プリンセスのまほう

湖ノ上茶屋(コノウエサヤ)

第1話


 今日は、待ちに待った、結婚式へ行く日。

 今日プリンセスになるのは、私のお父さんの妹の、リナお姉ちゃん。

 リナお姉ちゃんとは、けっこうよく会う。

 おじいちゃんの家で、みんなでご飯を食べよう、ってなると、リナお姉ちゃんも来てくれるから。

 リナお姉ちゃんは、とっても優しい。

 お正月にはお年玉をくれるし、クリスマスが近かったらプレゼントをくれる。

 誕生日の時もそう。何でもない時には、ケーキを買って来てくれたりもする。

 何かをくれるだけじゃない。一緒に遊んでくれたりもする。

 いつか私も、リナお姉ちゃんみたいになりたいなって憧れちゃうくらい、とっても素敵な人なんだ。


 私は、リナお姉ちゃんのことがだいすき。

 だから、「この人がリナお姉ちゃんの旦那さん。リヒトさんだよ。」って、結婚する相手の人を見せられた時は、ちょっと嫌な気分だった。

 だって、私のリナお姉ちゃんが、とられちゃう気がしたから。

 その時、お父さんは、私の嫌な気分になんて気づかずに、いつもと何も変わらない様子で、「これからもみんなでご飯食べたりしようね!」って言った。

 リナお姉ちゃんは、「もちろん!」って笑ってくれた。

 そして、リヒトさん……いいや、怪盗リヒトも、「ぜひ!」ってニコッてした。

 みんなが一緒にご飯を食べたいって思ってる。ってことは、これからもリナお姉ちゃんと、たくさん会えるってことだ。

 でも、これからは、リナお姉ちゃんの隣には怪盗リヒトがいる。

 だから、これまでみたいに私ばっかりをかまってはくれないんだろうなって考えちゃって、なんだか悲しくなる。


「準備できた?」

「うん。」

「ああ、リリ。ちょっと待って。髪飾りがずれちゃってる。……よしっ! オッケー。とってもかわいいよ。」

「ありがとう、ですわ。」

「ふふふ。おめかししたから、プリンセス気分だね。さぁ、それじゃあ、結婚式場へ行こうか。」


 私は、お父さんとお母さんと一緒に、リナお姉ちゃんが結婚式をするところへ向かった。

 そこは、普段は行かない場所。

 周りには背の高い建物がたくさんあるし、近くを歩いている人はみんな、私たちみたいにおめかししてた。

 なんだか、違う世界に迷い込んだみたい。

 みんなで一緒にご飯を食べて、「おいしいね!」って言っていた世界から、本物のプリンセスがいる世界に迷い込んじゃったみたい。


「ここだ。」

「わぁ、素敵。こんなところで挙げられるなんて、羨ましい。」

「え、あそこじゃ嫌だった?」

「んー? そんなことないよ。結婚式場は、比べちゃダメよ。どこもいい。だけど、ほら。ここから先は絵本の中に入り込むみたいじゃない? ドールハウスに入るみたいっていうか。」


 お母さんが、今まで見たことないくらい、はしゃいでる。

 私はポカンと、お母さんを見てた。その、ちょっと間抜けな顔を、お父さんに見られてた。

 

「な、なん、なんですの?」

「ふふふ。リリは、楽しみ? 結婚式。」

「うーん……。うん。うん?」


 楽しみ。だけど、変な気分。

 これから、怪盗リヒトにリナお姉ちゃんがとられるところを見ないといけない。

 それを、お祝いしないといけない。

 お祝いした方がいいってわかってるけど、やっぱりなんだか嫌だな、とも思ってる。

 せっかくプリンセスな世界に来たっていうのに、私の心にはいつもの私がいて、なかなか隠れてくれない。プリンセスのふりをしても、プリンセスじゃない私が、ひょこひょこと顔を出す。



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