ぞっとする短編実話怪談『幼友達からの葉書』

redrock

『幼友達からの手紙』

全て実話です。


震災から十年経ったある日・・・


当時、私は他県に住んでいたため被害はなかったのですが、実家が被災しとてもつらく大変な十年でした。


昔の友人、知人を心配する余裕も時間もなかった私は、インターネットで被害者の名簿を見ていると・・・



そこにK君の名前がありました。



私が子供の頃に住んでいた家の近所にK君の自宅があり、毎日のように公園で遊びました。


小学校、中学校とクラスも一緒で、漫画やテレビで見た映画、プロ野球の話をしてとても楽しかったことを覚えています。


しかし私が中学校卒業とともに市内の遠方に転居したため、以降彼と会うこともありませんでした。



想い出が熱く胸を過ぎり、ざわついた私は居ても立ってもいられず、K君と私が子供の頃に住んでいた町に行くことにしました。



新幹線に乗り数時間後最寄りの駅に降り立つと、かすかな記憶を頼りにK君の家路を辿る、つもりでした。



しかし・・・町は一変していました。



一緒に遊んだ公園には仮説住宅が立ち並び、近隣の土地は全て更地となりK君の家だけでなく見渡す限り何もありません。


私は急いで慰霊碑がある場所に電車を乗り継ぎ向かいました。


繁華街から歩いて十分の広い公園に慰霊碑があり、そこには被害者の銘板が数多く整然と並んでいます。


私は慰霊碑の前で一礼し合掌しました。


五十音順に並んでいたためすぐにK君の銘板を見つけました。

同じ姓の被害者はおらず亡くなったのは彼だけのようです。


私はK君の名前にそっと触れ、今まで気が付かなかったことを心から詫び、手を合わせました。


子供の頃の楽しかった思い出を心の中で語り、そして私の仕事、家族のことを報告しました。



私は大人になったK君のことは何も知りません。



「仕事は?結婚は?子供は?・・・」



質問にK君は何も答えてくれません。



どのくらいそこにいたのか私は再び手を合わせ、「残されたK君の家族をずっと守って欲しい」と最後にお願いし、再びここに来ることを約束して別れを告げました。



そして電車とバスを乗り継ぎ実家へと向かいました。



久々の実家で何もする予定のない私は、古い本でも処分しようと自室の押し入れを開け、段ボールの中にある本を整理していると・・・


本の間に一枚だけ葉書が挟まれています。


何だろう、と手にするとそれはボールペンで書かれた古い葉書でした。



宛名は私で差出人はK君です。



私のあだ名の後に・・・



『謹賀新年』


こないだは来てくれたのに会えなくてごめん。


ありがとうな。


俺は将来、料理人になるよ。お前が映画監督になれたら俺を出してくれよ。もちろん主役で!!タノムゼ


中学を卒業して違う高校に行っても絶対会おう。今年もヨロシク Kより



それは中学三年生の時にK君が私宛に出した年賀状でした。


彼は慰霊碑を訪れた私に礼を言い、質問にも答えてくれました。


私にはあの頃のK君が天国のポストに投函し、たった今届いた葉書に思えてなりません。


正直ぞっとしました。


しかし彼の悪戯だと考えながら目を閉じると、瞼にK君の笑顔が浮かんできました。


「どうだ、びっくりしたか?」


笑いがこみ上げてきました。


私の隣で彼も笑っているような気がします。



あれからも慰霊碑を訪れその後実家に帰る度、K君の他の葉書や手紙を探していますが、まだ何も見つかっていません・・・



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