ヤンキー♂は過労死寸前の魔法少女。助けたら僕もチソを取られました

ねんねゆきよ

第1話


 ミラ、キミは目玉を撃たれるだろう。


 オレンジのウルフをたなびかせて、鮮烈に飛び散るだろう。小さく丸い鼻も、女みたいに長いまつげも、全てが血に染まるだろう。

 キミはその細い手足を床に転げる。そして、割れてないほうの深紅で僕を見つめるのだろう。

 

「……トリノ、トリノ、


 僕の名前を呼ぶんだろう。

 小さい声で、呼ぶのだろう。


「ヤレヤレ。ト席を立つ。僕は落ち着いて溜息を一服。深い抹茶のカーテンから、鋭い眼光を覗かせて笑うんだ。


「下手クソ、ヘタに苦しませちゃって


 後は真っ直ぐ沈み込む。周回遅れの銃弾が上を通って、敵はそれでおしまい。

 ウサギのように身体を丸め、全身を液体にしたタックルで突撃する。悶絶し銃を手放す。卑屈なテロリストの顔面は、直角に打ち上げた跳び蹴りで、90°逆を向くだろう。


 冷酷。


 クラスは雪の日の朝かと見まがう、静謐に包まれる。僕は恍惚とした表情を浮かべ、既に事切れたキミにこう言うんだ。


「まぁ、悪いやつじゃ――


「荒川! 聴ぃとるんか!

「うぇ、はい! っす、スンマセン!


 コツン!。ト鳴らしてはおでこ。白く粉を吹き候。飛んできたのは銃弾では無い。チョークの切れ端だった。


「ヨシ、聴いてるなら答えてみろ。○か?、×か?

「ま、○でありま――

「こんダラ! 問題なんぞ出しとらんわ!

「、す、スンマセン……

「まったく、損するぞオマエ。だいたい――


 何処に逝った。ああ言った。

 秘密作戦ダブルオー。そんなものはどこにもない。

 妄想は立ち消えて一人。随分と縮こまった背中。クスクスく-く。クラスの皆様よりゴ嘲笑が浴びせられる。


 手を握りつぶす。血が搾れそうだった。

 教師の声が停まるのを待って、僕は椅子に腰を下ろした。


「おいおい、ちゃんと聴けよ優等生クン


 一つ背後、嘲る声。

 男にしては甘ったるい。女にしてはやや重い。丁度 マダムがる少年のような声だった。


 ミラ。


 クラス替えから右、左、そして今度は後ろ。つきまとってくる。常に職員室に名前が書かれたクソヤンキー。

 授業は寝るし、宿題はやらない。テストは壊滅、ケンカも絶えない。

 見てくれだけは、見てくれだけは。誠に不本意ながらかなり良い。

 あからひく朝の日差しを浴びて、臆面なく笑う小さな顔は、中性的かつ人懐っこい。一件の朗らかさの中にくすむ、ややクマの付く垂れ目と、常にモニュった口が女子に人気らしい。知らねェよクソどもが。

 

 僕の診断は "D" だ。再検査してる場合ではない。今すぐに入院してくれ。

 皆は知らないが、ガンも多様性の時代。体外で、意思を持ち襲い来るヤツが居るんだ。見つけてみろ。飛ぶぞ。


「……ムシ?、泣いちゃった?


 ご覧じろ。このツラに三次曲線で反比例した知性を。何をどうして今怒られて、振り向けると思ったのか?

 安心しろ、既読は付けない。

 背中への微かな感覚は、きっと消しカスだろう。楽しそうでなによりだ。


 やがてベルが鳴る。机の群れは、慌ただしく隊列を変える。

 教室を包囲する、タマネギとベーコン。白衣に身を包んだ特殊精鋭が缶を開ける。血に飢えた群衆は、たちまちにして配給へ列を成した。


「まぁ怒んなって


 くっ付けた席。逃げ道は無い。しゃがみ込んでは右下、ヒザにアゴを載せてのぞき込んでくる。

 わざわざ俯いているのに良い度胸だ。くらえ飛び膝蹴り。威力120。割れろ、


「へへっ、なぁ今日も頼むゼ


 ナメ腐ったガキ。舌打ちを一つ。僕は自分のご飯を半分、両手で待ちわびるバカの茶碗へと移す。

 いつもこうだ。そのモヤシをニラでしばった様な身体の何処に、詰め込みたいのか。知らないが、ああ知らないが。何故か必ずねだってくる。断ると最悪だ。なぜ14歳が床で泣き叫ぶんだ?


「さぁっすがトリノくん! いやぁ持つべきは友ですなぁ! にゃはは


 友、友ね。面白い。どれメロス、その言葉を我にも教えてはくれまいか。無知蒙昧で邪智暴虐なる自分にも。


「からあげも!

「からあげは、ダメ

「なんで!

「タンパク質だから

「たん?、……うっせ!


 止める間もなく彼は、僕の皿に飛びついた。直接 口を伸ばすな。頭おかしいのか?


「ミラくん猫みたい!

「っしょ? よく言われる!

「トリノくんも思うよね!

「……ソウデスネ


 本部指令せよ。横の生命体が、何か判らない言葉を吐いている。交信が途絶えたが、乗組員 No.02 は賢明な乗組員である。接触を最小限に済ます。それとなく相づちを撃つ次第でアリマス。


 ……猫か。

 あぁ猫だ。猫だな。

 ヨシ猫だ。猫だと思おう。

 素晴らしい! コレが異星よりの知恵か!

 クソッタレが!


「はぁ、


 溜息を一つ。囲まれたテーブルのボケ共は、釣られて笑いだす。理解者などいない。

 僕はこの教室で一人だった。。



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