-3Aの機体側面にぶつけるように辿りつき手を着く。


 瞬間、FTGS着装の変貌現象が発現。

 幻想的な発光から解けて分解したそれぞれのF-3Aが、屠龍と飛燕の身にそれぞれ集束。次には二人の身へと着装を完了し、その可憐な身に、武骨ながらも優美な翼を携えさせた。


「着装支障ナシッ!」

「了――ステータスクリアッ!」


 整備員の目視確認の知らせを聞き、それに了解の声を返しながら。

 屠龍は自身もHUDにてステータスを、急き視線を走らせながらも確実にチェック。


「上がるぞッ!!」


 そして完了と同時に声を張り上げ、踵に備わるランディングギアを用いてタキシングを開始。

 屠龍と飛燕の二人はアラートハンガーを繰り出て、エプロン空間へと進み。その次の瞬間には地面を蹴るほとんど零距離の助走で、カタパルト射出の様相で離陸。

 メイン滑走路を横切り飛び立ち、高度を稼いだ次には。一秒コンマを惜しむ様相で鋭く旋回。

 ジェットエンジンを吹かし、新手の敵を目指して飛び向かった。




 視点、場所はまた移り。入間基地のSOCへ。


《――照合、データ出ました。新規フィアー群――識別呼称ノスフェラトゥ。爆撃機型の波長が三、戦闘機型の波長が四ッ》

《出現予測地点、福島県沖、南300km地点。現在は方位針路200、増速しつつ南西、首都圏方向へ進行中ッ》


 SOC内では緊迫した様相で、たった今新たに飛び込んだ情報が各員の声で響き上がり。

 同時にそれの現在進行状況を、正面の大型モニターが図として映し出している。


「ッ、ナイトメアは囮か……ッ!」


 そのそれぞれを聞きつつSOCの前席で、指揮官の空佐が大型モニターを見上げ見つめながら、苦々しい声を零している。

 その言葉通り、隼等が要撃に上がった戦闘機型フィアー群――ナイトメアは囮であり。今に認識したフィアー群こそ、襲撃攻撃の本命であろう事は明らかであった。

 その針路は、首都東京だ。


 やはりフィアーには、明らかな作戦行動のそれが。何らかの意思に知能知識が見えた。


《対応要撃機、上がりましたッ》


 そこへ鈍い警報音が響き、SOC要員より知らせの言葉が上がる。


《浜松1空5飛よりリュウセイ7-1及び7-2、三沢301よりセイラン3-1及び3-2。会敵予想時刻、リュウセイネクスト21(11:21)、セイランネクスト26(11:26)ッ》

