第25話 アレを禁止する

 クラス委員の藤崎は真面目な優等生であり、女子のリーダー的な存在でもある。

 そして女子にはもう一人、リーダー格の人物がいる。

 俺の幼なじみ、剣崎真由だ。その腕っぷしの強さとクソ度胸の持ち主である事から、剣崎は女子連中の信頼が厚い。

 藤崎が表のリーダーなら、剣崎は裏のリーダーか。どちらも気が強いというのが共通しているが。


「永瀬君、ちょっといい? 生徒会に提出しなくちゃいけない、アンケートについてなんだけど」

「ああ、いいよ。アンケートがどうしたって?」


 俺が男子のクラス委員をやる事になったため、藤崎とは割とよく話すようになった。

 元々、同じ中学の出身で顔見知りだからな。藤崎はキツイところもあるが、基本真面目で話しやすいし。


「じゃあ、そんな感じで。男子の分は任せるわ」

「おう、任せてくれ」


 打ち合わせを済ませ、藤崎は自分の席に戻っていった。

 そこへ入れ替わりに、俺の席に近付いてくるヤツがいた。


「……最近、藤崎とよく話してるよな」


 それは剣崎だった。

 剣崎は自分の席に着いた俺を見下ろし、どこか冷たい目をしているような気がした。

 なんだ? ちょっと怒ってないか?


「まあ、同じクラス委員になったわけだし。話ぐらいするさ」

「ふーん。本当にそれだけか?」

「どういう意味だ?」

「ほら、藤崎って胸がアレだから……アレを間近で見たいがために、なんか理由付けて話をしてるんじゃないのか?」

「んなわけあるか! おかしな疑いをかけるな!」


 わけの分からない事を言ってきた剣崎に、俺は頭が痛くなった。

 アレというのはアレの事だろうという予想は付く。剣崎はあまり口にしたくない単語なのだろう。

 それは分かるんだが、そんな事をするために、俺が藤崎と話をしてるだって? 言い掛かりもいいところだな。

 「本当か? 正直に吐け!」とでも言いたそうな顔をした剣崎に、冷静に告げておく。


「あのな。何度も言うようだが、俺にそういう趣味はないから。いい加減、信じてくれよ」

「だって……相変わらず、胸がアレなのをガン見してやがるし、信用できる要素がないじゃんか。真面目なのは口だけで、行動が伴ってないんだよ、このムッツリ」

「そ、そんな事はない……と思いますが……」


 おかしいな。そんなに見てるか?

 むしろ見ないように気を付けてるつもりだが、無意識のうちに目を向けているのかもしれない。


「クラス委員がそういう事じゃダメだろ。しばらくアレは禁止にしろ」

「アレを禁止って……具体的にはどういう……?」

「見るの禁止、見に行くの禁止、ネットで画像収集や閲覧も禁止な。もちろん、触るのも禁止だ!」

「い、いや、見るの禁止って……視界に入れるのも駄目なのか?」

「視界に入れるのはいいけど、アレを重点的に見るのは禁止だ! お前がいつもやってるようにな……」


 なんだか知らないが、剣崎に禁止令を出されてしまった。

 別になにか問題を起こしたわけでもないのに、理不尽すぎる。

 そもそも何の権利があってそんな事を言うんだ? 意味が分からない。


「幼なじみだからに決まってるだろ。秋洋が性犯罪で捕まったりしないように矯正してあげようとしてるんだよ。ありがたく思え!」

「ありがた迷惑だな……」

「なんだとコラ!」


 そして、次の休み時間。

 再び藤崎が俺の所へ来て、クラス委員の仕事について打ち合わせをしてきた。

 先日、衣替えになったために、女子は皆、ブレザーの上着を着ておらず、半袖のブラウスにリボンタイという服装だ。

 当然ながら藤崎も皆と同じ服装で、半袖のブラウスを着ている。

 藤崎はとても発育がいいので、胸回りがすごい事になっているわけだが……いかん、見ないようにしないと。


「それでね、アンケートについてだけど……もしもし、聞いてる?」

「……聞いてるよ」

「どうして私の方を見ないの? なんだか何もない空間を見ているみたいだけど……」

「それはその、実は、禁止されていて……」

「禁止? よく分からないけれど、人と話す時はちゃんと相手の方を見るべきでしょう。こっちを向いて」

「……」


 仕方なく、藤崎に目を向ける。

 するとすさまじく自己主張している胸のふくらみが目に飛び込んできた。

 別に小さめのサイズのブラウスを着ているわけでもないのに、なんで胸回りだけ異様に盛り上がってパツパツになってるんだろう。

 アンダーシャツを着ているのか、ブラの形状や柄なんかが透けて見えないのが残念……じゃなくて幸いだが。

 くっ、なんて大きさなんだ。目をそらそうにもそらしきれない。大きすぎてどうしても視界に入ってしまう。

 ううっ、俺は一体、どうすればいいんだ……?


