ミッション3:「邂逅と、変貌の時」
退避用バンカーを飛び出て、その向こうのエプロン区画上の、得体の知れぬ飛行物体に向かって駆ける隼。
近づけば、その飛行物体は側面に窓が並び、側方に乗降扉を有し。見るに小型機、ビジネスジェット等に類するレイアウトである事が判別できた。
そして、躊躇はありつつも意を決するように。隼は次には、墜落のショックからだろう扉が脱落して開かれていた乗降口より、その内へ踏み込んだ。
「居たッ」
先程に存在を見止め気づいた人影は、機内にすぐに見つかった。
やはりビジネス機のような内装、座席配列の機内。その一つに一人の人の姿が在った。
その姿は、長めの金髪を少しロールを作って飾り。その元に端麗な顔立ちを主張する十代半ば程の子供だ。
そして上品な子供用の余所行きのような服に、しかしその上から白衣を羽織ると言う少し妙な格好をしていた。
「ぅ……く……」
その子は顔を顰め、気を微かにおぼろげにして唸る。身にダメージこそあるようだが、まだ事絶えてはいないようだ。
「大丈夫ですか!?自分は航空自衛隊のものです!分かりますか!?」
「ぅ……だいじょう、ぶ……だ……っ」
近寄り呼びかけた隼の声に。金髪の子は苦し気な色ながらも、一応の問題ないらしい旨を返して寄越す。
「確認させてください、この機に他の乗員の人達はッ?」
一応のその子の生存無事が確認されると、次には少し急く様子で尋ねる隼。
踏み入ってから、機内にはこの子以外の人影が見られなかったのだ。
「ボクだけ、だ……この機は、自動飛行……っ」
それに、また苦し気な色で答える金髪の子。
「あなただけ、ですね?今からあなたを避難させます、少し我慢をッ」
今の回答も含め、ここまでで不可解な所は無数にあり、隼は訝しむ色を隠すことはできなかったが。
しかし今はこの機の爆発の危険があり、おまけに外ではフィアーが襲っている現状。何よりも避難が最優先だ。
隼はその子の腕を取り、自分の後ろ首に回してその子の身体を支え担ぎ。飛行物体よりの脱出、搬送を開始。
「制斗!ったく、無茶をッ」
「手を貸してくれッ」
機より出た所で丁度、隼を追いかけて飛び出して来たのだろう式機と出くわし。
その式機の手も借り。少し苦労しつつも金髪の子を担いで、退避用バンカーへの間を駆け。幸いにして間もなく戻り辿り着くに至った。
「大丈夫かッ?その子は?」
「皆目不明ですッ。しかし負傷している様子、とにかく手当てをッ」
退避用バンカーに戻り、肝を冷やした様子の医官を始め皆に迎え入れられる隼等。
隼は、その支えていた金髪の子の身体を降ろしながら、まずは医官に手当の必要がある事を示す。
「……すまない……っ、ここは……?」
そこで意識が明確に回復したのだろう、その金髪の子は顔を起こし。
まずは礼と謝罪の一言を苦し気ながらも発し。そしてしかし次には、見慣れぬ今の退避用バンカーの光景に言葉を零す。
「大丈夫ですか?ここは航空自衛隊の基地です」
「ジエイタイ……?」
医官が、降ろされた金髪の子の目の前に屈み。まずは案ずる言葉と、簡単な説明を伝える。
だが金髪の子が返し見せたのは、また何か訝しむ色の声。
「っ!……〝戦闘機動体〟……!」
しかし直後。彼女は医官の体を越して向こうに見たもの、そこに鎮座していた物体を見止め。そんなような表現の言葉を発した。
「?、〝F-27JA〟だが、どうかしたか?」
その様子に。自分もまた訝しむ色で返したのは、横で様子を伺っていた隼。
そして隼の目もまた、金髪の子の視線を追ってその向こう、退避用バンカーの奥側を見る。
そこに姿を見せ、その大きな胴体を鎮座させていたものこそ。それこそこの退避用バンカーの主――戦闘機であった。
――〝F-27JA〟。
航空自衛隊にて長く主力を務めたF-15の後継となるべく、数年前より配備運用の始まった最新鋭の要撃/多目的戦闘機。
尖り流れるような、大きくも美麗な全体のシルエットに。刀を思わせる切れのある主翼に他翼類が映える。
そして反した、圧倒的な推力を生み出す武骨な双発ジェットエンジンが、しかし見事に調和。
その姿全形は、見た者を惚れ込ませるまでに完成されている。
そのF-27JA戦闘機は。不測の事態に備え、この退避用バンカーで予備機として備え待機していたそれは。
しかしそれを操り飛ばすパイロットを混乱下では用意することが叶わず。今はバンカーに避難して来た隼等と一緒に、フィアーの脅威を凌ぐ状況に身を置いていた。
「ここは、空軍基地か……!」
そして金髪の子は、F-27JAを始めこの場の様子から。集まる者ら――隊員や職員の姿様相から。
思い当たったようにそんな言葉を発し上げた。
「あぁ、役割としてはそれで合ってるが」
それにしかし、隼にあってはまた訝しむ様子で、一応の肯定の言葉を返す。
同時にその子の様子に発言から、「日本の自衛隊を知らない海外の子か?」との推察を脳裏に走らせる。
「――キミは、ここの軍人かい?」
そんな隼をよそに。金髪の子は次には何か少し急く様子で、今度は隼に顔を向けて。目を合わせ、そんな質問をおもむろに寄越した。
「あ、あぁ。ここの空士、司令部要員の隊員だが?」
その急くような色での質問に、隼はまた戸惑う色で。普段の自衛官としての癖から、言葉用語は変えての肯定の言葉を返す。
「……所属関係者……何より、危機下でボクを迷わず助けに来た度量……託すには、十二分……!」
隼の回答を受けた金髪の子は、一度微かに視線を下げ。何か呟きつつ考えを巡らせ、そして決断するような声を零す。
「君?何を――」
何か、一人で話を進め決定している様子の金髪の子に。さすがに不可解に思い、声を割り入れる隼。
「キミ、すまないっ。今は無礼を看過し、君の身と力を借り受けさせてくれ!」
しかし金髪の子は、次にはその隼の言葉を阻むように。また隼の顔を見つめ返し、そしてそんな訴えの声を張り上げ寄越した。
「えッ?何言って――?」
「説明は後程する!今は――この戦う力を受け取ってくれっ!」
訝しみ、質問の言葉を返そうとした隼だが。
金髪の子はそれをも阻み、そして次にはおもむろに自分の片手で隼の手を取り。さらにもう片方の、見れば何かの不可解な装置の装着されていた腕を突き出すと、その手の平を迷彩作業服越しに隼の胸板に当てた。
「なッ――えッ?」
直後だった。
金髪の子の腕に装着される何かの装置が、起動音と思しき発光と音声を見せ響かせ。
――そして、隼と身体と。
――さらに、向こうの奥で鎮座していたF-27JAが。
青白く眩い、幻想的までの発光現象を見せ、それに包まれたのは。
それは、隼とF-27JAに起こる。〝変貌〟の始まりであった――
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