《ライデン1-1及び1-2、レップウ4-1及び4-2も目標更新から進路変更。会敵予想時刻、ネクスト32(11:32)ッ!》


 それは今程に上がった屠龍に飛燕等、各基地よりのスクランブル機の動向。

 そして任務の更新から、増援要撃に向かい始めた隼等の動向を知らせるもの。


「頼む……――!」


 その各機に向けて、指揮官の空佐は願い託すように言葉を零した。




「――ッゥ」

「……ッ!」


 上空高高度で二機編隊を組み。

 ジェットエンジンモジュールを可能な限り吹かし、その身を飛ばす屠龍に飛燕。


 その濃紺のカラーリングのギア・デバイス装備に飾られ、青空を背景に流れるように飛ぶ二人の美少女の姿は、大変に美しいまでだが。

 その当の二人の顔は険しい。


 位置関係的に、敵の本命たる爆撃隊フィアー群との接触は、自分等が最初。

 それも真正面から衝突となる。

 激しい戦闘になることは必須。そして何より自分等が敵を取り零せば首都圏が、そこに住まう国民、人々がその脅威に晒される。

 その重圧と緊張は並では無かった。


「――来たぞ」


 その直後、レーダー機器が知らせの音を鳴らし。その上さらに、屠龍の肉眼は前方やや上方の向こうに、小さな複数のシルエットを捉える。


 巨大な海洋生物を思わせるシルエットの、しかしそれにしては禍々し過ぎる姿の大型フィアーが三体。

 それに護衛機であろう、先程に隼等も交戦した戦闘機型フィアーが四体。

 それが明らかな編隊行動で、接近しつつあった。


《爆撃機型3、戦闘機型4、該当だッ》

「リュウセイよりホマレッ、レーダーコンタクトッ、合わせてヘッドオンッ。ノスフェラトゥを補足したッ!」


 通信に、それが確かな指示目標である事を言葉にする飛燕の声が上がり。

 屠龍は急く声色で、SOCに向けた知らせの言葉を紡ぐ。


「――ッ!?」


 瞬間であった。

 ある種の歓迎、ある種の煽りなまでの様相で。

 真正面より。護衛機である戦闘機型フィアーの編隊から、無数の熱光線の攻撃投射が雨あられのように寄越されたのだ。


 鳴り響く警報。

 屠龍と飛燕の二人は、すかさず微かにブレイク行動を実施。間一髪、幸いにもそれによって攻撃の回避。

 直後、すぐ真横を超高速で。一歩間違えば激突していたかもしれないそれで。

 フィアーの編隊が飛び抜け、すれ違い、凄まじい速度で二人の後方へと流れ去った。


「ッぅァ!――エンゲージッ、リュウセイエンゲージッ!!」

《ふざけやがってェッ!》


 屠龍がすかさず通信に張り上げ。飛燕からは今のフィアーからの「歓迎」への悪態が通信に上がり。

 しかしながらも瞬間には。二人はフィアー群を追撃すべく、鋭い旋回行動に入っていた。


「ッ」


 鋭利な旋回機動を行いながらも、二人は先んじて振り向き視線を向けて、飛び去ったフィアー群の方向を見る。

 三体の爆撃機型の大型フィアーはそのまま直進針路で飛び続けているが、四機の護衛機のフィアーは散会。

 二人を迎え撃つ算段だろう、戦闘機動行動らしき動きを始めていた。


「7-2、分かるなッ?取り巻きは無視しろッ!捻じ込んで、メインのデカブツだけを狙うぞッ!」

《了ッ!》


 旋回を追え、バーナーを一層吹かし。

 首都圏を目指し飛び去る爆撃機型フィアーを追いかける二人。


 あれを逃がせば、首都に被害が出る。

 作戦は爆撃機型フィアーの撃墜の最優先。自分等の身を大なり小なり危険に晒そうとも、爆撃を阻み首都を護る事を優先するそれだ。


《上方、二機ッ!》


 飛燕の張り上げ伝える言葉。

 二人の前方斜め上方。二機の戦闘機型フィアーが急降下を仕掛けてくる姿が見える。

 それも束の間、次には熱光線の火線掃射が上方より降り注ぎ、二人を襲い掠めた。


 

《ッゥ……!》

「ビビるなッ!そのままッ!」


 しかしそれに顔を顰めつつも、屠龍と飛燕の二人は頑なな意思でその進路軌道を変えず、直進。

 次には降下して来た二体のフィアーと、交差してすれ違った。


「――ハッ、向こうもビビったか?」


 すれ違い下方後方に去ったフィアーを、一度振り向き見つつ少しニヒルに零す屠龍。

 状況的には優位なはずの今の二体のフィアーは、しかし下方に過ぎ去ってから慌て旋回する動きを見せている。

 おそらく己たちの攻撃掃射で、屠龍等が臆し攻撃を断念して離脱すると考えていたのだろう。

 しかし屠龍等は自分等の危険危機も構わずに直進し、護衛のフィアーの阻止攻撃を抉じ開け潜り抜けて突破して見せた。

 それに、「度肝」を抜いたのだろうと見えた。


《人類様の肝っ玉を舐めるなよッ!》


 それをまた下方に見て、飛燕も揶揄うような言葉を発し上げる。


「追いつくぞ、喰らいつけッ!!」


 そして視線を前方に戻し、張り上げる屠龍。

 今のすれ違いから僅かな間に、その吹かすバーナーが生み出す速度で。二人はフィアー爆撃機編隊の「ケツ」に追いつこうとしていた。


「――ロックオン――フォックス2ァッ!!」


 そして、HUDに表示されたミサイルシーカーが、ロックオン音声を上げて大型フィアーの一体をロックオンした瞬間。

 屠龍と飛燕の二人は「攻撃の意思」を念じ、言葉に発し。


 それに答え。FTGS装備のハードポイントに下がる――04式空対空誘導弾 AAM-5がそのロケットを点火。

 二人のそれぞれの身を飛び出し、撃ち出された。


 二人よりそれぞれ二発、計四発のAAM-5が猛スピードで飛び、大型フィアーに追い付く。

 それは直後には三体の大型フィアーの内の二体に、二発づつ喰らいつき――直撃。


 生み出した爆炎で、大型フィアーを包み。

 FTGS装備の、性転換の生み出す力を上乗せしたその炸裂、破壊エネルギーで。大型フィアーのそれぞれの肉体を破砕、撃破。

 次にはそれぞれその身に大穴を開けた大型フィアーが。力なく高度を下げ、そして真っ逆さまの墜落に転じる姿を見せた。


《撃墜ッ、撃墜ッ!》

「リュウセイ7-1、7-2。敵、爆撃個体を連携で二機撃墜ッ!」


 それを見て、まず飛燕が興奮した色で張り上げ。

 そして続け屠龍が、SOCや味方に向けての知らせの声を、通信上に上げる。


 そして同時に、バーナーを思いっきり吹かしていた二人は。残る一体の爆撃型フィアーの真上を、煽り揶揄うように高速で通過。


「気を抜くなッ、さらに続きをやるぞッ!」

《了ッ!》


 そして、残る大型フィアーに護衛フィアーを撃破するべく。

 二人は鋭い機動での上昇からループ機動に入った――

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