第6話 真の主人公
ある時、クラスが丸ごと異世界へと転移した。
正直に言えば、それは俺にとってはまたとない機会であった。
何故ならば、その世界が俺にとっては最高の世界であったからだ。
しかし、唯一いらない物がある。
「さぁ皆様。スキルを授けましょう」
この世界にはスキルというものが存在した。
それを俺は望んでいなかった。
しかし、あの女に逆らった男……名前は忘れたが、一瞬で消し炭にされていた。
ならば、従うほかは無い。
他の皆が神官らしき男からスキルを授けられ、最後に俺の番が回ってくる。
「さぁ……跪き、神に祈りを……」
取り敢えず、言われた通りにする。
この世界に転移して、周りの様子を見た限りそこまで科学や文明は発達していないように見えた。
近衛兵のような者達はしっかりと剣をぶら下げ、甲冑を着ていた。
銃器が発達していない証拠である。
「おぉ……お前のスキルは……『念話』だ」
神官がそう言うと、周りから笑い声が聞こえる。
「おいおい……あいつ、念話だって」
「名前からして戦え無いスキルだよな……」
「流石はオタクだな。役立たずだ」
正直に言おう。
俺はイジメられている。
しかし、それを俺は気にしない。
他人の評価を気にして自分の人生を楽しめないのは損だと考えているからである。
それに、スキルを授かって使い方も頭に入ってきた。
これを役立たずと言うのは、『無能』の証だ。
「さぁ、皆の者。本日はこの城にてお休み下さい。明日、兼ねてより集めていた有力な冒険者達と共に魔王討伐の為の旅に出てもらいます」
姫がそう言うと、皆は案内されるがままにその場を去っていく。
それぞれ、部屋が違うようで個人ごとに案内がついていた。
「……」
皆のことを守り抜く。
それが口癖の護は『シールド』のスキルを与えられていた。
それぞれ、その人格にあうスキルを得ているのかもしれない。
その場合、俺は良く分からないが……。
「……ん?」
気が付けば、俺には案内がついていなかった。
既に王女もどこかへと消えており、その場に一人ポツンと残されていたのだった。
「……少しよろしいか?」
どうしようかと悩んで居た所、一人の男に声をかけられる。
見慣れた黒髪。
年齢は四十程の甲冑に身を包んだ誠実そうな騎士であった。
「まず、謝罪を」
男は頭を下げる。
「この世界はスキルが全て。優秀なスキルを得た者はそれ相応に良い待遇をされる。逆に悪いスキルを得た者は……」
「成る程。冷遇される訳ですか」
「……はい」
男は頭を上げる。
「本来ならばあなたには……正確には、劣っているスキルを得た者には誰も案内をつけるなと言われているのですが……本日は我が騎士団の詰所でお休み下さい。明日、再度集められ仲間を与えられるでしょうが、それは……」
「……待った。その前に、何故俺を助けるんですか?」
その質問に、男は少し考えた後答える。
「……実は、私はスキルを持っていません。己の剣技のみでこの地位まで上り詰めたのです。スキルによる優劣等、己の努力次第で覆せると証明したいのです」
「つまりは、同情ですか?」
男は静かに頷く。
「……気分を悪くさせたのなら……」
「いえ、そんな事は全くありません。それどころか、このスキルのおかげであなたに出会えたと考えれば、このスキルでよかったと思います」
俺は手を出し、握手を求める。
「俺は佐切勘助。俺のスキルが劣っていると言いましたが、それが間違っている事を教えてあげますよ」
「……成る程。どうやら、あなたは他とは違い聡明な方のようだ」
騎士は、それに答えて握手を交わした。
「私は王国第六騎士団長、ジョバンニ。そのスキルをどう生かそうと言うのか、聞かせてもらいましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます