天真爛漫なお嬢様とツンデレメイドと体育会系幼馴染が、俺の日常を壊してくる

まさ

プロローグ 

 なんだよこの光景は……?


 日当たりの悪い六畳の部屋、本棚に入りきらないラノベの山や、使い古したゲーム機とそのソフトが壁際を埋めつくす。

 その他には勉強机にクローゼットに、組み立て式の簡単なベッドだけ、陰キャの高校2年生が過ごすいつもの場所だ。


 けれど今日はそこに、普段はないビジュアルがある。


 青色のショートヘアが微かに揺れて、ほんのり青い色で潤んだ瞳、色白でちょっとふっくらした頬、赤い唇が艶やかに輝く超絶美少女。

 そんな彼女は、同じ高校の制服姿で、ベッドに腰を落としている。


 ―― えっ!? な、何をしているんだ……?


 彼女ははち切れそうな胸元のボタンを、一つずつはずしていく。

 白いブラジャーは豊満過ぎる双丘を隠すには全く十分ではなくて、瑞々しい素肌がだんだんと露わになっていく。


 一体何カップあるんだろ?

 いやいや、今はそれどころではなくて!


「お、おい真鈴まりん! 何をやってるんだよ、一体!?」


 思わず声を荒げると、彼女の手がピタッと止まった。


「何をって……男の子と女の子がこういう時にすることって、決まってるでしょう?」


 澄ました顔から氷のように冷たい視線を向けながら、当たり前のように甘い誘惑に満ちた言葉を投げ返してくる。

 今この家にいるのは、俺と真鈴の二人だけ。

 これでやることって……まじか?

 顔がやかんのように沸騰して、心臓がハードロックのドラムのように爆音を奏でて、思考が混濁してくる。

 DT陰キャ高校生男子には、刺激が強すぎる。


「か、からかっているのか? なんでこんなこと、するんだよ……」


「からかってなんかないわよ。冗談でこんなことできると思う?」


「いやまあ、それはそうかもだけど……」


「……私とこういうことになるのって、嫌かな? これでも私、結構可愛い方だと思うんだけどな」


 結構どころじゃない。

 真鈴の人気は、学校でも1、2を争うほどだ。

 富士の高嶺のように盛り上がったお胸に、むっちりとして健康的な太もも。

 それに青い瞳を湛えたロリ顔から放たれる冷めた視線。

 いつも男子の噂になる。

 格好いいとか、たまに恐いとか、可愛いとか、エロいとか。


「えと……嫌いっていうよりさ、なんで急にこんなことをするのか、わからないんだけど……?」


 彼女と話すようになってから、まだそれほど長くはない。

 普段はあまり笑わない彼女とは、あまり会話も弾まない。

 むしろ嫌われているんじゃないかって、ずっと思っていた。

 それでも、初めて言葉を交わしたころよりは、ずっと仲良くはなったと思うけど。

 でもさ、いきなりこんなのって……


「馬鹿……急にじゃないわよ、鈍感……」


「え、何か言ったか?」


「べ、別に……」


 頬を赤らめて、怒ったような顔になる真鈴。

 なんだろ、いつもつんつんしてることが多いけど、こんな顔もできるんだ。

 拗ねたような上目使いの表情が、胸をくすぐってくる。


「そのかわり、沙羅さら様のことは諦めて。沙羅様には大事な人がいるから。これ以上あなたと仲良くなると、沙羅様にとってよくないから……」


 え、沙羅? 

 なんでこんなとこで、沙羅の名前が出てくるんだ?


「いや、俺は別に彼女とは何も……」


 確かに、沙羅とも仲良くなった。

 普通にしゃべって、学校以外でも会ったりして。

 けどだからと言って、彼女に変な感情を抱くなんて、恐れ多いことだ。


「嘘。二人ともとっても仲が良さそうじゃない。でも知ってるでしょ? 沙羅様には大切な許嫁がいるの。だからあなたは身を引いて欲しい。その代わり……私を……」


「……私を、何だよ……?」


「す、好きにしていいから……」


 そう恥ずかしそうに呟きながら、また白いシャツのボタンに手をかける。


「あのさ……私、初めてだから……」


 ダメだ、わけが分からないけど、俺の理性は火薬庫に火がついたみたいで、誘爆寸前だ。

 一体どうなってしまうのだろう、俺……?


 なんでこんなことになったのだろ?

 それは、少し話を遡ることになるんだ。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る