[短編]暴食の令嬢 魔術師は真の聖女たるや
滝川 海老郎
第1話 暴食とパーティー
立食パーティー。
私はティエラ・アン・エルグリド公爵令嬢。
またの名を「暴食の令嬢」とは私のことだ。
今晩も夜会、パーティーに参加している。
「さすがミッケンハイム公爵主催のパーティー。いい料理が目白押しね」
挨拶もそこそこに出来たての料理を取りに行く。
今日のパーティーのため、昼間の内にたくさん食べられるようにお腹を空にしてきた。
公爵令嬢ともなれば、誰もが列を譲ってくれる。
運ばれてきたばかりのエクシード・カウのローストビーフは肉汁が滴っていて、赤身も外側のカリッと焼かれた黄金色もとても美味しそうだ。
たくさんあることをいいことに、何食わぬ顔で十切れほど取皿に移して、さっそく立席パーティーの近くの席に陣取る。
普通の人は一、二切れ取るだけだ。
「うふふ、いただきます」
フォークで一枚ずつ取っては、口に運ぶ。
おいちい!
また何食わぬ顔でもぐもぐと咀嚼する。
実に幸せな一時だ。
貧乏貴族のパーティーならともかく、上位貴族のパーティーでは料理を切らすのは失態とみなされるので多めに作られるのが慣習であった。
私は小さいときからそれを見てきた。
みんなお話に夢中でたくさんある料理を食べる人はそれほど多くない。
必ず余ってしまうのだ。もちろん、いくらかの残りは働いている人たちに分けられるのだけど、そのまま残り捨てられるものも多い。
しかし料理はこれでもかと種類も豊富で『もったいないなぁ』とずっと思っていたのだ。
実際に行動に移したのは何歳の頃だったか、今はもう覚えていないけれど、十歳になる前だったかな。
今は花や蝶やと褒め称えられる十六歳、独身。
もうこの年になると結婚している人もいる。
成人年齢は十五歳だ。
ペロッとローストビーフを完食すると、取皿をウエイターに渡して片付けてもらう。
いつも料理を食べまくることに定評のある私はマークされていて、だいたい近くにほぼ専属のウエイターが配備されていた。
公爵令嬢のご機嫌を損ねたら、それこそ沽券に関わる。
「ローストビーフ、美味しかったわ」
「ありがとうございます」
ウエイターが返事をしてくれる。
「はっはは、相変わらずの食べっぷり、パーティーを開いた甲斐がありますな」
「これは、ミッケンハイム公爵様、いつも、ありがとうございます」
「なに、料理も食べてもらえて嬉しいよ。婿探しもチョロッとやってほしいがね、あははは」
「え、ええ、後ほど探してみますね」
今日のパーティーはミッケンハイム公爵の主催による婚活パーティーなのだ。
この国、クーマラン王国では国王派とダブンドルデ侯爵派が対立している。
ミッケンハイム公爵は国王派の主導的立場の人で派閥の中で多くの子息令嬢が結婚してくれれば万々歳だと思っているのだ。
その中には中立派の人もいて、取り込みを狙っているということだった。
「ティエラ様は今日もすごい食べっぷりね」
「あの方は別次元ですのよ」
「花より団子とは、よく言ったものね」
私の評判は散々だが、もともと「暴食」は七つの大罪の一つ。悪い意味だったのだが、みんなもう呆れてしまい、悪口を通り越して褒め言葉と化していた。
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