第44話 久しぶりの地上
あれから、何人ものスライム使いと出会った。
大体変な人で社会不適合者だったけど、シンと似通うところがあった。
それはスライムを本物の家族のように扱ってたことだ。
テイマーというのはどうしたってテイムモンスターを道具として扱う人が多い。
商売道具でありながら、働いてもらわないとおまんまの食い上げだ。
稼ぎが悪い時はテイムモンスターに当たり散らすことが多い。
けれど出会った人たちにはそれが見受けられなかった。
何だったら自分より最優先で気を使うし、同じご飯を同じ食卓で分け合って食べていた。
シンはそれを見て自身もピッキーにそれができていたか振り返るほどである。
ダンジョンの中で出会い、そして色々教わった。
学びには苦痛を感じるものが多いと理解していたが、一番最初にこの世の地獄を味わったからこそ、大したことなかったなという感覚。
神薙アスカとの出会いはそれだけ強烈だったが、あれがあるからこそ今が楽になれたというのはシンにとっては朗報で。
大抵のことが苦なく吸収できたと思う。
中でも最近別れた錬金術師は相当に強烈だった。
頭に猫の耳を生やした、シンと同じ背格好をした自称おじさん。
シン以上に女の子女の子した見た目をしてるのに(何だったらスタイルで上回られていたのに)それほど緊張しなかったのである。
なぜか年上と接しているような感覚で、付き合ううちにそこら辺はどうでも良くなっていた。師匠といえばライトもそうだが、どうにもこの手の一つのことにハマると周りが見えなくなるタイプは生活面がダメダメになる人が多い。
シンは食事を支えるとそれこそめちゃくちゃ褒められたことを記憶している。
「最高、結婚して。僕一人じゃ生きていけないんだよー」
ダメ人間あるある。料理が上手というだけで即座に身を預けてくる。
言われる方は溜まったものじゃないが、それは冗談として受け取っておいた。
どんなに愛情を注いでいたとしても、スライムはご飯の世話まではしてくれない。
猫や犬のような愛玩動物枠だ。
それでもライトやヒジリは全く異なる愛で方をしていたのを思い出す。
それぞれの職業によって、アプローチが異なるのだろう。
スライムの特性をそう捉えるか、という見解。
シンはそれを知ることでピッキーへの接し方を変えたというのもあった。
スライムの生態系をうまく捉えきれていなかったというのもある。
それをしてからより行動がスムーズになったと言ってもいい。
特にライトからの教えは今も胸に刻むほどだ。
あれほどのスライム愛はそうそう見ないものになっていた。
「さて、2ヶ月ぶりの地上だ。みんな元気かな?」
体内カレンダーが正しければ、多分それくらいの期間潜っていた。
ダンジョンに潜る機会が多い都合上、嫌でもそういう機能が備わってくる。
特にアスカからのしごきで散々染み付いた能力である。
生存本能以上に、一体どれくらいの期間ダンジョンに潜っていられるか。
それを徹底的に叩き込まれた気がしていた。
振り返りたくもない過去ではあったけど、今にして思えばさまざまな経験はあそこで詰んだと思っているシンだった。
「帰ったらご飯くらいはご馳走してあげたいな」
今はもうあの時の自分とは違う。
つっけんどんにしていた過去を洗い流すことはできないが、それなりに感謝していることもあるのだ。
しかし久しぶりにギルドに顔を出したシンにシホは、全く見知らぬ人物に接する顔をした。
「はい、本日はどのようなご用事でしょうか?」
「えっ」
シンは言葉に詰まる。
ああ、そういえばと思い出していた。
ヨウイチとの出会いですっかり太ってしまったから。
当時のほっそりしていたシンと見比べたら他人に見えても仕方ないと思えた。
「僕です、シンです。無事ダンジョンより帰還しました」
ビシッと敬礼して見せる。
自衛隊がやっていたのを見よう見まねで模倣してみた。
ダンジョンには政府の調査でよく自衛隊が入ることがある。
何かアクションを起こすたびに敬礼をしていた。
あれは目上に対する誠意なのだとシンは思っている。
「シン君!? よかった、無事だったのね!」
「えっと、はい」
シホは目を見開いたと思ったら、周囲を見まわし、壁から一枚の貼り紙を掴んで持ってくる。
「ダンジョンで失踪してからもう二年。その顔はもう見れないと思っていたわ。無事でよかった」
「あ、あの。そんなに経ってたんですか?」
「そうよ! 何度も捜索してもあなたの姿は見つからなかったの!」
「僕、ずっとダンジョンにいましたよ?」
「そこのところを詳しく聞くためにも、今からマスタールームでお話ししましょ。方々にも捜索願をかけてるから」
「は、はい」
2ヶ月くらいの感覚でいたら、まさかの二年の経過。
これはマリアやレイもお冠であろうなとヒヤヒヤするシン。
思い出話はいっぱいあるけど、その前に心配したんだぞと詰め寄られそうだった。
「それよりもあなた、随分と見違えたわね」
「ちょっと太ってしまいました」
「それって嫌味?」
「えっ」
シホのスタイルは悪くはない。小さくまとまっているといえばその通りだが、スタイル抜群かと聞かれたら首を捻るほどである。
そんなシホから見ても急成長したシンの言葉は嫌味以外の何者でもなかった。
デブった。その感覚は人によるものである。
特にシンのお腹周りに贅肉のようなものはない。
程よく鍛え抜かれた腹筋さえあった。
そこを服越しに触られて、シンはくすぐったさに身を捩らせた。
「ちょ、くすぐったいですって」
「なーにやってんだ、お前ら?」
「あ、マスター! 見てくださいよ、シン君こんなに立派に成長なっちゃって」
「シン? お前シンなのか!」
シンをよく知っているギルドマスターですらこの反応である。
これはマリアやレイはどう言った反応になるのか今から怖いシンであった。
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