堕落した悪役貴族に転生した俺、なぜか未来の魔王様に溺愛されました

こがれ

第1話 いただきます

 女の子に襲い掛かろうとしたら、興奮して足がもつれてすっ転んで、頭を打った拍子に前世の記憶がよみがえった。

 前世の記憶は平凡な人生を送り、最後は車に轢かれそうなシーンで終わっていた。

 あれが死因だったんだろう。

 前世の俺よ、どうか安らかに成仏してくれ……まぁ、成仏してないからココにいるんだけど。


 まぁ、終わってしまった前世のことよりも、大事なのは今のことだ。


「……今の俺って『ルカ・ランフォード』じゃん。もろ、ゲームの悪役じゃん」


 前世の記憶によって思い出した。

 『ルカ・ランフォード』は『ラスト・ファンタジー』というゲームに出て来る悪役だ。

 侯爵家に生まれた嫡男だが、甘やかされて育ったせいで性格は自堕落で我がまま。だらしなく太った醜い男だ。

 ルカは主人公の邪魔をするウザい小悪党だったが、最後は魔王によって殺される。

 その悪役と俺は、名前も性別も容姿も一緒。完全に同一人物だった。


(や、やばい……このままだと死ぬのでは!? い、いやいや、魔王や主人公たちに関わらなければ平気――待てよ……)


 デブって重い体を持ち上げながら、俺は立ち上がった。

 目の前に広がるのは大きなベッド。

 そしてベッドの上には長い銀髪の美少女。なんと裸で横たわっていた。


(ま、魔王おるやんけぇぇぇぇぇぇぇえ!?)


 ショックで気絶しそうになった。

 すでに魔王様と関わってしまっていた。


 ベッドに横たわっているのは絶世の美少女だ。

 長くふわりとした銀髪。雪のように白い肌。吸い込まれるような琥珀色の瞳。触れば崩れそうなほど儚い美少女だ。

 しかし、さらに特徴的な部分がある。頭に伸びる黒い角。背中から生えた翼。そして腰から伸びる太い尻尾だ。

 そうした身体的特徴は『竜人』のものである。


 この竜人少女こそが、魔王の力を受け継いだ次期魔王。

 本人もそのことは知らないのだが、ストーリーが進むと覚醒して魔王となる。

 最終的にはルカを殺して自由になり、主人公たちと敵対するラスボス様だ。


(と、とりあえずこの子――『シエル』ちゃんのケアをしないと……恨みを買ったら殺される!!)


 ベッドに横たわるシエルは、ぐったりとしていた。

 うつろな瞳で虚空を見つめている。体中には痛々しい傷跡が広がり、全てを諦めたように倒れている。


 シエルはルカが買ってきた奴隷だ。竜人の奴隷なんて珍しいと、ルカは大金をはたいて買ってきたのだ。

 身体中の傷跡からも分かるように、シエルはまともな生活を送ってこなかった。

 その苦しみは、やがて世界への恨みと変わり、魔王となったシエルは世界を滅ぼそうと暴れ回るのだ。

 今のうちに心のケアをしておけば、なんとか暴れるのは回避できるかもしれない。

 最悪、俺だけでも助けて貰おう。

 そもそも、前の主人の人たちもちゃんとしてくれよ。君たちがシエルを傷つけたせいで世界が滅ぶんだよ?


(まぁ、まさに性的に襲い掛かろうとしてた俺が言えることじゃないけど……マジで記憶戻って良かった……)


 ルカがシエルを買ったのは性的な理由だ。今まさに、初めてのベッドインをしようとしていたのである。

 しかし、無理やりはNG。ああいうのは創作だから楽しめるのだ。


(とりあえず、この場をごまかせる様な物はないか……? 服まで脱がしておいて、やっぱ帰れっていうのも不自然な気がするし……)


 キョロキョロと部屋を見回す。

 豪奢な部屋には脱ぎ散らかされた服と……ベッド横のテーブルにいくつかの道具が置いてあった。


(うわぁ、大人なオモチャやん……あ、これ『回復薬』って書いてあるな。もしかして、シエルの傷を治すために置いてあるのか?)


