第10話:赤髪が平凡なんだ……。さすがはアニメ世界……。
それからフィドルさんは、私の顔を再び頭巾でぐるぐる巻きにして、工房の裏口から外に出してくれた。
「決めたよ、まずは髪結い屋へ行こう。君の銀髪は目立ちすぎる。平凡な赤髪にでも、染めてみたらどうだろう?」
赤髪が平凡なんだ……。さすがはアニメ世界……。
こうして私は、異世界の美容室へ連れて行かれ、不思議な香りのする毛染め剤を長い銀髪に塗りたくられ、ついでにアリシアの髪にも同じものを塗りたくられ、再び髪を綺麗に洗い落としたら……
「おや?赤毛にしようと思ったんだけど、なんだか微妙な髪色になっちまったね……」
少し
「うん、見事な桃色ですね!」
私は鏡に映ったピンク色の髪の毛に紫の瞳の、絶世の美女を見詰めながら言った。
「うん!まあ、印象はだいぶ変わったし、綺麗な色だから、いいんじゃない?」
フィドル兄さんもそんな無責任なことを言いながら、きっちりとお勘定を払ってくれた。
「ごめんなさい、お金……」
すると兄は手を振って言う。
「お金のことは気にしないでよ。僕は君の兄さんなんだから、君を養う責任が僕にはあるんだよ」
兄は嬉しそうな顔をして言った。
次に、庶民的な服や小物を売っている洋品店へ向かう。
「古着屋さんだよ。安いから重宝しているんだ。好きなものを選ぶといい」
たしかに、売られているのは着古されたような服ばかりだった。
私はせっかく異世界に来て、絶世の美女になれたのに、古着なのね、と少しだけがっかりしながらも、
そう言えば転生する前は私も、百均のプチプラコスメが
アリシアも楽しいらしく、広い店内を歩き回りながら洋服や帽子、カバンや靴などを次々と手に取っていた。
「うん!完璧じゃないか!二人とも、最高に可愛らしいよ……!」
私は薄水色の地味な小花柄のワンピースを選んだ。
ピンクの髪によく似合っている。
ついでに伊達眼鏡も掛けて、ピンクの髪をお下げにしたら、悪女ヒルダ・ビューレンの面影などすっかり無くなった。
おかあしゃまとお
ついでにアリシアにも伊達眼鏡を買い、お下げを結ってあげたら、文学系美少女親子のでき上がりだった。
洗い替えに、数着の服と肌着を購入したら、古着とは言えかなりの出費になってしまった。
「大丈夫?お兄ちゃん。ほんとに、ごめんね……」
私はごめんねを繰り返す。
「だ、大丈夫だよ……思ったよりお金は掛かっちゃったけど、しばらく少し食費を切り詰めれば、なんとかなる……」
兄の顔色が少し悪かった。
うーん……これは……この国の経済状況がどんな感じで、宝飾職人である兄のお給料がどのぐらいなのか、まだ良く分からないけど、家族三人で暮らして行くのなら、私もなんらかの形でお金を稼いだ方が良いのかもしれない……。
そして、できることならばこの子の父親も探し出して、養育費でも払わせないことには……。
帰りに市場で野菜や魚(魚は投げ売りされていた小魚を買った)、パンを買って帰り、私は兄に
こうして私の、傾国の美女にしてキャバレーの踊り子ヒルダ・ビューレン改めセレスタ・クルールにうっかり転生してしまった異世界生活(全世では○女なだったのになぜか娘がいる)が始まったのだった。
養い主兼愛娘アリシアの父親代わりがアンドリューそっくりの兄であること以外、やっていることは専業主婦と同じだった。
掃除、洗濯、食事の準備、それからアリシアの遊び相手になること。
ただ、買い物だけは兄が仕事帰りにしてくるから、絶対に行ってはならないと、口酸っぱく兄に言われていた。
自分と一緒でなければ、家から一切出るなとまで言われていた。
兄は随分と過保護だったけど、まあ、気持ちが分からないでもない。
この間、少しの時間通りに立っていただけであんな騒動になってしまったのだから。
一人で出歩いていて、ヒルダ・ビューレンだと気取られたら、どんな酷い目に遭わされることか。
あの後、兄が出掛けている間に、こっそりとベッドの下を覗いてみたのだが、あの手帳のような、書籍のようなものは、無くなっていた。
私が部屋を綺麗に片付けたことを知った時も、兄はとても慌てていた。
よほど何か、私の目に触れさせたくないようなことが書かれていたのだろうか(もちろんただの
うーん……怪しい。
兄はまだまだ、何か隠しているような気がする。
自分が居ないところで勝手に出歩くなとあれだけ
なんだか、もどかしいな……。
結局「ペンダントの君」が誰なのかも分からなかった。アリシアの父親は誰なのだろう。
セレスタは本当にたくさんの男の人生を狂わせた悪女だったのだろうか……。
この女がどんな人間だったのか、知りたいような、知らない方が幸せなような、そんな気持ちだった。
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