あべこべ世界

加賀倉 創作【書く精】

1. 白い人・黒い人・黄色い人

 〈黄色い人〉が二人。

 それぞれ、〈大きい人〉、〈小さい人〉。

 親子だろうか?

 それは定かではないが、とにかく二人は……


 オセロを始めた。


「白い石がいいか? 黒い石がいいか?」

「んー、黒かな」

「なら、お前からだ。黒だからな」

「どういうこと?」

「黒が先手と、公式ルールで決まっている」

「公式って、ただの遊びじゃん。でも、どうして黒からなのかは気になるなぁ」

「先に生まれたのは〈黒い人〉だからな。頭蓋形ずがいがた大陸で発生した原初の人類は、今でいう〈黒い人〉に近い」

「へぇ、そうなんだ……いや、待って。それって、オセロは黒が先行、っていうのと関係あるの?」

「いや、ない。すまない、テキトウだ」

「なーんだ。ま、とにかく先行はもらいますよっと……」


 パチ……パチ……パチ……パチ。


 〈黄色い人〉二人は、静かに、淡々と、石を取り合う。まだ、片手で数えられるほどにしか順番は回っていないが、盤面のほとんどを、黒い石が占めている。


「おっーと。最初に取りすぎると、後で痛い目に会うぞ?」

「え、そうなの? 感覚的には、序盤で駒を減らされると、後で辛くなってきそうな気がするけど……」


 そんな会話をしつつも、二人の〈黄色い人〉は、パチ、パチと、互いに石を打つ手を止めない。


「これは直感に反する事実の一つだが、オセロは基本、序盤から中盤は、駒そのものの数を増やすよりも、置ける場所の数を増やしたほうがよい」

「置ける場所を増やす……つまりどういうこと?」


 パチ……パチ。


 白い石と、黒い石が、交互に、事務的に、置かれていく。気づけば、白い石の数は、黒い石の数に肉薄にくはくしている。


「大前提として、相手の駒をひっくり返せる場所でないと、自分の駒を置くことはできない。相手の駒をせっかくひっくり返すなら……当たり前のことを言うようだが、相手の駒がある程度の個数、直線状に置かれているのが望ましい。となると、こういう発想もある。勝負の前半で相手の駒が多いほど、逆に言えば自分の駒が少ないほど、未来、一度にひっくり返せる枚数も、選択肢も、増やせる。例えばお前は今回黒だが……後半になって盤面の中心あたり、内側にたくさん相手側の白い石がある方が、一気にごっそりとひっくり返せる。最初に小金稼ぎするよりも、効率的だろう?」

「ほぉ、なるほど。後先考えずに欲張ると、痛い目を見るわけ…………あっ。本当だ!」


 ……パチ。


 盤面は、そのほとんどが、白い石で埋め尽くされてしまっている。


「ほら、俺が通りになっただろう?」

「はえー。説明されたらわかるけど、感覚的には、違和感……」

「なら、もう一回やって検証するか? 今度は、序盤は少なく取るようにしてみるといい」

「おっけい、やるやる!」


 オセロは、二戦目に突入した。


 パチ……パチ……パチ……パチ。


 案の定、一戦目とは真逆の結果となった。


「そうだ、ふと思い出したことがあるんだが……」

「何? また蘊蓄うんちく?」

「いや、蘊蓄なんかよりももっと、大局的マクロな話だ。俺が小さい頃は……〈黒い人〉は、〈白い人〉に、まるで歯が立たなかった。〈白い人〉はある日突然海の向こうからやってきて、いろんなものを奪っていった。金銀財宝、甘くて白い粉や鼻がむず痒くなる黒い粉、そして理解に苦しむかもしれないが……〈黒い人〉そのものをさらっていくことも多々あった。それは、俺たち〈黄色い人〉にとって、他人事ではなかった。今度は傍観ぼうかんしていた自分たちが〈白い人〉の餌食えじきにならぬよう、必死に抵抗した。国じゅうの港を封鎖していた時期もあれば、売られた喧嘩を買うこともあった。そうして、〈黄色い人〉の中にも、〈黒い人〉と同様、〈白い人〉からの搾取に喘ぐ者が出始めた。以降はしばらく、暗黒の時代が続いたが……」

「わかった! 黒と黄色による逆襲が始まった、そう言いたいんだね? オセロの白い石が、後半になってどんどんひっくりされていく!」

「そういうことだ。〈白い人〉は、ただただ狡猾こうかつで、他人ひとから略奪して発展しただけ。この先、身体能力や資源リソースで勝る〈黒い人〉と〈黄色い人〉が、〈白い人〉が生意気にも築き上げた学問や技術を利用して、知恵をつけていけば、天地はひっくり返る」


 このように、〈大きい人〉は〈小さい人〉に、〈白い人〉がいかに極悪非道であるか、また〈黒い人〉や〈黄色い人〉がいかに気の毒であるかを説いた。

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