異世界花嫁修行 人と魔族が手を取り合うために

@goboomaru

一章

序章人魚護送編

EP1.花嫁を探す少女(1)

「魔のつくものは、異界の扉、ゲートからやってくる」それがこの世界の常識。

魔力、魔物、全てがゲートからの産物だ。

そして僕、エルフのような魔族もまた、ゲートからやって来る。

これは魔族と人が手を取り合うまでの話。そして彼女が、最高のお嫁さんを見つける話。



 ガサ、ガサと草を踏む音が森の中に響く。エルフの青年、パズル・フォレストは、大仰な杖を手に、森の中を一人で歩いていた。


「暗いなぁ……やっぱり故郷の森とは勝手が違いますね……」


枝を踏み、パキリと音が鳴る。彼なりに警戒して歩いてはいるが、その歩き方は、まるで足音を立てて歩く兎のように無防備だ。

そんな森に慣れぬ彼が森へと足を踏み入れたのは、一重に仕事のためだった。彼の職業は「ゲートキーパー」この世界に無数に存在する異世界からの門、「ゲート」の管理が彼の役割だ。


「大規模ゲートが近いということは、魔物も出てる可能性があるわけで……うぅ、早くゲートを閉じて街に帰りたい……。」


ゲートからは魔物が現れる。魔物が出現し、人を襲うリスクを防ぐために、人里の近くに発生したゲートは閉鎖、あるいは管理下に置くのが、ゲートキーパーの仕事だ。

薄暗い森の中、パズルは目を細めて歩いていた。すると突然、靴がぐにゃりとしたものを踏みつけた。

パズルは驚いて足元を見た。それと同時に、赤子の泣き声が森の中に響き渡った。


「わっ……!えっ……!?人魚の赤ちゃん……!?ゲートから『渡って』きたのか……!?」


パズルは自分が踏みつけたのが、人魚の赤子の下半身であることを確認した。不注意にも踏まれた赤子は、痛みで大癇癪を起こしている。

ゲートから現れるのは魔物だけではない。人魚、ワーウルフといった、魔族と呼ばれるものたちもまた、ゲートから現れる。パズルのようなエルフもまた、ゲートから渡ってくる魔族の筆頭であった。

しかし、当然ながら人魚は水のある場所でしか生きられず、森に放っておいたら死んでしまうだろう。パズルは慌てて人魚の赤子を抱き抱えた。


「よーしよし……踏んじゃってごめんなさい。僕が悪かったですから、どうか泣き止んで……」


パズルは人魚を抱きしめてあやすが、効果がない。よほど痛かったのか見知らぬパズルを警戒しているのか、大泣きが森の中に響き渡る。


「まずい……まずいですよ……森の中でこんな大騒ぎされたら……。」


パズルはいっそう周囲の警戒を強めていた。森にいるのは、狼や熊といった肉食獣はもちろん、大規模ゲートの周辺であるため、魔物も徘徊している可能性が高いのだ。

ガサリ、と草むらが揺れる音がする。パズルは音の方を咄嗟に向くが、その音の主を見て絶句した。

パズルを見下ろす双頭を持った獅子が、獲物を見る目で二人を見ているのだ。


「……っ!喰らえ!ファイアー!」


パズルは杖を双頭獣に向け、杖から火球を放つ魔法を撃った。火球は双頭獣の右の頭に命中するが、その毛皮は炎に強いのか、全くダメージを受けている気配がない。


「……っあ、ダメだ。逃げ、ないと。」


パズルは無謀にも、人魚を抱えたまま、双頭獣に背を見せて駆け出した。双頭獣は獲物が戦意を喪失したのを確認し、本能的にパズルを追いかける。

荷物を積んだリュックサックが縦に揺れる。片手に杖、片手に赤子を抱き抱えた状態で、全速力で走れるわけがなく、双頭獣に追いつかれるのは時間の問題だ。


「あっ……!」


ダメ押しとばかりに木の根につまづき、人魚を庇うように抱き抱え、地面に転がってしまう。杖も手から離してしまった。双頭獣は鼻息を荒くして二人の獲物を見ていた。

最早これまでか、と思った瞬間。背後から土を蹴る音が聞こえ、視界に細く美しい銀の煌めきが飛び込んできた。

それは双頭獣の眼球を正確に貫き、鮮血が眼孔から噴き出す。

その鮮血と同じ色をした髪の少女が、パズルと双頭獣の前に立ちはだかっていた。

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