第10話 付き合ってる?
「永瀬ってさー。真由と付き合ってるわけー?」
「!?」
教室にて、休み時間。
天気の話でもするようにして、軽い口調でとんでもない事を言ってきたのは、同じクラスの女子、田所だった。
中肉中背、短めの髪を金色に染めていて、割と美人だがちょっとヤンキー入っている女子で、剣崎の友人だ。
「そんなわけないだろ。なにを言ってるんだ?」
「でもさー、学校の行きも帰りも一緒の時が多くない? それってやっぱり……」
「近所に住んでる顔見知りだからだよ。他に理由はない」
俺がキッパリと否定すると、田所は納得できないという顔をしていた。
「真由に訊いても同じ事言うんだよね……でもあいつ、ツンデレだからな……」
女友達から見ても剣崎はツンデレなのか。あんな凶暴なツンデレはそうはいないだろうけど。
「で、本当はどうなのよ? 付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってない。何度も言わせるなよ」
「えー?」
やはり田所は納得できないらしい。妙な笑みを浮かべながら、俺に問い掛けてくる。
「でもさ、仲いいよね? 家に遊びに行ったりしてるんでしょ?」
「いや、最近はさすがに……用事がある時ぐらいしか家に行ったりしないよ」
「えー? 真由は永瀬が朝起こしに来たって言ってたけど?」
あの馬鹿、そんな事まで話してるのか。
ここはきちんと説明しておこう。
「その時はたまたまだ。朝会う約束してたのに来ないから、あいつの家に行ったんだよ」
「じゃあ、この前の日曜日は? 永瀬んちに遊びに行ったって真由が言ってたけど」
それも話しちゃったのか。別にやましい事は何もないが、誤解されそうだよな。
「いや、それもたまたま……剣崎が暇でたまらないから相手をしろって言ってきて……」
「はい、ダウトー!」
「!?」
田所は俺に人差し指を突き付け、ニヤリと笑った。
「真由からはなにも聞いていませーん! 日曜日、遊びに行かない? って誘ったら『用事がある』って言われただけ!」
「な……なんだって?」
「やっぱり永瀬と遊んでたんだ? 予想してた通りだったわー!」
なんてこった、見事に引っ掛かってしまった。
恐ろしいヤツだぜ。剣崎の友人という立場を利用して、さも本人から聞いたように言うとは……。
「二人でなにしてたのよ? ま、まさか、一八禁的なやらしい事?」
「んなわけあるか! 普通にゲームしてただけだ!」
「一八禁のゲーム?」
「小学生でもできる一般向けのゲームだよ!」
俺がややキレ気味に叫ぶと、田所はなぜかため息をついていた。
「いや、それがマジならダメじゃん。なに普通にゲームで遊んでんのよ?」
「えっ? なにか変か?」
「休日に、部屋で二人きりだったんだろ? ならもっと、色気のある展開に持っていかなきゃダメでしょうが! それが男の甲斐性ってもんだろ!」
「ええーっ……」
今度は田所がキレ気味になり、俺は困惑した。
田所は割とユルユルした感じのヤツだが、感情的になると途端にヤンキーっぽくなる。
さすがは剣崎の友達だよな。普通の女子とはちょっと違う。
「手ぐらい握ったの?」
「い、いや……手には触ってないかな」
「あー、もう、ほんとダメダメだね。ゲームしてたんなら、操作方法教えるフリして、こう、後ろからくっついてさ。コントローラーに手を添えて、さり気なく手を握るぐらいしなきゃでしょ」
「そ、そうなのか? 田所は詳しいんだな。そういう経験があるのか?」
「んー、あたしぃ? まあ、そこそこね……」
さすがはギャルっぽいヤンキー系、男との付き合い方にも精通しているのか。
同じ学校の人間に付き合っているヤツはいないみたいだが、大学生とかと付き合っているのかもな。
別に剣崎になにかするつもりはないが、参考のため、田所に色々と訊いてみるか。
将来的に、なにかの間違いで俺に彼女ができた時、役に立つかもしれないし。
「秋洋となに話してんだよ、竜子」
「げっ、真由……!」
ふらりと現れたのは、クラスで一番ちっこくて髪の長い女、剣崎真由だった。
剣崎は俺と田所を交互に見て、不審そうにしていた。
「いや、田所は色々と詳しいみたいだからさ。女子との付き合い方について教えてもらおうかと」
「竜子が男と女の付き合い方に詳しいって? そんなわけないだろ」
「えっ?」
「コイツ、生まれてから今までずっと、彼氏なしの人生だから。付き合い方なんて知るはずないっての」
「ええっ? そ、そうなのか?」
すると田所は目をそらしながら頬を染め、恥ずかしそうに呟いた。
「う、うるさいな! 経験はないけど、普段から情報集めしてるんだよ! ハッキリ言って彼氏持ちより詳しいし!」
「知識があっても相手がいないんじゃどうしようもないだろ。なあ、秋洋?」
「えっ? ま、まあ、そうかもな」
なぜか勝ち誇ったように笑う剣崎をにらみ、田所はギリギリと歯噛みしていた。
「くそう! 自分には男がいるからって上から目線かよ! どうせ、あたしには幼なじみも彼氏もいないよ!」
「りゅ、竜子? 私は別にそんなつもりじゃ……秋洋なんてただの幼なじみだし」
「嘘つけ! いっつも『秋洋がー、秋洋がー』ってうるさいくせに! 本当は大好きなんだろ!」
「ば、馬鹿野郎、全然そんなんじゃないし! ただの幼なじみだって言ってるだろ!」
剣崎が顔色を変え、俺の方をチラチラと見ながら、頬を染めて言う。
なんか妙にかわいい反応だが……照れてるのか?
