第9話 ケモ耳爆誕
三人で焼き魚とうさぎ肉を分け合い、寝床につく。
寝床はカリストが魔術により形成した土と草のベッドと掛け布団だ。
蔓で編み込まれた布団は思いの外熱を逃さず、ベッドも身体を痛めない程度に柔らかい。
突貫工事で造られたにしてはあまりに心地が良い。
それだけカリストの技術力の高さ、魔術の洗練さが窺える。
彼女は紛れもなく実力者なのだ。
「さ。お祈りの時間よ」
三人で神に祈る。
これは祈祷術を扱うために毎日行っている祈りの時間であり、これを行わなければ祈祷術は使えない。
神への感謝と未来の安全を願うのだ。
「
それは、あくまで自主的であり、
「
それは、あくまで他人のためであり、
「
これは、世界のための祈りである。
そんな日課の
気付けば二人は寝ていた。
野営で重要なのは何処でも寝られる能力、とカリストは言っていたが、実践されるとさすがに驚く。
十秒も経っていなかった。
そんな化け物じみた能力を持つ二人と違い、僕は凡人なので眠るのには時間要した。
寝床はドーム状の土のテントで、三人が川の字で寝ている形だ。
僕が真ん中、両隣が美少女という配置だった。
寝れるわけがない。
カリストは強気でいじっぱりなところがあるが可愛いし、
そんな二人と、こんな近くで寝食を共にしていると思うと、目が冴えて仕方ない。
緊張に心臓の高鳴りは早まっていく。
少しでも寝れるように、と目を瞑れば、更に感覚は研ぎ澄まされ、様々な音が聞き取れる。
静かな森の中、風に葉が擦れる音に時折鳴く動物、虫の歩く音、生き物の足音、鳥が羽ばたく音、二人の寝息──二人の鼓動まで。
「鼓動……?」
突然の感覚に飛び起きる。
今確かに、僕は二人の鼓動を聞き取った。
カリストの静かな鼓動、
血の流れる音すら聞き取れたようなそんな鋭敏な感覚に、目眩を覚える。
だが何より、
「僕気持ち悪……」
緊張のあまり女の子の心臓の音を聞き分けるなんて、そんな変態聞いた事もない。
確かに、いつも一人倉庫で寝ていた僕にとって、誰かと寝食を共にするのは極めて珍しい。
食事どころか寝床まで一緒なんてここ数年で初のことだ。
最初の頃こそ、誰かと寝ていたような気もするが、とっくに記憶は薄れて気持ちは一新している。
寧ろよく二人は寝られるものだ。
睡眠が大事とはいえ、男と一緒に寝ることに抵抗はないのだろうか。
「あぁ……そっか」
考えるまでもない。
彼女達は強いのだ。
いざとなれば襲われても返り討ちにすることくらい朝飯前の強者だ。
そこに僕のような雑用程度の、戦闘要員ですらない男が一緒に寝たからと言って特段警戒をする必要はない。
そう考えると不意に安心して、僕は眠りに落ちた。
—
「そっちにいたわよー」
「わかってるわ!!」
あまりに無駄がない一部始終は、まるで踊っているようであり、本人も苦とは思っていない様子だった。
それを援護するカリストは
カリストの土魔術による沼化、剣山の壁、果てには
その二人が倒した魔物の証である“魔核”を、ひたすら拾ってカバンに詰めていくのが僕の仕事である。
「ざっとこんな感じぃ?」
「意外と多いわね。前はこんなにいなかったはずだけど……やっぱりドゥルキュラに引き寄せられたのかしら」
「多分ねぇ。まぁ、雑魚ばかりだから張り合いないけどねぇ」
「強いのが来ても困るわよ……あんたは体力が無限かもしれないけど私達は違うのよ!」
二人の会話のレベルは高く、僕ではついていけないことが多い。
だから今も静かに魔核集めをしていた。
「にしても、ドゥルキュラに比べると普通の魔物って魔核小さいんですねぇ」
手にする魔核は今二人が倒した犬の魔物のものだ。
小石くらいの紫の水晶であり、小指ほどの大きさだ。
それに比べるとドゥルキュラの魔核は非常に大きく、片手では収まらないほどの大きさの水晶体だ。
犬の魔核は丸っとした形状だが、ドゥルキュラのものは刺々しいのも特徴だろう。
「魔核ってよく悪魔の心臓と言われてるけど実際は魔の増幅器官なのよね。つまり魔核がデカければデカいほど凄い魔術が使えるってわけ。だから必然とデカい魔核を持つ奴は強い奴になるわけよ」
「なるほど……わかりやすい」
「因みに言うと、魔核を持つのは悪魔だけと言われてるわねぇ。魔素で身体が出来た生命体は、精霊とか妖精とか、そう言ったものらも含まれてるんだけどぉ、彼らにはないみたい。理由は研究中見たいよー」
「へぇ……精霊も妖精も魔術使ったよね? どんな違いがあるんだろ……」
悪魔も精霊も妖精も、魔力生命体と呼ばれる魔術の元である魔素で身体が構築された生命体だ。
だから悪魔は死ねば身体が霧散するし、基本的に負傷しても魔力で治療するため再生力が高く不死性を有している。
それを無効化できるのが祈祷術というわけだ。
いつ、誰が使い始めたという詳細な記録はないらしく、噂では大司教だけがその伝承を知っているらしい。
「ま。何にしても魔核はお金になるわ。捨てていくとそれはそれで環境の魔素濃度に悪影響を与えるから、さっさと集めていきましょ」
そう言ってカリストも僕の魔核収集を手伝ってくれた。
相変わらず
期待などしていなかったから、別に良いのだが、強いからって甘えすぎじゃあないだろうか。
そんな感想を抱いた瞬間だった。
背から感じる妙な違和感。
皮膚をゆっくりゆっくり舐めていくような、妙な不快感に、僕は振り返り、そのまま手に持つ魔核を投擲した。
「なに!?」
大した運動能力もないはずの僕の投擲は真っ直ぐ空間に線を描き、何もないはずの空間に着弾。
直後、吹き出す血飛沫と共に現れたのは、
「aaaaaaa!!!?」
カメレオン型の魔物だった。
目玉に魔核は突き刺さり、痛みに魔物は悶えている。
その隙を二人は見逃さず、カリストは岩の棘で魔物を拘束し、
「う……そ」
二人が驚いた様子で僕を見る。
当たり前だ。
あの時、あの瞬間確かに僕だけが気づいていた違和感だ。
カリストは魔核の収集を手伝っていたし、
その中僕だけが姿を消した魔物に反応して、応戦したのだ。
その事実を二人は信じられないのだ。
だがこの三人の中で最も今の現実を疑っているのは僕なのだが。
「あなた……」
「ケン……あんた」
「ま、待って!! 僕も混乱しているんだ、でもなんか唐突に背中が痒くなったというか、ムズムズしたっていうか」
「違うわ!
「え?」
カリストは僕以上の混乱を見せ、頭をブンブン振ったり頬を叩いたりしている。
「なになに、何だよ一体。どうしたの二人とも」
「いや、気付いてないの? あんた……」
二人が驚いたのは僕の投擲ではない。
視線は僕の頭上少し上を指していて、
「犬の、耳が生えてるわ」
カリストの言葉で気付く。
頭の上で、僕の意思により動く耳の存在に。
「え??????」
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