六 期間半月

「ど、どういうことですか?」


「君って確かにちょいちょい女子の話題に上がるくらいは人気があったけど、でも、そこまで女子と縁がある感じもなかったんだ。なんていうか、硬派っぽいって言うのかな? 」

「え、でも、二股……」

「そう。だから君が二股なんてしてるって知った時、すごくビックリした。絶対そんなことするような子じゃないと思ってたし……一度逃げたなんて聞いた時には、もっとビックリした。二人の態度を見るまで、何かの間違いなんじゃって思うほどだったよ」


「……それ、話変わってきませんか?」

「やっぱり変わると思う?」

「いや、僕に聞かれても……」

「そういう話を聞き出すって意味でも、二人にちゃんと話すべきだと思ったんだけどね。先生は」

「でも、てっきり僕は二人と同時に付き合っていて、その罪を問われているものだと勝手に思ってましたけど……その話があるんだったら、例えば僕は二人から同時に告白されて、その答えを出している最中。とかもあり得るわけですよね?」


「……ああー、確かに。その考えはなかったな」

「というか、そっちの方があり得そうじゃないですか?

 だって普通二股して逃げた男とまだ付き合おうってなる子なんて稀だし、僕が硬派な人間だったのなら、「告白されて、どう答えればいいかわからず逃げた」の方が、辻褄が合いますよね」

「ちょっと、座ろうか」


 さっきの部屋の隣にある保健室の、大きな丸テーブルを中心にして、僕と先生は再び作戦会議に戻る。



「というか、そもそも二人ってどんな子なんですか?」

「四季島さんと反さん? ……先生は保険医だから、特別詳しいってわけでもないけど」

「絶対詳しいでしょ。教えてください」

「うーん……」


 先生はテーブルの上でしばし悩んだあと、順を追って説明を始める。


「四季島青香さんは、陸上部に入っていて活発で純粋なスポーツ少女って感じだったよ。学級委員もやってる優等生で、男子からの人気も結構高い。

 反紫さんは……あんまり話を聞かないんだけど、勉強ができて頭がよくて、いまいち捉えどころがない、ミステリアスな子って印象かな。たまにビックリするような悪さをするんだけど、不良ではないね。イタズラ程度。独特の雰囲気を持ってるから、男女共に密かな人気がある。特に女の子に」


「めちゃくちゃ詳しいじゃないですか」

「でも、結局君との接点がわからないなあ……特に仲がよかったとかも聞かないしね。まあ、火のないところからいきなり煙が立つのが恋愛って気もするけど」

「……僕、そこそこ人気があったらしいですけど、そんな仲良くない子にいきなり告白されるほどだったんですか?」

「いや〜?「ちょっといいよね」って一瞬話題になって、すぐに消えていく感じだった」


 自分から聞いといてアレだけど、かなり傷つくな、この話。


「先生が最後に噂を仕入れたのは、いつ頃ですか?」

「えーっと、先々週のテスト終わりが最後だから……半月前くらいかな」

「じゃあ、僕はその間に告白された可能性が高いですね」

「だろうね。仮に二股だろうと、それは間違いないと思う。あの二人だったら速攻で話題になるだろうし」


 もう二股の可能性は忘れたいけど……あの二人との関係は、割と最近の出来事らしい。


「この半月の間に、何かイベントとかはありました? なにかこう……恋愛に発展しそうな」

「う〜ん……あ、あったあった。ひとつだけあるよ」


 先生は後ろの壁にかかっていたカレンダーを持ってきて、七月の写真を僕に見せる。長い階段の上にある神社と、ずらりと並んだ屋台の写真だ。


「夏祭り、ですか?」

「そう。毎年この辺りでやる、地元のお祭りなんだ。それがあったのが先々週の日曜日」


 夏祭りか……確かに、恋愛のイベントとしては十分な内容だ。


「いいねぇ。夏祭りに二人の女の子から告白されるなんて、君も罪な男だねぇ」


 先生がニヤニヤしながら僕の胸を小突く。まだそうと決まったわけではないが、確かに僕も羨ましいことだとは思った。


 しかし、こうして何が起きたかを推理して、記憶の穴を埋めていけば、ひょっとすると全てがわかるかもしれない。少しだけ活路が見え始めた。



 そんな折、ふと保健室の扉がガラッと開いて、短髪の男子生徒が転がり込んでくる。


「犬助が死んだってマジ⁉︎」


 彼はそれを、他でもない僕の顔を見ながらそう言った。

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