「はあ、いいよな、真由は。雑に絡んでも、優しく受け止めてくれる幼なじみがいてさ。さっさと付き合っちゃえばいいのに」
「ばっ、馬鹿! そんなんじゃないって言ってるだろ! だ、誰が秋洋なんかと……」
「なんだよ、いらないの? なら、あたしがもらっちゃおうかなー?」
「……あ゛っ?」
田所がヘラヘラ笑いながら冗談めかして言った途端、剣崎は顔色を変えた。
「……ふざけんなよコラ。秋洋に妙な真似しやがったらマジで殺すぞ?」
剣崎が目付きを鋭いものに変え、田所をにらみ付ける。
そこらのヤンキーなんざ泣きながら土下座するレベルの、殺意全開の眼差しを受け、田所は真っ青になっていた。
「じょ、ジョークだよ、ジョーク。ひ、人殺しの目でにらむなよな……」
「ならいいけど。発言には気を付けろよ」
やたらと低い声の剣崎に脅され、田所は震え上がっていた。
怒った剣崎は洒落にならないぐらい凶暴だからな。田所に同情するぜ。
しかし、なんでそこまで怒るんだろう。俺の事でからかわれたのが気に入らなかったのかな。
「剣崎、ちょっと手を出してみてくれ」
「手を? こうか?」
剣崎が差し出してきた右手を、俺は右手で握ってみた。
途端に剣崎が目を丸くして、俺に問い掛けてくる。
「な、なんだよ、これ。なんの真似だよ……」
「いや、田所が言うには、手ぐらい握るのが男の甲斐性だとかなんとか……これでいいのかな?」
「ば、馬鹿、そういうのは誰もいないところで……じゃなくて、よくねえから! 竜子の言う事なんか真に受けるなよな!」
「じゃあ、手を握るのは駄目なのか。なにが正解なのか分からないな……」
「もっとすごい事したくせに。今さら手を握るとか、なに言ってんだよ?」
剣崎が呆れたように呟くと、田所が目をキラキラさせながら迫ってきた。
「もっとすごい事ってなに? ま、まさか、マジで一八禁的なイベントクリアしちゃったとか?」
「んなわけねーだろ! そんなんじゃなくて、その……秋洋が無理矢理……って、ここじゃ言えないな……」
「む、無理矢理なにしたの? 永瀬って草食系かと思ってたけどそうでもなかったの?」
「いや、コイツってば結構強引だぞ? いくら私がやだって言っても力ずくで抱き締めたりしてくるし……」
「マ、マジで? 大人しそうな顔してるくせに、実は肉食系の俺様タイプ? ふええええ……」
勝手に盛り上がっている剣崎と田所を見つめ、俺はため息しか出なかった。
俺を何者にしたいんだ、コイツら。絶対、面白がってるよな。
まあ、冗談で言ってるうちはいいが……変な噂とか流さないだろうな。
「……ところでさ、永瀬」
「なんだ?」
「いつまで真由の手を握ってんの? さっきからずーっと握ったまんまじゃんよ」
「あっ! い、いや、これはその……なんか、ちっちゃくて握りやすいから、つい……」
見ると剣崎は、俺から顔をそむけ、頬を染めていた。
いくら男っぽい剣崎でも、友達の前で異性からずっと手を握られていたら恥ずかしいのか。まあ、当然だよな。
「わ、悪い、剣崎。すぐ放すから」
「あー、うん。べ、別にあんたが握っていたいんならそのままでもいいけど……その代わり、周りにバレないようにしてよ」
「えっ?」
「……」
すると田所が、呆れ返った顔をして、ツッコミを入れてきた。
「いや、あたしが見てるし! そういうのは誰も見てないところでやりなよ!」
「竜子は友達だから、見て見ぬフリしてくれると思う。そうだよね、竜子?」
「くっ、そういう言い方をされると、見て見ぬフリをするしか……よし、分かった! 友達として、真由と永瀬がイチャイチャしてるのを黙認してあげようじゃないの! あたし以外には見えないようにしなよ?」
「サンキュー、竜子。ほら秋洋、好きなだけ私の手を握ってるといいよ。周りには気付かれないようにね」
「お、お前ら……俺で遊ぶのはそのぐらいにしとけよ……」
とりあえず、剣崎の手を放しておいた。
握力が二〇〇キロもあるというのが信じられない、小さくて柔らかい手だった。
たぶん、本気を出せば俺の手ぐらい握り潰せるんだよな。
なのになんで、こんなに華奢で握り心地がいいんだろう。実に不思議だ。
「私を抱っこした事、竜子には内緒な?」
「わ、分かってる。お前こそ誰にも言うなよ」
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