《勇者を陰で支える魔導騎士の近接無双》~幼馴染の賢者と聖女を守るため世界を駆け廻る~
華音 楓
序章
第1話 魔物氾濫
「ええい!!どうしてこうなった!!増援部隊はまだか!!」
鬱蒼と木々の生える荒れた道の中で男が怒鳴り散らしていた。
前方では戦火が上がり、怒号と悲鳴が響き渡る。
次々と上がる報告に、苛立ちを隠せないでいた。
男が指揮するのは王立第3騎士団第3大隊第5中隊であった。
現在最前線ではモンスターのスタンピードが発生し、その殲滅作戦が行われていた。
この部隊はそこへ物資の補給と兵力の補充が主な任務であった。
この少し前まではとても順調に工程をこなしていた。
しかしここに来てイレギュラーが発生したのだ。
劣化龍種の奇襲攻撃だ。
部隊前方からの奇襲であったために、当初の被害は限定的であったの
これが不通の部隊であれば損害を抑えつつ後退も可能であった。
しかしそれが実行されることはなかった。
この男フリードリッヒ・フォン・フェンガーは王立魔導学園を卒業したてのど素人だったからだ。
通例では副隊長が諌め、指揮権を移譲され撤退戦に移行する。
しかしながらこの隊長……無駄にプライドが高すぎた。
何を思ったか、ここで引き換えしたら作戦失敗になり評価が下がるとゴネ始めたのだ。
いくら無能な隊長でも隊長なのである。
指揮権が移譲されていない以上、無能な指揮官の指示が優先となってしまう。
行きあたりばったりの指示に指揮系統は混乱をきたし、戦況は悪化の一途をたどった。
「報告します。現在残存兵の約3割が消失。これ以上の継戦不可能な状況です!!」
「それは本当か!!なんということだ!!おい、誰か!!今すぐ副隊長を呼び出せ!!」
男の焦りと苛立ちが頂点に達していた。
言葉の端々に漏れ出る罵詈に隊の士気は下限ギリギリであった。
それをなんとか副隊長がコントロールし、3割の損害で抑えられていた。
それでも止まない指揮官の愚策に指揮系統はすでにボロボロになりかけていた。
それから程なくして、フェンガーの前に一人の老兵が姿を現した。
「失礼いたします。お呼びでしょうかフェンガー中隊長殿。」
老兵は男へ一礼すると、すぐに歩み寄る。
老兵は背筋はピンと伸びており、兜はすでに外されており小脇に抱えていた。
白く生えそろったあごひげが、老兵に貫録を与えていた。
これではどちらが隊長か分からない状況であった。
それもそのはず、この老兵は農村の生まれながら大隊長にまで上り詰めた傑物なのである。
名はラインバッハ。
残念ながら高い戦果を残しながらも叙爵までには至らず、貴族籍を得ることは叶わなかった。
隊長格は貴族のものと言うのがいまだ根強く残る中での昇格に、いかんせん敵も多くなってしまう。
それもあってか、年齢を理由に隊長職を解かれ、今はこの無能とまで言われているフェンガーの補佐役として帯同していたのだ。
「よく来たラインバッハ。現在の状況報告は聞いているな?」
「は。現在我が隊は
フェンガーはラインバッハから聞かされた話に苛立つ。
手にした杯を今にもそラインバッハに投げつけてしまいそうになっていた。
すでに時を失していることなどいくら無能なフェンガーとて理解していた。
だからこそその物言いに余計に苦々しく思えたのだ。
「ラインバッハよ。私も男だ、決断せねばなるまいな。直ちに隊をまとめよ。撤退戦に移る!!それとラインバッハ。貴公に別命を与えるがゆえ、数分後陣前方に来るように。ほかの者は準備を急げ!!」
「かしこまりました。」
ラインバッハは恭しく首を垂れると、すぐにその場を後にした。
フェンガーはすぐに部下に指示を出し、部隊の編成に取り掛かる。
このような無駄なやり取りをしている間にも、部隊への被害がひろがっているのだった。
フェンガーとの話し合いの数分後、予定通りに姿を表したラインバッハは愕然とした。
そこに集められていたのは、輸送部隊の徴用兵と自分の部隊員。
それと負傷を抱えた騎士たちだったのだから。
「集まっているな。」
遅れてやってきたフェンガーは少しニヤついていた。
それもそのはずです、フェンガーからすればラインバッハは目の上のたんこぶであった。
事在るごとに苦言を呈して来る。
自分の思いどおりにならないことが多々あったからだ。
しかも部下たちは必ずラインバッハへ先に報告に向かおうとする。
それをラインバッハに嗜められてからフェンガーに報告に訪れるものが後を絶たなかった。
「ラインバッハよ、貴公に殿部隊の指揮を任せる。なに、そなたからの忠言を聞き入れ、撤退作戦を実行することにした。なに、我が部隊最高峰の名称と謳われる貴公ならばかならずや成功させてくれると信じている!!我が部隊の撤退のため尽力してくれたまえ!!」
これはまさに体のいい生贄部隊である。
すでに本陣にも魔導具で連絡を行っており、その作戦は承認されてしまっていた。
ラインバッハは反論することすら許されず、従う他なかったのであった。
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