 普通に考えて、性行為に回復薬は必要無いだろう。

 きっと、シエルの傷を治すための道具だ。

 これを使えば、『服を脱がせたのは、回復薬を塗るためだよー』と言い訳できる!


 試しに回復薬を手に垂らしてみる。なぜかねっとりしてる。

 ローションっぽい感じだ。塗りやすい様に作られているのか?


(まぁ、いいや。とりあえず、これを塗ってシエルの傷を治してあげるか)


 回復薬の瓶を取って、ベッドに上がる。

 ギシリとベッドが軋むと、シエルはびくりと体を震わせた。

 怖がらせてしまった。


「あ、安心してくれ。ちょっと回復薬を塗って、傷を治すだけだから! 変なことは何もしないから!」


 自分で言うのもなんだが、完全に『変な事』をしようとしてる奴の口ぶりだった。

 『先っちょだけ!』みたいな。

 まぁ、今さら後悔しても仕方がない。行動で示せば良いのだ。

 回復薬を手に垂らし、シエルの体へと塗り広げる。


「おお、思ったより効果が早いなー。どんどん、傷が治ってくぞ!」


 シエルの柔らかい肌に回復薬を塗ると、シュウシュウと炭酸みたいな音が鳴った。

 みるみるうちに傷が治っていく。

 回復薬を塗るついでにマッサージもしておく。

 こうして好感度を稼いでおけば、もしもの時に見逃して貰えるかも。


「どうだ? 痛い所はないか?」

「んっ……んっ……♡」

「うんうん、気持ちよさそうで良かった!」


 俺ってば、意外とマッサージ師とか向いて居るのかもしれない。

 マジで破滅しそうになったら、逃げて店を開くのも良いな!


 やがて、全身に回復薬を塗り終わる。

 終わったころには、シエルの体からは傷が消えてつるつるになっていた。

 無事に一仕事を終えたぜ。これでシエルからの好感度も上がってるだろう。


「よし、治療は終わりだな。風呂に入って、回復薬を落としたら部屋に戻って良いぞ!」


 ……帰っても良いと言ったのに、シエルは動かない。ベッドにへたり込んでいる。


「えっと、もう戻って良い――うぉ!?」


 シエルは俺の腕を掴みベッドに押し倒す。

 そして馬乗りになると、床ドンのように両手をベッドにつけた。

 シエルは『はぁ……はぁ……』と息を荒げ顔を覗き込む。シエルの顔は興奮したように真っ赤になっていた。

 あれ? もしかして発情してらっしゃいます?


「もう……我慢ムリ……♡」

「し、シエルさん!? 退いてくれ――力つよ!?」


 なんとかシエルを退かそうとしたのだが、がっしりとホールドされて動けない。

 当たり前である。

 シエルは竜人。運動不足なデブである俺とは身体能力が違うのだ。

 押し倒されたら抵抗は無理☆


 こうなれば、出来ることは命乞いだけだ。

 将来的には土下座する可能性は考えていたが、まさかこんなに早く命乞いをすることになるとは思わなかった。


「あ、あの……落ち着いてください!? 俺は傷の治療がしたかっただけで、そんなつもりは――」

「いただきます♡」

「ああぁぁぁーーー!?」


 そうして、俺は未来の魔王様に美味しくいただかれた。


 後から知ったことだが、あの回復薬はただの回復薬じゃなかった。女性が『初めて』する時の、痛みを和らげるための道具だったらしい。

 なので、少なくない量の媚薬も含まれていたのだ。

 それを全身に塗りたくってしまったらしい。

 ……先に教えてくれよ!?

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堕落した悪役貴族に転生した俺、なぜか未来の魔王様に溺愛されました こがれ @kogare771

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