ミッション2:「その日、世界は変貌した」
異次元脅威生物――フィアー。
「恐怖」の意味を持つ呼称を付けられた、その存在の出現。
ある日。世界中に未知の異次元空間と繋がる特異点、「コネクター」が出現。
そしてその向こうより、怪異神話に登場する怪異怪物でも再現したような。恐ろしい未知の生命体、フィアーが現れたのだ。
フィアーは地球世界側の呼びかけ、対話の試みに一切の反応を示さず。世界の各国各地に、まさにパニック映画の怪物の様相で攻撃襲撃を開始。
各国各軍はこれに対抗したが、フィアーのその攻撃力襲撃力は凄まじく。
各国の軍・防衛組織は並々ならぬ苦戦を強いられ、多大な被害を出し。世界はフィアーの脅威を前に、窮地に陥っていた。
しかし。そんな窮地の内にあった地球人類社会に、転機が。一筋の希望が舞い込んだのは、ある日のある場所での事。
そこに居合わせたのが、他でもない隼であった――
日時は遡る――
日本の静岡県、浜松市に所在する航空自衛隊、浜松基地。
第1航空団を始め、様々な航空自衛隊部隊の所在するこの基地は――その日、フィアーの襲撃を受けた。
フィアーに何らかの戦略戦術的意図があったのか、それとも単なる手当たり次第の無差別攻撃なのか。それは知る由もない。
ともかく浜松の街、及び浜松基地はフィアーに襲撃され。大混乱の内にあった。
浜松基地の滑走路施設の端に存在する、戦闘機の退避用バンカー。
その内には辛うじて非難した隊員や職員らの、しかしまばらな姿が見える。
「――ッ」
そしてその内に混じり、隼の姿が在った。
一度。隼の身の上、経歴について語っておく。
隼は、フィアーの出現が世界中で脅威となり始めたが、日本への脅威にあってはまだ少なかった頃に。
しかし世界が共通の窮地にある中で、自分も少しでも何らかの力にと思い。フィアーの出現に伴う自衛隊の一般隊員の増員募集に志願し、転職入隊した身だ。
ややストイック気味で、周りからは冷淡に見られる事もある隼のこの選択は。知人や友人から少し驚かれた。
しかし教育訓練後には事務職を指定され、部隊配備後には基地にて事務職に従事する事となり。
主として武力を携え、矢面に立つ立場とは離れた日々を送っていた。
だがこの日。その隼も所属所在する浜松基地は襲撃され。
襲撃の直前、他部署へのお使いに赴く途中であった隼は、しかしそこをフィアー襲撃からの混乱に巻き込まれ。
混乱下を他の隊員等に促されるままに、近場の退避用バンカーに避難し。辛うじて命を長らえた身であった。
今は他の隊員に混じり、担ぎ込まれた負傷者の手当てに専念し。纏うそのデジタル迷彩作業服を、負傷者の血で濁している。
「ッゥ」
隼のその顔は、当然の如き苦く険しい。
それは今に自分が止血を施している、眼下の負傷した同胞の姿はもちろん。
外では、フィアーの脅威が今もそこかしこで襲い。基地も街も、死地も同然の状況。
そして基地では。わずかに展開した第1航空団の第1基地防空隊(フィアーの出現に伴い浜松基地に新編されたもの)が、決死の防空砲火を上げ。
かろうじて上がった、浜松基地に出張展開していた戦闘飛行隊のスクランブル機が。フィアーを相手取り。
同胞の各隊各所が決死の抵抗を行っているが、自分にあってはそれに任せるしかない状況。
などなど。
今の窮地にあって、自衛官と言う身分であるのに、しかし脅威に抗う力を持つことすらできていない。
自分の無力感に強烈に苛まれての形相であった。
「制斗一士、もうここはいい。向こうに手を貸してやってくれッ」
そんな隼へ。
隼が今に補佐し、主として負傷者を見ていた医官の幹部隊員が。合わせて言うと、ここに逃げ込んで来た者の内の最高階級者が。
隼に促す言葉を紡ぐ。
「了解ッ」
それを受け、「今は悲観に暮れる暇すら無いだろう」と。己に言い聞かせて感情を払拭し、次に人手を必要とする方へ向かおうとした隼。
「――ッ!?」
しかし、退避用バンカーの外部で衝撃音が響き。半分開いた防護用大扉の向こうから、それが届いたのはその時であった。
それより襲い来た振動などに、退避用バンカー内の皆はまずは身を庇い伏せる。
「ッゥ――墜落ッ?それともフィアーかッ!?」
直後には、外部の警戒を担当していた基地警備隊の隊員。合わせて言うと隼の同期でもある、名を
その立場役目もあって皆を庇う様に前に出て、その背後で隼も身構えつつ外部の向こうを見る。
「――えッ?」
しかし、次に隼の目が防護扉の向こうに見たのは、想定していなかった光景。
衝撃音は友軍機の墜落か、もしくはフィアーの襲撃かと思われたのだが。しかし向こうに見えたのはどちらでも無かった。
向こう見えたのは、何か見慣れぬ異様な物体。
形状としては飛行機に似ているが、何かその全形は未来的と言うか異質。ともかく、自衛隊機でも、日本はもちろん世界で見られる主だった機のそれではない。
そんな飛行物体らしきそれが、墜落か不時着かは分からないが。退避用バンカーの向こうのエプロン区画に身を崩し沈めていたのだ。
「なんだ、あの機……?自衛隊機じゃないし、見た事の無い機影だぞ――フィアー絡みか……?」
隼の同期の飛燕は、訝しみながらも見えるそれに警戒を向ける。
「!」
しかし、その背後より隼が。その得体の知れぬ飛行物体の、窓と思しきものの向こうに「動き」を見たのは直後。
「――人だ」
そしてそれが、すぐに人の影あることに気づいた。
「え?――あ、ちょッ!制斗ッ!?」
そして次には隼は、飛燕の驚き止める声も聞かず。退避用バンカーより駆け出していた。
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