第5話 驕り
(意外とついてきたな……)
すぐに動ける者を集めたつもりであったが、それらの数は軍の総勢の半数以上がついてきていた。
それ程、勇者が見せたスキルの威力は凄まじく、皆の士気を上げるには充分であった。
「……しかし、少し離され過ぎたな。敵速くないか?」
「奴らは長年この地で戦い続けていた者達です。地の利は向こうにありますし、魔王軍には足の速い種族もおります。単純な速さでは負けるでしょう」
「はあ!? じゃあどうするんだよ!?」
ジョバンニは少し考えた後、口を開く。
「我等もこの地については調べてきております。置いてきた別働隊も動かし、とある地へ誘導いたしましょう。まぁ、敵も恐らくそちらへ誘い込むつもりでしょうが」
「とある地?」
ジョバンニは頷く。
「我らにとっては非常に不利な地形。されど、勇者様のスキルがあれば容易に勝てましょう」
「……成る程。考えがあるんだな? よし、任せた」
護もジョバンニを信頼し、策を託すのであった。
「さすがだな……確かに、これは不利だ」
既に日は昇り、戦場の様子がよく分かるようになっていた。
騎士団が魔王軍を追って辿り着いた場所は三方が山に囲まれており、魔王軍はその三方の山にそれぞれ兵を配置していた。
スキルで守られたとは言え、多少なりとも損害を被ったのは騎士団だけであり、魔王軍側の被害は皆無である。
そして、ここにたどり着けた騎士団も例のすぐに動ける者たちだけであったので、総数では無かった。
通常通りに見れば、明らかに誘い込まれていた。
しかし、その実は敵の誘いに乗っただけであった。
「ええ。しかし、我々には勇者様のスキルがあります。敵は山なりに矢を放つ傾向があります。三方から放たれたとしても、スキルで充分に対処可能かと」
「その通りだな。しかし、敵もバカじゃない。ずっと撃ち続けてくるとは思えないぞ?」
ジョバンニは頷く。
「そうですな。なので敵が山を降りてくるその前に我らが山を登り敵に仕掛けます。他の箇所の敵が対処してくるよりも前に山に陣取れば、追ってきた敵を今度は我々が矢の雨を降らせてやれば良いのです」
「……成る程な。スキルを使いながら皆を守り、山を登って攻撃を仕掛ければ損害少なく倒せると……敵は包囲するために三方向に兵を散らしているし……考えたな」
護の言葉に、ジョバンニは首を横に振る。
「いえ。これはスキルあっての策。魔族はスキルを持ちません。だから正攻法で戦える。しかし、これが他国との戦となれば、こうも簡単には行かぬでしょうな」
「ま、どうでも良いけどな」
この世界ではスキルを有効活用した戦いが定石。
つまりはスキルを前面に押し出した戦い方が正攻法なのである。
護は軍の先頭に立ち、剣を掲げる。
「皆! 皆のことは俺か守り抜く! だからこの戦は勝ち戦だ! 進め!」
護の号令で軍が足を進める。
兵は完全に罠に陥った。
すると、三方の山から矢が放たれる。
それを確認した護は空に手を掲げる。
「『シールド』!」
矢は、空中に停止する。
護のスキルによって見事防がれたのである。
「どうよ! これが俺のスキル『シールド』だ!」
「……妙だな」
ガッツポーズする護を他所に、ジョバンニは不信感を感じた。
(先の戦はまずこの軍で重要な俺、もしくは勇者を狙った。なのに今度は最初から無意味と分かっていて矢を放った? ……不自然だ。長年スキル持ちの我々と戦い続けた魔王軍が学習しないなど……あり得ない)
そう考えた次の瞬間、近くの茂みから矢が放たれる。
狙いは、護であった
「危ない!」
「え?」
ジョバンニがそう言った次の瞬間。
護の喉を一本の矢が貫いた。
「かはっ……」
「勇者様!」
空に止まっていた無数の矢が降り注ぐ。
油断と勇者を失った事によって士気が落ちた兵は速度が落ちた矢に対応しきれず、被害が出る。
先の展開が予測できていたジョバンニは矢を防ぐ。
「くっ……やられたか……」
その矢は山なりではなく真っ直ぐ護を狙って放たれていた。
ジョバンニは矢が放たれたであろう方向を見る。
「あれは……佐切殿!? 裏切られた……いや、あの境遇ならば仕方がない……ならば、ここまでの流れ、全て罠か!?」
茂みに立っていた佐切と呼ばれた男はにやりと笑い、声を上げる。
「今だ! この一瞬の隙を逃すな!」
「あ……か、かかれ!ぇ」
その佐切と呼ばれた男の側には小さな角が生えた女性が立っていた。
「魔族の女か……佐切殿……魔王軍に味方するか……くそっ! 退け!」
ジョバンニの指示で兵も引き始める。
魔族が追ってくることは無かった。
(追ってこない……か。それも罠か……それとも……どちらにせよ、今は逃げるしか無い、か……全く……恐ろしい男を敵に回してしまったな……)
ジョバンニはひたすらに兵をまとめてその場を後にするのであった。
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