「って、アホか!」

「あうっ!」


 横から手が伸びてきて、眉間のあたりにチョップを打ち込んでくる。

 俺の視界を遮るようにして攻撃してきたのは、剣崎だった。

 剣崎は俺を冷たい目でにらみ、叱りつけてきた。


「普通に、顔見て話せばいいだろ! なんで特定の部位をガン見してるんだよ!?」

「い、いや、しかし……これだけ立派だと、つい目が……」

「少しは自重しろよ! クラス委員がそんなんじゃダメだろ!」


 うわあ、なんかすげえ怒られてる。正論だけに返す言葉がないぜ。

 剣崎は俺を叱りつけ、藤崎に目を向けた。


「このアホが迷惑かけてごめんな? どうしようもないムッツリ野郎だけど、見捨てないであげてくれ」

「私は別に……あの、そんなに怒らなくてもいいんじゃない? ちょっとかわいそう」

「いいや、甘やかしちゃダメだ。この野郎と来たら、いっつも私の事をうるさく注意するくせに、自分は女子の胸ばっか見てるんだぞ? そんなの許せないだろ?」

「それは……確かに、ちょっと嫌かもね」


 藤崎が苦笑し、剣崎が「それ見ろ!」とか言って俺を小突いてくる。

 くっ、なんで俺がこんな目に……いい加減にしないと俺は泣くぞ?


「自分の彼氏が他の女子の胸ばかり見ていたら嫌よね……」

「えっ? い、いや、違うぞ! こんなの彼氏なんかじゃねーし! 私はただ、幼なじみとして注意してやってるだけで……」

「あら、そうなの? 二人はすごく仲いいから、もう恋人同士なのかと……違うんだ?」

「全然違う! 誤解しないでくれ!」


 剣崎は懸命に否定していた。

 いや、確かに単なる幼なじみであって、恋人同士なんかじゃないけど。

 そこまで必死になって否定しなくてもよくないか? そんなに嫌なのかよ。


「それなら、剣崎さんに遠慮して、親しくしないようにする必要もないのかな?」

「えっ?」

「ほら、彼女がいる人とあまり親しくしていたら誤解されるでしょう? そういうのよくないと思って」

「そ、そうだな」

「でも、そうじゃないのなら遠慮しなくてもいいのかな。付き合っているわけじゃないのよね?」

「あ、あー、うん。違うぞ」


 剣崎に確認を取り、藤崎は笑みを浮かべた。

 俺の肩に手を置き、身を寄せてくる。


「それじゃ永瀬君、アンケートについてだけど」

「いや、ちょっと待て! 近すぎるだろ!」

「えっ、そう? このぐらい普通じゃない?」

「明らかに近すぎるだろ! 距離感バグッてんのか?」


 剣崎が抗議すると、藤崎は俺から離れ、クスッと笑った。


「剣崎さんの反応を見てみたかったんだけど……なるほど、今ぐらいのだと近すぎるのね?」

「そ、そうだよ。もうちょっと距離を取ってだな……」


 すると藤崎は、また俺の肩に手を置いて、身を寄せてきた。


「このぐらい?」

「さっきとほぼ同じだろ! 近すぎ!」

「じゃあ、このぐらい?」

「まだ近すぎる! なんで数センチ単位でしか離れないんだ?」


 気付けよ、剣崎。明らかにからかわれているぞ。

 なんか俺は剣崎をからかうための道具にされてるみたいだし。

 しかし、さっきから藤崎の立派すぎる胸のふくらみが俺の腕に微妙に当たってきていて、緊張してしまうんだが。

 わざとやってるのか? 気持ちいいので非難はしないが。藤崎もなかなかいい性格してるよな。


「もっと離れろ! もっともっと! 二メートルぐらい!」

「それはちょっと離れすぎじゃない? 声が聞き取りにくいわ」


 とうとう剣崎は俺と藤崎の間に入り、強引に藤崎を離れさせた。

 俺の肩に手を置き、藤崎よりもさらに身を寄せてくる。

 ちなみに剣崎の控えめな胸と俺の腕との間には大きな隙間が開いていて、なにも当たっては来なかった。

 少し寂しいな、とか言ったら殴られるだろうな。黙っとこう。


「剣崎さんの方が近すぎるんじゃない?」

「私はいいんだよ、幼なじみだから! このぐらいが適正な距離なんだ」

「でも、付き合ってはいないのよね?」

「そうだけど。彼女なんかよりも距離が近いのが幼なじみなのさ。確か、そういうお約束があったはずだぞ!」


 それって今考えたんじゃないのか? 聞いた事があるようなないような。

 にしても、相変わらず負けず嫌いだな。自分の方が親しい間柄だって言いたいのか。

 そういう態度だから、誤解されたりからかわれたりするんじゃないかと思うんだが……。


「剣崎さんって面白いわ。ふふふふ」

「な、なにがおかしいんだ? 怖いから笑うなよ」

「うふふふ」


 散々からかってから、藤崎は自分の席に戻っていった。

 やれやれだな。あんまり剣崎で遊ばないでほしいぜ。俺が八つ当たりされそうだし。


「なんなんだ、あいつは……さては秋洋を誘惑して自分専用のオモチャにするつもりなんじゃ……」

「そんなわけないだろ。からかってるだけだよ」

「いーや、分からないぞ。お前がアレに弱いのを知ってるみたいだし、油断できないな」

「考えすぎだろ」


 藤崎にならオモチャにされてもいいなあ、とか馬鹿な事を考えてしまった。

 ありえないよな。でも、真面目そうな巨乳の眼鏡っ子にいじられるのは悪くないかも……。


「くぉら、秋洋! 他の女ばっか見てんじゃないぞ!」

「い、いや、別にそんな事は……」


 「私だけ見とけばいいの!」などと言う剣崎に困ってしまう。

 そういう事を言うから誤解されるんだぞ。少しは考えて発言しろよな。

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