第31話 第二案

「第二案だ! 急げ!」

 

 この策は敵の要である勇者を殺し、敵の戦意を奪うことであった。

 しかし、それが失敗した今、すぐに次の行動に移らなければならない。

 そして、第二案は既に皆に徹底されている。

『念話』を通じて、向こう側の坑道にいるサナンにも状況が知らされる。

 

「今だ!」

 

 キサラの声で一斉に灯りが灯る。

 その数は、三千。

 兵の家族にも両手に灯りを持たせているのだ。

 五百の兵、その皆が家族を伴っているという。

 父、若しくは母、嫁や子供もいるだろう。

 つまり、最低でも倍の千人は居ると考えた。

 そして、しっかりと数えてみると兄弟、そして兵なども含めてこの場には千五百人がいると判明する。

 それら全員に両手に灯りをもたせれば、灯りの数だけでも三千と言うわけである。

 

「よく考えましたね……軍隊全員が明かりを持っているわけが無いと考えると、三千以上の軍がここにいることになる。敵は度肝を抜かれるでしょう」

 

 キサラの言う通り、敵の心理的には三千以上の敵がここにいると思わせる事が出来るのである。

 しかし問題もある。

 

「後はこれがハッタリだと気づかれなければ……」

「その為の第二段です。よし、放て!」

 

 合図と共に一斉に矢が放たれる。

 女子供は矢を引けない。

 無論、放つ事は出来るが、人殺しに加担させる事になる。

 そんな事はさせられない。

 そこで、大量の仕掛け矢を作ったのだ。

 

「魔族には狩りに詳しい者が居ます。その者に仕掛け矢を作らせ、それを撃たせる。それによって灯りを両手で持ちながら敵に矢を放つ事が可能になる……本当によく考えましたね」

「えぇ。こっちの世界にはアイヌという民族がいます。その民族がアマッポという仕掛け矢を使っていたというのが知識としてありました。同じような物を使っている種族の方が居て助かりましたよ」

 

 一斉に放たれた大量の矢は、その灯りがハッタリではない事を証明した。

 少なくとも、敵には本当にそう見える。

 下の敵の様子が見えなくなるほどの数の矢が降り注ぐ。

 その様子に、キサラが思わず口を開いた。

 

「これで……」

「……いえ、だめでしょう」

 

 矢が当たるかに思えた次の瞬間。

 

「はぁ……『シールド』」

 

 一人の男……勇者の真田護がそう呟くと、天に光り輝く壁、いや、盾が現れ、そこで矢は停止する。

 

「な……」

「奴のスキルは『シールド』。全てを防ぐ盾を作ることが出来ます。なので、それを作る前に仕留めようと思っていました……第二案で少しでも敵の兵を削れたらと思いましたが、やはり駄目でしたね」

 

 少しするとスキルの盾は消え、勢いを失った矢が降り注ぐ。

 しかし、防御の態勢で待ち構えていた兵達には殆ど被害は与えられなかった。

 

「……第三案……これが最後の策ですが、それに懸けましょう。皆さん、迅速に行動を開始して下さい」

 

 皆が明かりを消し、迅速に行動を開始する。

 夜目が効く種族を先頭にすぐさま陣地を移動する。

 

「さて……慌てて逃げるようにしてるが……ついてきてくれるかな?」

 

 佐切の策はまだ終わっていない。

 第三案は第二案の失敗が策の一つである。

 その事に気がつかない限り、勇者側はズルズルと作に嵌っていくのである。

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