3 グレースとマーキス①

 *Sideグレース*


 これは、グレースがアーキンドー商会のバイヤーとして、働き始めてから半年ほど経った頃の話。

 各地を飛び回るグレースの側には、いつもマーキスがいた。彼には、どれほど助けられたか分からない。時にはガラの悪い連中から守ってもらい、時には相談相手として意見を交わし、ともに失敗を反省し、掘り出し物を見つけては喜んだ。

 そのうちに、グレースの恋心もすくすくと育っていったのである。


 そんなある日のこと。

 しばらくぶりに自宅に戻っていたグレースは、メチャエーヒト侯爵夫人から呼び出しを受けた。

 

「何かいい物は見つかった?」


 そう言う夫人に、グレースは道中でのちょっとしたハプニング交え、話をした。マーキスの機転で、うまく商談をまとめられた。そこまでは、にこにこと聞いていた夫人だったが。

 

「そういえば」


 唐突に、夫人が話を変える。


「オーバッカ家のアフォードが、あのうるさい逆ギレ娘と結婚したそうね」

「みたいですね」


 グレースも仕入れから帰って来て、つい、先日、聞いたばかりだった。


「まぁ、あんなことになって、アフォードもあの娘も、結婚するしかなかったんでしょう。方や、代金を踏み倒そうとした家の息子に、方や、友人の婚約者を略奪した娘。別れたところで、新しい縁談なんて来るはずがないもの」


 夫人の口調は厳しい。

 ただ、グレースは二人が本当に結婚したことには、感心していた。


『彼女こそが、僕の運命の相手! 彼女と一緒ならば、どんな困難をも乗り越えられよう!』


 アフォードのその言葉に、偽りはなかったらしい。大騒ぎの一因を作った身として、なんだがホッとしてしまった。


「それで、グレース。あなたの方はどうなの?」

「どう?」

「もちろん、結婚の話よ。素敵な殿方は見つかったのかしら?」

「それは、」


 そこで言葉が詰まる。


『あなたが望むなら、いくらでも相手を紹介してあげるわ』


 以前、夫人から言われたことが、頭をよぎった。

 ここは、正直に話すべきか。かと言って、あなたの義理の息子が好きですとは、正面切って言えない。まだまだ勇気が足らなかった。

 だとしたら、『好きな相手がいる』くらいだろうか。

 グレースが返答に悩んでいると、ノックが響いた。

 メイドが入って来て、夫人に何かを告げる。


「ここへ、お通ししてちょうだい」


 夫人の言葉に、メイドは「分かりました」と部屋を出て行く。


 お客様だろうか。


「それじゃあ、私はこの辺りで」


 ここぞとばかりに席を立とうとしたグレースは「待ってちょうだい」と、夫人に引き留められた。


「あなたに、紹介したい人がいるの」

「私に?」

「ぜひとも紹介して欲しいと、頼まれてしまってね。きっと、あなたにもいい話だと思うわよ」


 ニッコリと、夫人は笑う。

 しばらくして、入って来たのは、グレースが初めて顔を合わせる初老の男性だった。


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