暗い
岡部龍海
暗い
ある日のこと、青年ヤマは目を覚ますと自分の体が動かないことに気づいた。
いや、正確には動けて、自分に触れる感覚などもがあるのだが、周りは真っ暗、まるで自分以外のものが全て消えたかのように。
ふと我に帰って周囲を見回してもやはり何も見えない。
どうしてこんな状況になっているのか、しばらくマヤは考えたが何も心当たりはない。
そして自分に触れること以外何もすることはできないため、地面に立っているのか地面がないのかわからなくなってくる。
助けを求めても無駄だと理解してはいたが、次第に強くなる「このまま誰にも会えず死ぬかもしれない」という思いが彼を狂わせはじめ、投げやりで助けを求めて叫ぶが、もちろん誰もいない。
「このまま目の前から急に怪物が現れて襲ってくるかもしれない」
「元々この暗闇は何者かの影か?いや、何かに喰われて腹の中?」
次々と理不尽な想像がはじまり、止まらなくなる。
その時
「お前が持てよ」と、誰かの面白がる声が聞こえた。
「誰か、いるの?」
マヤは荒げた声で暗闇の中の声に問う。
すると急に当たりが明るくなり、そこにはどこか懐かしい夕方の自宅付近の風景が目の前に広がっていた。
暗い場所から帰ってこれたと安心したマヤは家までの道を辿り始める。
そして学期末であろうか、たくさんの荷物を持って帰る小学生たち。その中に一際目立つ集団がいた。
「やめてよ、自分で持てばいいじゃん」
「なんでだよ、お前が持てよ!」
「そうだそうだ」
誰かがいじめられていた。が、マヤは見て見ぬふりをしようとした。すると、こんな声が聞こえてきた。
「おいマヤ。俺たちの言うことを聞け!」
集団の中から自分の名前が聞こえてきた。
気になったマヤは集団に近付き、覗いてみると、そこに確かに小学生の頃の自分がいて、二人の少年に荷物を持たされそうになり泣き泣き抵抗していたのだ。
驚きとともに「なんで」と心の中で思った。
「殴られねぇとわからないのか?」
それはどんどんエスカレートしていく。
「この役立たずめ」
ついに小学生の頃の自分は草むらに横倒しにされ、石を投げられ二人はあっという間に逃げていった。
しかし何がどうなっているのかわからなかったマヤは、倒れて泣いている自分を見た。
「この風景、どこかで見たことある……あ!!!」
その時、今起こっている風景はマヤ自身の「記憶」だということに気がついた。
「こんな記憶。」
途端に場面が切り変わるように目の前の風景は学校のトイレへ。
三人組に殴られている小学生の頃の自分。
彼の記憶の奥底に眠っていた記憶が蘇る。
次は体育館の倉庫で、次は学校の近くのドブ川へと、次々と自分が被害に遭っている記憶へ移り変わる。
「嫌だ!こんなこと、思い出したくない!」
気がつくとマヤは道路に立っていた。時間が止まっているかのように周りは静まり返っていて、何も動いているように感じなかった。
「……ここは?」
目の前の時計塔を見ると8時47分25秒で時間が止まっていた。
「!!」
急に何か動く物を感じ、咄嗟に後ろを振り向くと、今にもぶつかりそうな大きなトラックの直前に等身大のマヤが、こちらに向かって指を刺して立っていた。
その瞳にはわずかな迷いが浮かびながらも、何かを語っているかのような光が宿っていた。
次第にその瞳の光は消えていき、指を刺されていたマヤ自身はその時何かを悟ったかのように膝から崩れ落ちた。
「これで、本当に良かったのか……?」
「後悔まみれで本当に、よかったのか……?」
「ねぇ、俺」
暗い 岡部龍海 @ryukai_okabe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます