第9話 幼なじみと登校
朝、ダイニングで朝食をとっていると、来訪を告げるチャイムが鳴った。
誰も応対に出ようとしないので、仕方なく俺は席を立ち、玄関へ向かった。
どうせセールスかなにかだろうと思い、玄関ドアののぞき窓から来訪者の姿を確認する。
それが顔見知りの人物だったので、俺はドアを開けた。
「おはようございます! ……って、なんだ、秋洋か」
「なんだじゃないだろ。朝っぱらからなんの用だ?」
そこに立っていたのは、制服姿のちっこい女、剣崎真由だった。
うちの家族の誰かが出てくると思ったのか、剣崎はきちんと挨拶をしてきて、相手が俺だと分かるとがっかりした顔をしていた。
「つか、なんでもう起きてるんだよ! まだ寝てろよな!」
「俺はいつもの時間に起きてるだけだが。なんで寝てなきゃいけないんだ?」
「寝てないと起こせないだろ! 今日こそは『朝起こしに来てくれる幼なじみ』をやってやろうと思ったのに!」
コイツ、まだそんな事にこだわってるのか。意外としつこいな。
「それをやるのなら、あと一〇分か一五分早く来ないと。今頃来ても遅すぎるぞ」
「えー、今日だって無理して早起きしたのに……あんたが寝ててくれた方が楽なんだけど」
「知るか。お前の都合に合わせてやる義理はない」
「うわっ、感じ悪っ! せっかく優しい幼なじみが起こしに来てあげたのにさー」
俺と剣崎が玄関先で揉めていると、うちの姉貴が声を掛けてきた。
「あら真由ちゃん、久しぶり。秋洋を迎えに来てくれたの? 上がって待ってなさいよ。お茶でも飲む?」
「お、おはようございます。じゃあ、ちょっとだけ」
姉貴に手招きされ、剣崎はおずおずと家に上がってきた。
昔から近所に住んでいて、よく遊びに来ていたので、うちの家族と剣崎は顔なじみだ。
ちなみにうちは両親と姉と俺という、四人家族だ。
剣崎をダイニングに招き入れ、姉貴は機嫌よさそうに笑っていた。
「真由ちゃん、秋洋を迎えに来たの? すっごく久しぶりだから驚いちゃった」
「ど、どうも。ご無沙汰してます……」
「しばらく遊びに来てなかったから秋洋とは疎遠になってると思ってたんだけど、今も仲良しなんだ? ふーん……」
姉貴はニヤニヤして、意味ありげな視線を俺に送ってきた。
よせ、やめろ。そういうんじゃないんだからな。
うちの両親は共働きをしていて、家を空けている事が多い。
今朝も両親は既に仕事に出ていた。朝食は姉貴と交代で作る事が多く、今朝は俺が用意した。
剣崎は俺の隣に座り、カフェオレを飲んでいた。さすがに家族の前だといつもより大人しい。
俺は手早く朝食を済ませ、急いで登校の準備をした。
剣崎を促し、家を出る事にする。
なんか姉貴がヒューヒュー言っていたが……あとで注意しておこう。
「お姉ちゃんがさあ、お願いだから秋洋を捨てないでって。私とあんたが付き合ってると思ってるみたい」
「聞き流してくれ。姉貴は昔から恋愛脳だからな。すぐ恋愛ごとに結び付けるんだ」
制服姿の剣崎と並んで歩く。
こういう行動を取るから誤解されるのかもな。
顔見知りなんだから並んで歩くぐらい普通だと思うんだが、そうは思わない人間もいるって事か。
「起こすのは失敗しちゃったか……でも、一緒に登校するっていうのは幼なじみっぽいよな?」
「そりゃまそうだが。このぐらい、幼なじみじゃなくても別に……」
俺がため息交じりで呟くと、剣崎はムッとしていた。
なにを思ったのか、ニヤリと笑い、俺に身を寄せてくる。
「じゃあさ、こういうのは?」
「!?」
剣崎は真横からくっついてきて、左腕を俺の右腕に絡めてきた。
いくら顔見知りでも、これはさすがに距離が近すぎる。
俺はうろたえ、剣崎を注意した。
「お、おい、よせって。知り合いに見られたら誤解されるぞ」
「このぐらい平気だろ。文句言うヤツがいたらぶっ飛ばせばいいんだよ」
無茶言うな。お前はそれでいいのかもしれないが、俺はそうもいかない。
こんなの見られたらまた噂されるよな、絶対。
同じ学校の連中はもちろん、近所の人に見られるのもマズイと思うんだが、剣崎は平気なのか?
「ふふ、面白いなー、秋洋は? 私みたいな男女といくらくっついても平気じゃなかったっけ?」
ニヤニヤしながら、俺に絡ませた腕に力を込め、ギュッと密着してくる剣崎。
剣崎は小さいくせにパワーがあるため、俺にはコイツの腕を振りほどく事ができない。
そして、信じられない事実だが……コイツ、ペタンコかと思ったら、意外と胸があるぞ……!
なんか柔らかい、丸みを帯びたふくらみが、ムニュムニュと腕に当たっている。
最初は何かの間違いじゃないかと思ったが、これは正真正銘、女の胸だ。いわゆるおっぱい。
小柄で背が低くて、見た目はペタンコの、男子小学生みたいな性格をした剣崎に、こんな女の子っぽいオプションが備わっているとは……。
「け、剣崎。その……も、もう少し、離れた方が……」
「別にいいだろ、これぐらい。それとも照れてんのか? 幼なじみの私にくっつかれてドキドキしちゃってるとか?」
剣崎は真横から俺を見上げ、楽しそうにニヤニヤしていた。
くそ、この暴力女め。外見だけは美少女だから参ってしまう。かわいい顔で笑うんじゃねえ。
おまけに胸が……フニュフニュと当たりまくってるし。制服の上からだとペタンコにしか見えないのにどうなってるんだ? 女の胸っていうのは、小さく見えてもこんなにボリュームがあるものなのか。
しばらく歩いていくと、学校に近付くに連れ、同じ学校に通う生徒の姿が増えてきた。
歩きでも通えるというのが、あの高校を進学先に選んだ理由でもあるんだが。この状況はマズイな。
知り合いに見られたら、絶対に誤解される。早くなんとかしないと。
「ふふふ。なあ、秋洋。このまま学校まで行って、教室に入ったらどうなるかな? 試してみようぜい」
「お、お前、正気か!? めちゃめちゃ冷やかされるぞ! 今までだって結構誤解されてるのに!」
「それってさ、私の事を女扱いしてるって事になるよな? なら悪くないかも。いっつも男扱いされるから、むかついてるんだよなー」
剣崎も恥ずかしいはずだと思ったんだが、ヤツには別の思惑があったらしい。
男女を問わず、男扱いされているのが気に入らなかったようだ。だったら普段から女の子っぽく振る舞えばいいと思うんだが。
しかし、そんな理由で付き合わされるなんて冗談じゃないぞ。なんとかしなければ。
「な、なあ、剣崎。クラスのみんなから女扱いされたいのなら、もっといい方法があるぞ」
「ほんとか? どうするんだ?」
「簡単だよ。ちょっと試してみよう」
剣崎をうながし、適当な脇道に入る。
人目がないのを確認し、俺は剣崎に指示を出した。
「まず、腕を組むのをやめて……俺の前に来て、横を向くんだ」
「お、おう。こうか?」
「そうそう。それじゃ、いくぞ」
「!?」
右手で剣崎の肩を抱き、左手を剣崎の両膝の裏側に持っていき、抱え上げる。
剣崎は小柄で軽いので、抱え上げるのは驚くほど簡単だった。
目をぱちくりさせている剣崎をしっかりと抱え込み、姿勢を安定させる。
「俗に言う、お姫様抱っこってやつだ。これなら女扱いされる事受け合いだぞ」
「い、いや、そりゃそうだろうけど。いくらなんでもこれは……は、恥ずかしいよ、秋洋……」
「だろうな。俺も恥ずかしいし」
「うー……」
剣崎は耳まで真っ赤になり、ちょっと泣きそうになっていた。
おかげで俺まで恥ずかしさのあまり赤面してしまった。これはちょっとやりすぎだったか。
「さすがにこれは、やめた方がいいみたいだな……」
「う、うん。ちょっと上級者向けかも」
「にしても、剣崎は軽いな。軽すぎてびっくりだ」
「う、うるさいな。これでも少しずつ成長してるんだからな! ナイスバディに成長しても驚くなよ!」
「いや、そんなに成長しなくても……そこそこでいいんじゃないか?」
「?」
そこからは普通に、二人で並んで歩き、登校した。
クラスの連中に「夫婦で登校かよ」などと言われ、剣崎がブチ切れて暴れそうになったりしたが、俺が取り押さえておいた。
まあ、なんだ。本人が思っている以上に、剣崎は女の子っぽく成長してるんじゃないかな。
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